第25話 子供の正体

 その頃、蔵ではリークと布団に寝そべった光太郎が正体不明の子供に関する話をしている。

「あの子供は私の子供の頃にそっくりなんだ」

「そうでしょうね。あれはたぶん光太郎様のスペアパーツです」

「は?」

「倫理観がぶっ飛んでいる人が居たんでしょうね。光太郎様の治療法を確立するためにクローンで研究していた残りをいざというときに備えてコールドスリープさせていたと推測します。治療ができない臓器の交換用として」

「さすがに発想がグロ過ぎない?」


「まあ、でも治療が完了したから用済みとして廃棄するのとどっちが非人道的かというと判断は難しいですね」

「過去のことを追及しても仕方ないか。で、なんで俺のクローンが世界を滅ぼせるんだ?」

「その答えは私です」

「リークが答えって……、あ」

 光太郎はがばと布団から起き上がった。

「私は光太郎様を守護することになってますが、光太郎様直々の命令には逆らえません。それがこの町の人間を絶滅させろであってもです。本物の光太郎様が不在の状態でクローンに命令された場合、私はそれを実行するでしょう」


 光太郎は眉をひそめて考える。

「ちょっと待ってくれ。ということは蟲人の背後にいるハカセというのは、リークのことも、何のために存在しているのかも、私のクローンについても知っているということになる。間違いなくこの星に植民してきた一団の関係者じゃないか」

「そういうことになりますね。そして人類を敵視しているし、ある程度のテクノロジーも保持している。そして、あの子供を洗脳し私を使って人類を滅ぼす計画です」

「なんでそんなことを……」


「光太郎様に少し似ているのかもしれませんよ」

「私に似ている? 別に人類を滅ぼそうなんて考えはないけど」

「蟲人をむやみと殺すことには反対ですよね。もし、先に戦いを仕掛けたのが人類だったらどうします? それを目撃して人類の方こそが邪悪だと考えたら。地球を食いつぶして、さらにガリウス10の固有生命体を絶滅させようとする行為が許せないという考えの人がいてもおかしくはありません」

「それはそれで極端すぎるよ」

「でも、別にそれほど珍しい考え方でも無いですね。地球の重力圏に縛られていた時代から人類は滅ぶべきだと考える人はいたと記録されています」


 光太郎は手を握りしめた。

「その考えの持ち主はどういうつもりなのだろう。本人だって人間なのに。神にでもなったつもりなんだろうか」

「さあ、それは私には分かりません。光太郎様の意志に従うように私を作り上げた人も歪みっぷりではいい勝負だと思いますけど」

「結構辛らつだね」

「でも、何かを滅ぼすように生み出されるよりはずっと幸せなんじゃないでしょうか」


「しかし、私をこんなところに送り込んだ人は、私がこんな状況に陥るってことを想像していたのかな」

「迷惑なように聞こえますね」

「ああ。まったくやってくれたよ。でも、迷惑だと思えるのもその人のお陰なんだろう。死んだらそれまでだから」

「なるほど。やっと光太郎様が死を忌避する理由が理解できましたよ。それで命を奪うことをなるべく回避しようとするんですね」

「すでに一杯奪っちゃったけどね。なんだかんだ言いながら私は命の選別をしているんだ」

「選別される立場よりはずっといいですよ。まあ、その点、私は気が楽ですけどね。無責任に光太郎様に従うだけなので」


「という割には、リークは私を結構叱ってる気がするなあ」

「気のせいですよ。優秀な私が光太郎様に逆らうはずがありません」

「よく言うよ。でも、まあ、それで助かってる。ありがとう」

「この流れで感謝の言葉を口にするとは……、まったくAIたらしの才能がありますよ」

「ところで、気になっていることがあるんだけど、分かったら教えてくれないか?」

「何でしょうか?」


「カマキリみたいな蟲人が何もない空間から炎をぶつけてきたよね。あれってアキトさんたちが言っていた魔法なんだと思うんだ。リークは魔法も防げるんだね?」

「確かに不思議な現象だと思います。一見すると無から有を生み出しているようですし。あれが魔法なのかどうかはデータが無いので分からないです。ですからどういう作用機序かも分かりません。でも、私にぶつけられたのは単なる高温で燃えさかる物質という物理現象ですので問題ありません」

「なるほど」

「生体にとっては深刻なダメージとなるでしょうが、2千度程度の温度が瞬間的に接触することでは私の機能に損傷は発生しませんから」


 光太郎は感心した声をあげる。

「さすがだね。ハカセと名乗る人物が利用しようとするわけだ。リークを阻止するよりも効率がいいもの」

「暢気なことを言っている場合じゃないですよ。光太郎様のクローン体、今は声を出せないですけど、言語を学習したら私に命令できるようになっちゃうんですからね。子供が扱うには私は危険すぎます」


「分別がつかないうちに衝動で、薙ぎ払えとか言ったら大変だものね」

「ということで少しは真剣に考えてください。さもないと、声が出せるようになる前にあの子供に何らかの処置をします」

「そんなナツヒコさんみたいなことを言わないでよ」

「命までは奪いませんよ。声が出せないように声帯を潰すぐらいはしますけど」

「本当に私以外には容赦ないね」

「当然です」

 あまりにきっぱりと言い切るリークに光太郎は真剣に考え始めるのだった。

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