絶対に体育会系でない僕らのアツくてアツくてどうにもならないトレーニングの日々!
「カトオ。約束したのはわたしなんだから無理しないでいいよ」
「いや、出る。これは僕自身の問題だよ。誇りを取り戻したい」
「・・・分かった。ありがとう。カトオがいてくれると心強いよ」
「あの・・・わたしも出る!」
「え? ダメだよ、上邑さん! あいつら女子相手でも何するかわかんないよ!」
「カナタさんだって女子でしょ? それにわたし、18年の人生で本当の意味で抗って戦い抜いたことが実は無いって気付いた。今がわたしの正念場だと思うの」
「うん。上邑、一緒にやろう」
「カナタさん!」
「カトオ、お前だけじゃ無い、上邑だって誇り高い人間なんだよ。やらせてやろう」
「あの・・・俺たちもやる。いや、やりたい!」
「みんな・・・」
結局コミュニティ全員が参加を表明した。ただし、特別な覚悟で臨む上邑さんは外し難く、カナタさん、上邑さんは確定。あとは僕を含めた男子3人の計5名で戦うことになった。
「作戦は?」
「そんなもん、無いよ。ただ、練習方法はこれしかない、っていうものを提供できるよ」
「え? そんなのあるの? 何、カナタさん」
僕が訊くと彼女はにっこり答えた。
「毎日走るんだよ、一宮の神社まで」
12月初旬。雪はまだだけど、寒さは寒し、朝は暗し、コミュニティ全員で毎朝5時に学校に集合し、それから一宮の神社まで走った。それもジョグではなく結構なスピードで。
カナタさんの身体能力は凄かった。体育の授業時に見てて想像はついてたけれども、これ程とは思わなかった。誰だ、カナタさんが口だけだなんて言ったのは。一の宮まではひたすら急勾配を上る。片道1時間弱の行程だ。きれいなフォームで息も上がらずに淡々と先頭を走る。かと思うと遅れ始めた人がいるとすすっと最後尾まで走り、励まし、縦横無尽に駆けている。
「みんな、人生かけてるんだもん、あいつらに絶対勝てる! もう、今走ってるのが勝つための唯一のプロセス。みんな自信持って!」
そう大声で鼓舞されると本当にそんな気がしてきた。全員に、やるぞ! という気持ちが沸き起こってきた。
境内にたどり着くとまずは全員でお賽銭をあげて参拝する。それからカナタさんさん指導の体幹トレーニングをする。冷たい石畳に体を横たえてインナーマッスルをいじめ抜く。
「ああ・・・」
「うーっ・・・」
全員どちらかというとスポーツを避けてきたメンバーばかりだ。苦悶の表情になるがカナタさんは容赦しない。
「みんな。これは試合だけの問題じゃない。何度も言うけどみんなは人生かけてんだよ。わたしたち全員、将来を賭けて戦うんだよ。もう這いつくばって生きるの、嫌でしょ? やるんだよ! やってやるんだよ!」
僕は思わず叫んだ。
「やるぞ!」
もう一つ叫んだ。
「やるぞ!」
とどめに怒鳴った。
「やってやるぞーっ!」
すると、思わぬ人が続いた。
「やるぞ、やるぞ、やってやるぞっ!」
上邑さんだ。彼女の高く澄んだ怒鳴り声に全員にのテンションが上がる。
「アツイぜ、みんな! やるぞ、やるぞ、やってやるぞー!」
全員で怒鳴りながら体の内側の筋肉をいたぶり続けた。
帰りは急坂を滑空するように我先にとダッシュして学校にたどり着いた。
これを夜中まで受験勉強をしながら、毎朝1週間繰り返した。
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