第11話 グリーンドラゴンとの戦い

貴史は昨日グリーンドラゴンに遭遇して命からがら逃げ出した通路を再び辿りながら複雑な心境だった。




成り行きで奴と戦う羽目になりそうだからだ。



自分はスライムに手こずるような腕前だ。



しかし、ラインハルトは武道は不得手と言われなが必死で戦おうとしていた。彼には守らなければならないものがあるからだ 。



グリーンドラゴンが潜む広間に出ると。ヤースミーンの予測したとおりにレイナ姫とミッターマイヤーがグリーンドラゴンを相手に戦っていた。



戦いは膠着状態だった。ミッターマイヤーが氷系や稲妻系の呪文で攻撃しても何故かドラゴンは魔法を跳ね返す。



そしてレイナ姫はミッターマイヤーの魔法攻撃の合間を縫って突進し、グリーンドラゴンの足元に攻撃を加えるが、致命傷を与えるためによじ登ろうとすると炎のブレスで撤退を余儀なくされる。



「姫、及ばずながら助太刀します。」



ラインハルトはすらりと剣を抜いた。その横で、ヤースミーンはクロスボウに矢を装填し始めた。



「ぬおおおお。」



ヤースミーンは肩がぷるぷると震えるくらい力を込めて矢を装填しようとしている。



戦いの最中でないから言ってくれれば手伝うのにと思った貴史が手を貸そうとしたとき、ガチョンと機械音がして矢は装填されていた。



「ヤースミーン行きます。」




ヤースミーンは宣言するといきなりグリーンドラゴンに向けてクロスボウの引き金を引いた。



「あ。」



「え?。」



貴史とラインハルトは実は戦いを挑む心構えが出来ていなかった。




二人が唖然としている横をバシュウウウと風切り音を立てて矢が飛んでいき、グリーンドラゴンの背中にぐさりと突き刺さっていた。



「ぎあああああ。」



グリーンドラゴンが絶叫を上げた。



「すごいぞヤースミーン。」



貴史が振り返るとヤースミーンの姿はなかった。後ろを見るとクロスボウを肩に担いだヤースミーンがシャカシャカと猛スピードで走っていくのが見える。



彼女は既に自分たちが侵入してきた通路に走り込み、最初の曲がり角を曲がろうとしている。



貴史は悪い予感がして、グリーンドラゴンの方を振り返った。



「くあああ。」



怒りの表情を浮かべたグリーンドラゴンが、大きく口を開けてこちらを睨んでいた。貴史は全身が総毛立つった。



ブレスが来る!。貴史は九十度横を向いて全速力で駆け出した。




子供の頃おじいちゃんが、雪崩にあったら雪崩に背を向けて逃げたらいけない。横に逃げるんだと言っていたのを思い出したのだ。




雪崩ではないがブレスに背を向けて逃げても黒こげになるだけだ。



貴史が走り出した直後に猛烈な火炎のブレスが背後を通過した。背中に熱を感じる近さだ。



どうにか火炎のブレスをやり過ごした貴史はグリーンドラゴンに向き直って次の攻撃に備えようとして、目を疑った。



ラインハルトがグリーンドラゴンの背中によじ登っていたからだ。背中の上の方に達したラインハルトは大きく振り上げた剣を力任せにドラゴンの背中に突き立てた。



「ぎああああ。」



グリーンドラゴンはグルグルと回転し始めた。背中にいるラインハルトを振り落とそうとしているのだ。



「くそっ。」



ここで助けないわけにはいかない。貴史は腹を決めて、剣をこしだめに構えて突進した。



グリーンドラゴンは回転するためにバタバタと足踏みしていたが、貴史はタイミングを計って足首に剣を突き刺した。



グリーンドラゴンが足を持ち上げたので、貴史は突き刺した剣をつかんだまま振り回された。




しかし、そのことがグリーンドラゴンに痛手を与えることになった。




突き刺したままの剣に貴史の体重全てがかかっったので、グリーンドラゴンの足首にある大きな腱を切断したのだ。



バンという大きな音と同時にグリーンドラゴンの足が妙な形にふくれあがった。そしてグリーンドラゴンは激痛に転げ回った。



貴史は放り出されて、石の壁にたたきつけられていた。




衝撃で気を失いそうになったもののどうにか持ちこたえた貴史は、背中の痛みに耐えながら立ちあがった。



自分の剣は無くなっている。グリーンドラゴンに刺さったままなのかもしれない。



広間の中央に向き直った貴史は、目の前にグリーンドラゴンの顔があることに気がついた。



グリーンドラゴンの金色の目は怒りに燃えるようだ。



「くあああああ。」



不気味なうなり声と共にグリーンドラゴンが口を開けた。貴史に向けてブレスを吐こうとしているのだ。逃げようとした貴史は自分が石造りの広間の隅にいることに気がついた。

左右は壁、正面にはグリーンドラゴンが口を開けている。



「に、逃げられない。」



貴史は目を閉じた。この世界に来て二日目に黒こげにされる運命なのか。




貴史はブレスの火炎に包まれることを覚悟したが、いつまで経ってもブレスは来なかった。



おそるおそる目を開けると、目の前にはグリーンドラゴンの顔が鎮座しているがその目は光を失っていた。



「!?」



貴史が何事が起きたのか解らないでいると、グリーンドラゴンの頭の上にヒュッっとレイナ姫が飛び乗った。



「助太刀ご苦労。こいつが地面際に首を伸ばしてくれたので叩き切ることが出来た。」



レイナ姫の背後で首を切られたドラゴンの体が断末魔のあがきをしていた。首の切断面からは勢いよく血が飛び散っている。



「もう一人はギルガメッシュのマスターだったのか?。」



レイナ姫はドラゴンの頭の上で片足を角にかけてポーズを取っているので太ももが露わになっている。貴史はちょっとドキドキしながら答えた。



「違いますよ。ラインハルトさんが現れたので僕たちが案内してきたのです。」



レイナ姫は愕然とした。ドラゴンの背中に取り付いていた人影がラインハルトだとは気がついていなかったようだ。



「ラインハルト。」



レイナ姫はドラゴンの頭から飛び降りると駆け出していった。

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