第10話 ダンジョン侵入

貴史達三人とスライム一匹はレイナ姫たちの後を追ってエレファントキングの城を目指して進む。



貴史はヤースミーンが担いでいる武器が気になった。



「ヤースミーンそれは一体何という武器なんだよ。」



「タリーが言うには初心者でも発射できる強力な弓矢だって。」



弓矢というよりはクロスボウに近い形態だ。剣と魔法の世界には無粋な武器だが、前世では軍人だったというタリーが与えた武器には期待できそうだ。



「撃ち方は教わったのか。」



「うん。タリーが、ここの部分で折れるようになっているから、てこの原理を使って矢をつがえるんだってやって見せてくれました。」



ヤースミーンはその通りに実演して見せようとするが、途中で動かなくなった。



「どうしたんだ。」



「か、固くて動かないんです。」



貴史はこけた。



自分で装填できない飛び道具を与えられても使い物にならない。




しかし、ヤースミーンはクロスボウの先端部分を地面に押し当てて全身の力を使って、矢を装填しようとする。



「ぐぬぬぬ。」



やがて、カシャンと音がして矢を装填した状態でロックされたようだった。ヤースミーンは嬉しそうな顔を貴史に向けた。



「装填できましたよ。シマダタカシ。」



「よかったね。」



戦力としてはあまり期待できないかもしれないが、魔導師用の黒と赤のローブを着たヤースミーンが微笑むと貴史は気分が和む。



貴史とヤースミーンの間にほのぼのとした空気が流れているとき、ラインハルトは一人緊張した面持ちで剣を抜いた。



「二人とも気をつけろ。スライム騎士が出たぞ」



「へ?」



貴史がぼけた声を出した時には、ラインハルトは敵と剣を交えていた。



キーン



剣と剣が打ち合わされた高い音と共に、大きめのスライムにまたがった甲冑姿の騎士が猛スピードで走り去った。



そして、緩やかに弧を描くと再びこちらに向かってくる。遠くからは更に二体のスライム騎士が高速でこちらに向かってくる。



「ヤースミーン。あいつを撃つんだ。」



「はい。」



ヤースミーンはラインハルト目がけて迫って来るスライム騎士にクロスボウを向けた。そして慎重に狙いを付けて引き金を引く。




空気を切り裂く音と共に矢は真っ直ぐにスライムナイトに向かって飛んだ。



カン。



軽い音と共に矢に貫かれた騎士が地面に転がり落ちた。




騎士を乗せていたスライムは転がり落ちた騎士のまわりをぐるぐると回っていたが、やがて自分だけ森の方へ去っていった。



他の二体のスライム騎士も危険を感じたのかきびすを返してもとの方向に戻っていく。



「やりました。」



ヤースミーンがクロスボウを掲げて見せた。



「すごい弓だ。あの距離からスライム騎士を撃ち抜くとは。」



ラインハルトが感嘆の声を上げた。



三人は残された甲冑まで歩いていくとしげしげと調べてみた。



「甲冑の中は空みたいですよ。」



ヤースミーンが隙間から中をのぞき込みながら言った。



「そんな、私は確かに剣を交えたのに。」



ラインハルトは気味悪そうに甲冑を見る。




スライム騎士の装備は上質の防具や武器が揃っていたが、貴史達はそのまま放置して先に進むことにした。



やがて、エレファントキングの城が間近に迫ってきた。



「レイナ姫が日の出と共に出発したのなら、我々はおよそ三時間遅れで後を追っていることになる。どうにかして追いつく方法はないのか。」



ラインハルトは焦燥の色を強めていた。切迫した口調で問いつめるラインハルトにヤースミーンがのんびりした雰囲気で答えた。



「そうですね。スラチンが使っていた地下通路がダンジョンの奥まで直通しているから先回りできるかも知れませんよ。」



「本当か。すぐにその通路に案内してくれないか。」



ラインハルトは渡りに船といった感じでヤースミーンに詰め寄ったが、彼女は首を振った。



「その前にお昼御飯にしましょう。地下通路やダンジョンの中は、ほこりっぽいからお昼は外で食べたいんですよね。」



ヤースミーンの提案にラインハルトは渋々といった様子でうなずいた。意外と忍耐強い性格らしい。




ヤースミーンは開けた野原にピクニックシートを広げて昼食の準備を始めた。



タリーが用意してくれたのはコールドビーフとチーズ、そして野菜をパンではさんだサンドイッチだ。



コールドビーフといいながらも材料はクロゲウシドリの肉だ。



「冷たくなったお肉と粒マスタードがよく合いますね。」



「そうだな。二千クマも取るだけあってなかなかの味だ。」



おいしそうにサンドイッチをほおばるヤースミーン。




その横でラインハルトもまんざらでもなさそうな顔で食べている。



「ラインハルトさんはどんなきっかけでレイナ姫と親しくなったのですか。」



貴史は思い切ってラインハルトに聞いてみた。さすがにレイナ姫にはなれそめのことなど聞けなかったのだ。



「きっかけか。それは私が城で事務をしていた日だった。城の出納係に支払い関係の書類を受け取りに行こうと廊下を歩いていたら、前を歩いていた女性が持っていた書類を廊下にぶちまけてしまったのだ。私が書類を拾い集めるのを手伝ったのだが、その女性がレイナ姫だったのだ。」



「それがきっかけでレイナ姫と親しくなったのですか。」



貴史が尋ねると、ラインハルトはサンドイッチをかじりながらうなずいた。



「もしかしてレイナ姫が仕組んだのではないですか。」



ヤースミーンがラインハルトには聞こえないように貴史の耳元で囁く。



貴史は無言でうなずいた。姫君が城の中で書類を持って歩いているのは不自然だ。どうやらラインハルトはレイナ姫に見そめられたらしい。




昼食を食べ終えて、貴史達はスラチンが教えてくれた抜け穴に入った。




先に入って先導するスラチンの声に導かれて四つんばいの姿勢で狭い穴を進む。しかし、行き着く先があると解っていればどうにか我慢できるものだ。



エレファントキングの城の奥深くでトンネルから出た一行は、立って体を伸ばせることに安堵した。



「狭い上に長いトンネルですね。」



ラインハルトが腰を伸ばしながら言った。



「スラチンがこのトンネルを教えてくれたのです。そうでなければこんなトンネルとても入る気にはなれませんよ。」



貴史は自慢げにスラチンの頭に手を乗せた。その時、通路の奥から、身の毛もよだつような雄叫びが響いてきた。



「グリーンドラゴンの声のようです。レイナ姫が戦っているのかもしれません。」



ヤースミーンが耳をそばだてながら言う。



ラインハルトは剣の柄に手をかけると、表情を引き締めた。

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