第22話 覚悟不足

「あー、もう始まってますね」

 リークは広げていた翼を回収すると走りながら勢いを殺す。

 その衝撃を感じながら光太郎は質問をした。

「飛ぶのはやめるんだ?」

「そうですね。翼自体は装甲が薄いのです。破壊されるとあのスピードのまま地面に突っ込むことになります。戦闘中の使用はお勧めしません」

「なるほどね」

 光太郎は視線を左右に巡らせる。


「蟲人はこの森の中に潜んでいるのか。戦闘タイプではないから擬態して身を隠しているんじゃないかとという話だったけど、そうじゃなくても捜すのは大変そうだね」

「そんなことは無いですよ。色調を合わせているだけなのでサーモを使えばクリアに見えますから」

「私の視界も切り替えられる?」

「重ね合わせて表示しますね」

 光太郎に見える景色が変化した。

「あの右手前方の木々の間にいるやつがそう?」

「はい。さっさと倒しましょうか」


「ちょっと待ってよ。こちらから仕掛けるのに後ろめたさというか、心の準備がまだできてないよ」

「まだそんな甘いこと言っているんですか」

「そんなことを言ってもさ」

「とりあえず近づいてください。あ」

 細長い体つきの蟲人の方へと横合いから現れた1人の男が近づいていく。

 刀を抜いて目の前にかざしているが、その動きからすると蟲人の存在に全く気付いていないようだった。

 

「スピーカーを入れて」

 リークに命ずると光太郎は警告を発する。

「そこに蟲人がいる。気を付けろ!」

 男は一瞬振り返って光太郎の姿を認めると何を言っているんだという顔をしてそのまま進んだ。

 光太郎はそちらに向かって走り出すが、男はいきなりくずおれる。

「見えました? 細い針状の指で首を刺しましたね」

 駆け寄ってみると男は身動きしていなかった。

 光太郎は後悔の念と共にナナフシに似た形状の蟲人の胴を殴りつける。

 

 力が入り過ぎていたのか拳が木の幹にめり込んだ。

 その部分にあった体をへし折られて蟲人も絶命している。

 光太郎が思っているよりも蟲人の体は頑丈ではないらしい。

 「おい大丈夫か? しっかりしろ」

 呼びかけられた男は首を両手で押さえながらパニックを起こしていた。

「助け……じにたく……」

 ゲホっと泡交じりの血を吐く。

 光太郎は男を抱え上げると開けたところに戻った。


「リーク。最大速度で町へ」

「……了解」

 一瞬の間に抗議のニュアンスが現れていたが、リークは命ぜられたまま対地効果を発揮できる形態に変化する。

 1分もかからずトーキョーにたどり着いたリークが物凄い勢いで突っ込んでくるのを門番も止めようがない。

 大通りを疾走するとアキトの屋敷の前で通常形態に戻った。

 門内に向かって大声で叫ぶ。

「キョーコ! 怪我人だ。治療を頼む」


 玄関からまろび出てきたキョーコとアキトに怪我人を託した。

 癒しの杖を使い始めたキョーコの姿を見つめる光太郎にリークは冷たい声を浴びせる。

「ここで光太郎様のできることはありません。戦場に戻りますよ」

「ああ、分かった」

 町の中は歩行で進み、外では再び対地効果モードに変形した。

 その間もリークの苦言は続いている。


「不本意でしょうけど戦場に居るってことを忘れないでください。あの男は助かりそうですが、光太郎様が先に攻撃を仕掛けていればそもそも負傷することすらなかったはずです。あの男と光太郎様が欠けたことで他の誰かに負担がかかって負傷したり死亡したりしているかもしれません」

「分かったよ」

「いえ、分かっていません。そう簡単に分かるのなら最初から行動してください」

「次からはちゃんとやるよ」

「そうしてください。私は光太郎様は守りますが、光太郎様にとって大切な人を守れるのは光太郎様だけです」


 リークは先ほどの地点を通り過ぎ、さらに奥まったところへと進んだ。

 2足歩行に切り替えると森林を避けるようにしてその外縁を大回りする。

 光太郎は疑問を呈した。

「他の人たちから随分と離れちゃったけど」

「ええ。誰かさんがすぐに仏心を出して救護活動を優先してしまうので」

 リークの言葉には皮肉がたっぷりとまぶされている。

「まあ、それだけじゃないですけどね。他の志願者たちを避けるようにして潜んでいる蟲人はこちら方面に逃れてきます。それを狩るんですよ」


「やけに自信たっぷりだね」

「そりゃ、見えてますから」

「見えるって?」

「低軌道を周回する衛星のカメラ映像とリンクしています。まさか遥か上空から監視されているとは思わないんでしょうね。巧妙にカモフラージュされてますけど、あの薮の向こうにプロペラ推進のエアボートが隠されてるので、そこに逃れてきたところを一網打尽にします」


「それって、文明がここの人間より進んでるってことじゃないか」

「準知的生命体って言いましたよね。別におかしいことではないでしょう? エアボートのところには2人蟲人がいます。アキトやサチの話と照合すると恐らく戦士タイプです。油断しないでください」

 その瞬間、薮を焼き払いながら直径1メートルほどの火球が飛んでくる。

 光太郎は全く反応できず火球がリークに直撃した。

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