第26話 尋問
翌日、引き出されたジムカは引き続き尋問を受ける。
しかし、生意気にも光太郎が立ち会うまで発言を拒否した。
自分の生殺与奪は光太郎が握っているという主張である。
それはそれで理があった。
蟲人が主張しているという点が生意気だと反感を買ったが、アキトが選抜した人間であり厳しく勝手な行動をしないようにと言い含められている。
そのため、冷ややかな視線は向けたが暴力を振るうことはなかった。
呼び出された光太郎がやってくるとジムカは殊勝な態度になる。
「デハ、ナンデモ聞イテ。ドーゾ」
「なんで我々に包み隠さず話すのだ? 騙そうとしているのではないか?」
あまりに協力的な態度に疑問を向けられると、しばらく黙った。
ナツヒコたちの間で疑念のもやが色濃くなる。
しばらくすると諦念の滲む声がした。
「ジムカハ任務失敗シマシタ。モドッテモ罰受ケマス。最初カラジムカハ使イ捨テデス。ダカラ逃ゲオクレマシタ。用ガ済ンダラ、ジムカ殺サレルノデショ。デモ、話シテル間生キテラレル」
耳障りが悪く聞き取り憎い音声だったが、そこに籠もる呪いは人間たちにも伝わる。
それは自分を虐げる同胞への恨みを含んでいた。
ジムカは光太郎に小さな目を向ける。
「ジムカヲ助ケル言ッタ。コータロー、ソレ守ッタ。ダカラ、ジムカ、ナンデモ話ス」
一方的に命じられて従わせられていた者が初めて頼みを聞き入れてもらった。
その衝撃は種族の壁を越えさせたらしい。
半ば自棄になっている面もあるのだろうが、光太郎が問いを発したときは明らかに態度が違った。
質問内容が何を食べるのかや、人が作ったものでもいいのかというものだったせいもあるだろう。
ただ、それを割り引いても光太郎への恭謙な態度が目立った。
他の人間が質問してもいちいち光太郎の顔色を窺うので効率が悪い。
それならと、1度尋問は取りやめになった。
首脳陣が雁首を揃えた場所で今後の方針を協議する。
「もう、ジムカの尋問はコータロー殿に任せた方がいいだろう。これからは事前に聞きたいことを全てコータロー殿に伝えておけばいい。誰か1人が同席して回答は後で共有する。これでどうだろうか?」
アキトが効率を重視した提案をした。
色々とやらねばならぬことが多いアキトはあまりジムカに時間を割いてはいられない。
サチが光太郎の顔を覗き込む。
「と言っておるがコータロー殿は異存ないか? あたしはそなたに依存し過ぎている気がするのだが」
「私が聞かなければジムカは答えないのでしょう? それはトラブルの元ですね。情けをかけたのは私です。最後まで責任を取りますよ」
「悪いのう」
そこに使用人がやってきた。
「お客様、申し訳ありません。男の子が泣き叫んでまして、お出でいただけませんか?」
光太郎は断りを入れて別の部屋へと向かう。
少し離れたところからも泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
部屋に入ると光太郎は少年を抱きしめる。
「見知らぬ人ばかりで怖いよな。体は大きいがまだ赤ん坊のようなものだ」
少しすると少年は落ち着きを取り戻した。
それでも光太郎が部屋を出ようとすると表情が曇るので中座ができない。
結局一緒に過ごすことになる。
小学校から帰ってきた姪の祥子の相手をしていた経験があるので意外と手慣れたものだった。
少年は光太郎の真似をしたがるので、食事を一緒に食べ、トイレを教える。
それ以外のときも光太郎の後をトコトコとついて歩いた。
名前がないと不便なので名前をつける。
小さな光太郎ということでコタローという名になった。
2、3日もするとコタローは光太郎の姿が見えるところでは大人しくして居られるようになる。
その間ジムカの尋問が中断していたので、コタローを兵舎に連れていった。
飼われているガチョウを追いかけ回している間に、光太郎は引き出されてきたジムカの尋問をした。
「来テクレテ嬉シイデス。モウ聞クコトガナクテ殺サレルノカト思イマシタ」
「大丈夫。まだまだ聞きたいことはたくさんあるから。あの子の世話で忙しかったんだ」
蟲人の社会体制、人口、軍備などリストにある質問をする。
それに対する回答を答えた後に、ジムカは光太郎に頼みごとをした。
「何カ仕事ヲサセテクレマセンカ? 何モシテイナイト不安デス。難シイコトハデキナイデスケド、雑草取リグライナラデキマス」
「話してみてみるよ。だけどあまり期待しないでほしいな」
その後、聞き出した内容を報告するついでにジムカの要望を伝えるとナツヒコは条件付きで了承する。
「コータロー殿の監視下において城外での作業に従事させる。ジムカが逃亡又は住民へ危害を加えた場合にはコータロー殿が責任を負うことになるがよろしいか?」
意外に寛大な申し出に光太郎は驚きつつも謝意を述べた。
アキトがそれを受けて付け加える。
「その願いを聞くにあたっては条件がある」
「なんでしょうか?」
「キョーコと所帯を持って、この町の住人となってもらいたい。そうすれば皆も納得するだろう」
地縁も血縁もない光太郎は余所者であった。
理屈ではなく感情面でも光太郎を仲間として受け入れるためには、町の者と結婚するのが手っ取り早い。
そう説明されると反論ができない。
結婚相手としては仮祝言をあげたキョーコ以外ありえなかった。
先日の競争も勝ち抜いており表立って反対するものはいない。
結局、光太郎は承諾するしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます