バニラ・ラテと万華鏡
「このまま帰るからいい」
「でも」
「いいってば」
俺は葵の声を振り切って、外れてしまったロードバイクのチェーンを直しサドルに腰掛けた。まだまだ残暑厳しい日が続いている。俺は苛立って、付けていたピアスを葵に投げ付けてヘルメットを被った。暑い。
「先に帰ってるから、ちゃんと帰ってきてね」
葵は心配そうにそう言うと車で先に帰っていく。俺は溜息を吐いてペダルを踏み込んだ。
「はっ、はっ」
自分の呼吸音だけが聞こえる。視界はぶれて、今にも倒れそうだ。しかしここで倒れる訳にはいかない。葵が勝手に調整したロードバイク、俺はそれに苛立ちつつも嬉しく、こうして山奥まで来てしまった。葵はそれを心配して車で後から付いて来たのだ。子供じゃあるまいし。
俺はボトルの水を首にかけてからそのまま口を付けて飲んだ。すぐに空になってしまった。水はすぐに蒸発して俺の体温を少し下げる。心地よい。
久々に取れた平日の休み。朝から葵が何をしているのかと思えば、俺のリドレィの調整だった。どこで覚えたのか、大学の自転車部のマネージャーだった彼女にはお手の物だっただろう。俺はそれに苛立っていた。何故か分からないが、無性に腹が立ったのだ。触れて欲しくない過去に、土足で入られた感じだ。大学時代、俺は自転車部に所属していた。インカレにも出た。結果は芳しくなかったが、それでも蓮と走ったあの道は忘れられない。俺と蓮の過去を汚された気分だったのだ。この苛立ちは走って解消するしかなかった。
山は深く、俺は規則正しく呼吸をしながら登っていく。国道沿いの山道、俺と蓮が子供の頃から自転車で走って来た道でもある。
時計を見た。昼過ぎ二時、帰ったら食事が用意されているだろうか。俺はまた水を飲もうとしてボトルに手を掛けるが、空になっている事を思い出す。ついてない。
俺の視界は時々ぶれた。仕方がないのでこのまま山を下りて十分程したところにある那瑠の店に寄ろう。帰るのが億劫だった。
俺は方向転換して山を下り始めた。スピードが出て、気持ちがよい。俺は苛立ちを忘れて暫しの快楽に身を委ねる。どうして苛立っていたのか忘れた頃、それは那瑠の店の前に着いた頃だった。俺の意識はそこで途絶えた。
「逹!おい逹!しっかりしろ」
遠くで那瑠の声が聞こえる。バシャっと水をかけられた。どのくらい気を失っていたのか分からないが、そう長い時間では無いだろう。俺は那瑠の店の前に倒れていた。
「聞こえるか!」
「ん……」
声が上手く出せない。俺は聞こえてると手を振って答える。
「熱中症だ、歩けるか?」
「う……」
俺は酷い頭痛を感じて蹲る。
「仕方ない、ちゃんと捕まれよ」
那瑠は俺を担いで裏の方に回り玄関に入ると、自分のベッドに連れて行ってくれた。どさっと下ろされて、応急処置を施される。保冷剤を脇と太腿の付け根に挟み、冷えピタを貼り、冷房を付けてくれた。
ポカリ飲めるか、と那瑠が聞いてくれたが呻く事しか出来ない。
「仕方ない、我慢しろよ」
那瑠はポカリを自分の口に含んで俺の口に移す。俺は咳込みながらもそれを飲んだ。
「あとは暫く安静にしてろよ」
俺は小さく頷いて目を閉じた。すぐに意識は無くなった。
一時は焦った。店に来た客から、那瑠さん店の前で人が倒れてます、なんて言われたら誰でも焦るに決まっている。しかもそれが自分の双子の弟だと分かった時の焦りは半端じゃない。熱中症らしいと分かったので、取り敢えずバケツに水を入れてぶっかけてみたが、思ったよりも症状は重く救急車でも呼ぼうかと思った。意識が無くなるレベルの熱中症ならそうした方が良かったと思ったが、ピアスをしていないことに気が付いて辞めた。喧嘩でもしたのだろうか、ここで葵を呼んだら逹は落ち込むかもしれないと思ったのである。
一通りの処置を施し、自転車を裏の方に隠し、葵に連絡してみた。
「もしもし」
「もしもし、今日子供ら連れて遊びに来いよ」
「え、いいの」
「暇だからさ」
「分かった、すぐ行くね」
時間は三時、幼稚園の迎えもそろそろだろう。
葵はすぐにやってきた。子供らが遊ぶスペースを作ってやると、有希達は喜んで遊びだした。
私は逹の事をそれとなく訊いてみる事にした。
「最近夫婦仲はどうだ」
「え」
葵のカフェ・オレに口を付けようとした手が止まる。やはり何かあったのだ。
「何かあったのか」
「うーん、上手く言えないんだけど、私がロードバイク調整したら怒っちゃってさ」
「怒った?」
「うん」
珍しいなと思った。普段怒る事が少ない子だから、何故怒ったのか考える。
「やっぱり私と結婚したのって失敗だったのかな」
「そんなに思いつめるなよ、きっと虫の居所が悪かった所為さ」
「そうかなあ」
「そうだよ」
私はチュロスを用意し始める。子供達はここに来たらおやつを貰えると思っている節があるので、その期待に答えなければならない。カラッと揚げてシナモンパウダーを軽く振りかける。
「いい匂いだね」
「子供等のおやつに」
「いつもありがとう」
「いえいえ」
私は出来上がって冷ましたチュロスを丁寧に紙に包んで、それを四つカウンターに置いた。
「有希、晴樹、夏生、秋良、那瑠ちゃんがおやつ準備してくれたよ」
葵が声を掛けると、四人は我先にとカウンターに陣取った。そして行儀良くいただきますと言うと包みを捲って丁寧に食べだした。食べている間は静かである。
「いいな」
「ほれ、これでも眺めてろ」
私はちょっと大きめの箱を取り出して丁寧に包みから出した。大きなガラス製の万華鏡である。
「わあ綺麗、どうしたのこれ」
「この間の休みに蓮とガラス館に行ったんだ」
「高そう…」
葵はそろそろとそれを覗き込んでクルクルと先に付いている円球を回す。
「それで、逹は今どうしてるんだ」
私は逹が寝込んでいる事を隠してそう訊く。少しだけ罪悪感が残ったが。
「今走りに行ってる、帰って来るかな」
葵はポケットから大事そうに紅いピアスを取り出してカウンターに置いた。
「投げ付けられちゃったんだよね、まあヘルメット被る時に邪魔になるのは分かるんだけどさ」
「そうか。それにしても何が気に食わなかったんだか」
「インカレで俺の青春は終わったって言ってたから、まだまだ走れるよって思って調整したんだけどな」
「うーん」
本当に虫の居所が悪かっただけなのだろうか。益々不思議だ。しかし何も考えていなさそうな見た目の癖にこだわりは強い方だから、何か思うことがあったのだろう。
「まあそのうちケロッとしてまた元に戻るさ、そんなに気を落とすなよ」
「うん…」
子供達が遊び疲れた所で葵は帰って行った。相当落ち込んでいた様だったから万華鏡を貸してやった。
目が覚めると体は楽になっていた。時間は十七時過ぎだ。俺は憂鬱な気分のまま蓮にメールを打った。
「なぁ、久し振りにあの場所に行こうぜ」
俺はそれだけを打つとまた目を閉じた。コンコンと部屋をノックする音が聞こえて起き上がる。
「体調はどうだ」
「良くなった」
「そりゃあ良かった」
那瑠は雑炊とチュロスを持って来た。無言でサイドテーブルに置くと、食えとしゃくって見せる。
俺はまずその食べやすそうなチュロスを手に取った。まだ温かい。そしてそれをガツガツと食してから雑炊に手を付ける。那瑠は未だ無言だ。
「あっつ」
「冷まして食えよ」
ケラケラと笑う姿が懐かしくて涙が零れた。結婚して六年、那瑠と会う機会も減って、こうして那瑠の手料理を食べる事も激減した。
「おい、大丈夫か」
俺は気が付けばしゃくりをあげて泣いていた。自分で止める事は困難だった。
「もしやお前ホームシックだな」
那瑠は優しく笑って背中をさすってくれる。その通りかもしれなかった。俺は那瑠に抱き着いて、その懐かしい匂いを吸い込んだ。昔から俺は泣き虫で、よく那瑠にこうしていたなと思い出す。
「実家に帰ってみたら」
「うん」
俺は何とか泣き止んで頷いた。
「那瑠も今日は実家に帰ろう」
「分かった」
俺はそうしてから雑炊を食べ切ると、那瑠に礼を言って店を後にした。まだ少しふらふらするが歩けないことは無い。俺は聖南地区に向かって歩き出した。
蓮からの返信はまだない。忙しくしているのだろうか。蓮にも無性に会いたかった。
俺は黙々と歩いて実家近くの南公園と言う所に足を運んだ。ベンチに腰掛ける。夕陽が沈む所だ。十分程そうしていただろうか、俺は疲れて横になった。
「おい、迎えに来たぞ」
気が付けば寝ていた。聞き覚えのある声で俺はむくりと起き上がる。蓮だ。
俺は無言のまま車に乗り込むと、蓮も何も言わずに車を出してくれた。俺たちが好きなギターの曲が流れて来る。俺はその曲と車の振動に身を任せながら過ぎ去る街並みを眺めた。
「あれはスペシャライズドか」
山道を走る青年を見かけてそう呟く。蓮は何も言わずに車を走らせる、何かを察してくれているのかは分からないが有り難い。
そうしてしばらくすると俺たちの思い出の場所に辿り着く。小さい頃から俺たちは此処が好きだった。俺はトランクから薄いタオルケットを引っ張り出して、見晴らしの良いベンチに腰掛けた。タオルケットは横に置いておく。
蓮は煙草を吸いながら俺を眺めていた。こっちに来てくれないかなと考えていると、ふんわり笑ってそのままこちらに歩いて来た。煙草が煙たくて俺は顔を顰めた。蓮はまた笑って煙草を携帯灰皿に入れる、ありがたい。
「また、なんかあったのか」
「まぁ」
俺はそれ以上何も言わずに街を眺めた。
蓮は俺にタオルケットを渡してくれた。俺は嬉々としてそれを肩に掛ける。
何で悩んでいたか、そうだ、葵が勝手に俺のロードに手を掛けた事が悔しかったのだ。
「話したくなったら言えよ」
「うん」
俺らはそれだけの会話をして正面に顔を向けた。田舎の少し寂しい景色だが俺は好きだ。昔蓮と一緒にここに来てから、俺らは此処の景色が好きで、何度も自転車でここに来た。あの頃は全身で風を受けていたのに、今は風は吹いていない。冷えた空気が俺の頬を刺す。
俺はなんであんなに怒っていたのか不思議なくらい今は冷静だった。後でちゃんと葵に謝らなければならない。俺は晴れやかな気分になって蓮を見た。
「解決した?」
蓮の問いかけに笑顔を返して頷く。そして少し自嘲気味に笑った。
「いつもくだらない事で悩んでる気がする」
「ん?」
「だから、お前と此処に来ると、悩んでるのが馬鹿らしくなってくるって事」
俺は何だか恥ずかしくなって蓮の脇腹を小突いた。
「何悩んでたんだよ?」
風が吹いて俺の少し伸びた前髪が揺れる。そろそろ切り時かもしれないなあと思った。
「もう解決したから大丈夫」
俺は立ち上がってそう言うと大きく伸びをしてからタオルケットを畳んだ。
「もういいのか?」
「うん」
俺は畳んだタオルケットを手渡して車に乗り込む。蓮の使っている香水の香りがした。蓮はタオルケットをトランクに仕舞い、運転席に乗り込む。そうだ、何も言わずにいたから、今度から一言かけてから車に乗ろう。
蓮は車を走らせながらコーヒーを飲んでいた。
「俺さ、また乗り始めたんだ」
「リドレィ?」
「そう」
俺は一人ではなくまた蓮と走りたいと思った。
「また、二人で走りたいな」
俺はびっくりしたがそれが嬉しくて身を乗り出す。
「危ない」
「絶対走りに行こうな!」
つい大きい声が出てしまった。だがこの喜びは俺にしか分からないだろう。
「分かったから、つーかシートベルトくらい、ちゃんとしろよ」
俺は座り直して急いでシートベルトを着用する。
「約束だからな、ふふ」
俺は嬉しくて笑みを零した。もう一度蓮と走りに行けるなんて、こんなに嬉しい事は無い。インカレでは試合中の蓮の怪我によって結果が振るわなかったから、しかもそれは俺にしか明かされなかったから、ますます嬉しい。
蓮には話そうと思ったことがある。
「俺のリドレィ、あいつが調整したんだ」
「あいつ?あ、奥さんか」
「そう」
奥さんと言われる事にも大分慣れたが、蓮が言うのには未だに慣れない。
「うまくやってるなら、良かったじゃん。お前の姉貴も喜ぶだろ」
「もー、五月蠅いな。姉貴って言うなよ、変な感じするからさぁ」
蓮はクスクス笑った。あの頃と変わらない笑顔が嬉しい。車は山道を抜けて市街地へ入っていくが、聖南に向かっている雰囲気ではない。
「あれ、家まで送ってくれるんじゃないの」
「今日は一杯付き合えよ」
閑静な住宅街を抜けて、高校の近くにある那瑠の店の前で車を停める。
「一杯って、コーヒーの事」
「お前の疲れ切った頭には、此処のバニララテが丁度いいんじゃないのか?」
「まぁ」
俺ははっきりしない返事をした。葵がいたらどうしようかと思ったのだ。
蓮はクローズの札を無視してドアを開けた。バニラとエスプレッソの香りが鼻腔をくすぐる。カウンターの向こうで那瑠が笑顔で迎えてくれて、なんだか気不味い。
「遅かったね、二人とも。もうとっくに閉店時間は過ぎてるのに」
時計を見ると、もうてっぺんを回っていた。
「ごめんごめん」
蓮は俺の手を引きながら店の中に入っていく、そしてカウンター席の前まで。
「バニララテと、ドッピオ。ドッピオはショット追加で、バニララテはホイップとキャラメルね」
「言うと思った」
那瑠は手際よくコーヒーを淹れながら俺の方を向く。二人に謀られた。
「いつまで立ってんの、座りなよ」
「うん」
「今日は、私の奢り」
那瑠はそう言って二つのカップを俺たちの前に置いた。そして後ろにあるオーブンからフレンチトーストを取り出す。
「今日のは自信作。レモンとシナモンで良かった?」
シナモンの香りが広がった。レモンのフレンチトーストは俺の前に置かれる。
俺はゆっくりバニラ・ラテに手を伸ばした。
一口、もう一口と飲んでいく。
「此処のコーヒーが一番美味い」
「当たり前よ」
俺たちは目を見合わせて笑った。
那瑠はカップを一つ出すと、新しくカフェ・オレを淹れ始めた。手際よくミルクを温める。
「なぁ、ランチはやらねぇの?」
蓮は出されたフレンチトーストを完食すると、ドッピオを飲んでそう言った。
「人手が足りないの」
「雇えば」
「お馬鹿」
那瑠は笑いながらカップを俺の隣に置いた。誰の分だろうか。
「今日は、奥さんが迎えに来てくれるから」
「え」
俺が顔を強張らせたと同時に、カランカランとクローズと出ている筈のドアが開いた。
「こんばんは、いい匂い、フレンチトーストかな」
「いらっしゃい」
葵は当然のように此方に来て、俺の隣に腰を掛けた。
「久し振り、子供は寝かせて来たのか?」
蓮は軽く手を挙げて葵を見た。
葵の頬は少し痩けただろうか、心配させてしまったかもしれない
「うん、久し振りー。今日はここでいっぱい遊ばせて貰ったから、疲れて爆睡してるよ」
葵は出されていたカフェオレに手を伸ばして、嬉しそうに那瑠を見た。
「飲んでいい?」
「もちろん」
葵はニコリと笑ってカップに口を付ける。
「ねえ、何緊張してんのよ、夫婦でしょ」
那瑠は俺の頭を小突いて笑い出した。緊張して瞬きの回数が異常に多くなっている気がする。
「き、緊張なんてすて、してぬぇ、してないし」
俺の挙動不審さに皆は爆笑した。
「ん、そうだ。聞いてよ、この前さ……」
葵が口を開く。俺たちの話はこの後数時間ほど続いた。
夫婦間の愚痴とか、最近この店に来る高校生カップルの話とか。もちろん俺たちの思い出話も尽きることはなかった。
那瑠が何も言わずにポケットから、あの真っ赤なピアスを出して俺の前に置いた。何故那瑠が持っているのだろう。俺はお礼を言ってそれを付ける。葵が嬉しそうにこちらを見た。
俺と葵は夜中のうちに帰った。流石に子供ら四人を放ったまま出掛けている訳にもいかない。
俺はリビングのソファに深く腰かけて葵を見た。
「葵」
「なあに」
葵も同じように俺の隣に腰かけてふんわり笑う。
「今日はごめん」
「いいよ、大丈夫。私こそ勝手に調整してごめんね」
「うん」
俺たちはそれから他愛のない話をした。仲直り出来て良かったと安堵する。
「あのね」
葵が意を決した様にこちらを見る。緊張感が漂ってきた。
「私と結婚して、良かった?」
「何を」
俺は驚いて、その続きの言葉が出てこない。
「今日一日考えたんだけど、私と結婚して幸せだって思った事ってある?」
「そりゃ、あるけど」
「例えば?」
妙にグイグイ来るなと感じながら考える。そんな事言われたって、毎日が幸せだったはずだ。結婚してすぐ子供も生まれて、その次の年には三つ子が生まれて、初めて有希を抱いた時の感動は忘れられない。でも、幸せって何だっけ。
「有希を抱いた時」
俺は思い付いたままそう言った。正解なんて分からない、これで機嫌が損なわれるならそれでもいいと思った。
「そっか」
「うん」
「私ね、ずっと考えてたんだ」
「何を」
離婚の話でもされるのかと身構える。
「那瑠の事が大好きな逹と結婚して、二人を引き離して、私は悪者なんじゃないかって」
「プロポーズしたの、誰だっけ」
「…逹」
「そうだろ、そんな事思わなくていい」
俺は那瑠が持たせてくれたバニラ・ラテを口にする。温くなっていた。
「いいんだよ、そんな事考えなくて」
葵は今にも泣き出しそうだ。俺は葵の頭を引き寄せて抱き締めた。そうしなければならないと思った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
葵はそうだ、と言いながら鞄を漁って、一つの万華鏡を出す。
「どうしたんだこれ」
「これね、今日那瑠が貸してくれたの」
「那瑠が?」
「うん」
俺はその重たい万華鏡を受け取って覗き込んだ。
「綺麗だな」
俺は感嘆して夢中でそれを眺め続ける。きらきらと球体の石が光を吸収して輝いている。
「昔小っちゃい頃万華鏡作ったことあったなあ」
「そうなの?」
「うん、那瑠と二人でさ」
「楽しそうだね」
「楽しかったよ」
葵は羨ましそうにこちらを見ていた。
「はい、しっかし高そうな万華鏡だな」
俺は落とさない様に葵に返す。借り物だと言うので落としては大変だ。
「本当にそれ。私もそう思った」
二人で顔を見合わせて笑った。
俺らはそれから自室に戻ってそれぞれベッドに入る事にした、明日からまた仕事が始まる。
俺はさっきの万華鏡と昔作った万華鏡を思い出しながら、瞳を閉じた。
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