第24話 黒幕の存在
聖地周辺に潜んでいた蟲人の掃討作戦が終了する。
手柄争いという点では光太郎の圧勝だった。
労働者タイプの蟲人4体、戦士タイプ2体を倒したうえに、労働者タイプ1体を捕虜にして、1名の命を救ったとなれば非の打ちどころがない。
次点は労働者タイプ3体を倒したゴウタだった。
ぶつくさと文句を言っていたが最終的には引き下がる。
そして、トーキョーの首脳部は手柄争いの判定どころではなかった。
まず、蟲人の捕虜ということが前代未聞である。
戦士タイプは倒すことが困難なうえに、捕虜になるのを潔しとせず敗色濃厚となると自決してしまう。
労働者タイプはそもそも前線に出てくることが珍しく、ごくまれに見かけても常に戦士タイプが守っていて捕まえることが難しかった。
捕虜となったカナブンはジムカと名乗る。
その話した内容は衝撃的だった。
今回、蟲人の居住エリアからはるばるとやって来たのは人間の命令だと言う。
蟲人を統べる王に助言をするハカセと名乗る人間が居て、そのハカセにあの場所から子供を回収するように命ぜられたとのことだった。
人間を混乱させるための偽情報ではないかという声も上がったが、ある事実が真実味を与えている。
それは光太郎が助けた子供のことを誰も知らないことだった。
着ていた服は目が覚めた時に光太郎が身につけていたものに似ている。
子供は10歳ほどに見えるのに言葉も話せず周囲に対して怯えているばかりだった。
どことなく光太郎に雰囲気が似ており、子供ではないかとの声があがる。
サチなどはニヤニヤ笑いながら揶揄った。
「最初は本人、その後は子供か。次は奥方が出てくるのかな?」
光太郎は否定するが、子供はあまりにそっくりな上に光太郎にくっつくと落ち着きを見せる。
どう見ても親子の図であった。
子供の存在も気になるが、ナツヒコからすると蟲人の背後に人間がいるということの方が衝撃である。
また初めて見るエアボートの残骸にも驚きを隠せなかった。
ジムカという蟲人は協力的で問われればなんでも話す。
「水ノウエ走ル舟、博士クレタ」
「コドモ大事。タタカイ勝テル。
「私ムリヤリ連レテコラレタ。イヤ言ウ、ナグラレル」
どうもジムカは下っ端らしく詳しいことは知らなかったが、それでももたらされた情報は大きな衝撃をもたらした。
ひとまず厳重に見張りをつけてジムカを牢に入れてから情報を吟味する。
ナツヒコが口火を切った。
「裏切り者がいるということなのか?」
「というより蟲人を操っている印象を受けたな。あのエアボートというものを与えているし。それでだが、コータロー殿はエアボートについて何か知ってるのだろう?」
サチに問いかけられて光太郎は肩をすくめる。
「私もそれほど知っているわけではないです。見たことがあると言うだけで」
「推測だが、15体以上の蟲人を乗せて逃亡する算段だったとみえる。そんなことが可能なのか?」
「時速40キロでその人数を乗せて、水上と整地を走れると思います」
「なんだと。エアボートを使えば簡単に奇襲ができてしまうではないか。大勢の戦士タイプをそんなに素早く送り込まれたら勝負にならん」
「修理をして我々が使うことができないだろうか?」
アキトの問いに光太郎は首を振った。
「私には無理です。技術も部品もない。それに仮に直せても燃料がありません。燃料というのは燃える水です」
その場を沈黙が覆う。
コージが口を開いた。
「そんな新機軸を投入してまで手に入れようとしたあの子供はなんなのだろうな? 我らを滅ぼせるなどと言っておったが。そんな脅威には感じなかったが」
「信じられないがガセネタで混乱させるためだけにわざわざこれだけの大がかりなことをするとも思えない。後顧の憂いをなくすために……」
ナツヒコが光太郎の顔色を窺う。
「亡き者にと言いたいところだが、光太郎殿は反対のようだ。あの調子のよいジムカという蟲人についても処分には反対するのだろう?」
「はい。それが皆さんにご迷惑なようであれば、私は2人を連れてトーキョーを出ていきます」
アキトが間に入った。
「結論を急ぐことはないだろう。子供については当面養育して構わないだろうし、ジムカについてもまだまだ知っていることを吐いてもらう必要もある」
「ここにいる皆さんはともかく、住民の中には納得できない方もいると思います」
「それを何とかするのも私の仕事だ。まあ、今日のところはゆっくり休んでくれ」
光太郎を宥めて使用人に蔵へと連れていかせる。
残ったナツヒコたちは鳩首して今後の処置を話し合った。
「コータロー殿は手放せん。エアボートという乗り物は金属も使われていた。あれを壊すのは簡単ではないぞ。それに戦士タイプを2体倒している」
サチの意見は軍事面だけを見ればその通りである。
「子供はまだいい。しかし、蟲人を生かしておくことについては相当な反発が起きるぞ。今は尋問中だからいいがいずれ処刑しろという話は絶対に出てくる」
ナツヒコが長として立場から論陣を張った。
「あたしは処刑に反対だ。そんなことをしようとしたらコータロー殿は出ていってしまう」
「しかし、コータロー殿も生活能力はないが、どうするつもりなんだろうな」
アキトが別の視点を提供する。
「そこに交渉の余地があるかもしれない。出ていったところで立ちゆかなくなるのが明らかだ。ジムカは城外に小屋を建ててそこに住まわせる辺りでどうだろう?」
「で、何をさせる? 無駄飯を食わせるわけにはいかないぞ」
「何ができるかだな。それは本人に聞かないと分からん」
座敷では深夜まで真剣な議論が続いた。
***
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