第20話 ナツヒコとの立ち合い
「それでは詳しい話を聞かせてもらおうか」
腕組みをしたナツヒコが座敷に座りアキトを問い詰める。
アキトはついてきたサチとコージに話をするように促した。
あらましを聞くとナツヒコは光太郎に向き直る。
「それで、あの鎧について頼みごとをしても構わないかな?」
「なんでしょうか?」
「着用してみてもらえるだろうか」
「お安い御用です」
光太郎は縁側から庭に降りると装着と呟いた。
たちまちのうちにリークをまとった光太郎が庭先に現れる。
目を見張るナツヒコをよそにリークの中では緩い会話が進行していた。
「すぐ気軽に応じて着てみせるんですね」
「何か問題だった? 装着中は弱点を晒すようなものだからあまりみせたくないとか?」
「私が周囲を監視しているので、何かあったら即応します。その点は問題ありません。光太郎様は見せるのが好きなんですねというだけです」
「はい?」
「だって女の子の中に入っていくところを見せるんですよ。本当にもう露出狂さんなんだから。でも、私はそんな趣味も受け入れます」
「ねえ、そのネタいつまでやるの?」
そこにナツヒコの声が聞こえてくる。
「私と木刀で立ち会ってもらってもいいだろうか?」
光太郎はリークに外部スピーカーを作動させるように頼み返事をした。
「刀では全く勝負にならないと思いますが、それで良ければ」
二振りの木刀を持って来させたナツヒコは庭に降りると一振りを光太郎に渡す。
もちろん光太郎は木刀を握った経験などほとんどない。
修学旅行のときに土産物屋で友達が買ったものを2、3回素振りしたことがあるくらいだった。
その時を思い出しブンブンと振ってみる。
「なあ、リーク。木刀で叩かれたら少しは傷つく?」
「そんなわけないでしょう。というか、こういう会話をする前にスピーカーを切るように言ってください。私が気を利かせたからいいですけど、そうじゃなかったら不審者ですよ」
「ああ、助かるよ。さすがは優秀なリークだ」
「照れますね。そんなこと言われちゃうと私頑張っちゃいますよ。では一時的にコントロール取りますね」
そのタイミングで立会人を務めるサチが鋭い声を出した。
「始め!」
その声にリークは前に進み出る。
その構えも何もない素人丸出しの姿に呆れつつも、ナツヒコは鋭い斬撃を送り込んできた。
カッと木刀同士が噛み合う。
さすがにリークにも剣技のデータは組み込まれていない。
しかし、人間を大きく超えるパワーとスピードは、ナツヒコの精妙な動きに楽々とついていった。
ナツヒコはさらに激しく攻めたてる。
立ち合う前は金属製の分厚い守りに任せた力押しをしてくるとばかり考えていた。
しかし、出鱈目と思える光太郎の動きが全ての攻撃に対応することにナツヒコも焦りを覚えはじめる。
実はリークも元々は力押しするつもりだった。
光太郎がキョーコと夫婦になることを後押しする方向の行動をする気は全くない。
ただ、リークには搭乗者との親密度によって行動が変わり、機能も開放されるシステムが組み込まれていた。
なぜギャルゲーのような仕掛けが組み込まれたのかは今となっては謎である。
設計者の趣味かもしれない。
いずれにせよ、直前に光太郎に優秀と言われたことでリークは本気を出していた。
ナツヒコが渾身の力で木刀を振り下ろす。
それを下からすくい上げるようにして受けたリークの木刀が砕け散った。
「それまで」
サチの発言にナツヒコは大きく息を吐く。
ナツヒコは剣の腕前は相当のものだった。
単純な筋力や太刀行きの速さだけなら上回る者もいるが、攻撃の組み立てや相手の太刀筋の見切りの確かさで他の追随を許さない。
そんなナツヒコが光太郎に刃を当てることができなかった。
今の動きを反芻するが、最善手を尽くしたとの結論になる。
佇立するナツヒコを前にパワードスーツ内では光太郎が戸惑っていた。
「なあ、これってやり過ぎじゃないか?」
「そうですかね? かなり手加減したんですけど」
「そりゃ生身の人間に本気を出したらダメでしょ」
「光太郎様が侮られない程度かつそれなりに強く見えるようにした私の絶妙な匙加減が分かりますか? 優秀な私がお仕えする以上は光太郎様にある程度の敬意を払って頂きたいですからね」
「どう見ても周囲が引いてるけど」
アキトやサチがナツヒコに話しかけている。
「まさか兄上が打ち込めないとは驚きました」
「まあ、酷い剣ではあるが防ぎきられたな。私が見たときはもうちょっと動きが悪かったが、少し上達したのかもしれない」
この会話を聞いて光太郎は頭を抱えたくなる。
「ほら」
「まあ、起きちゃったことは仕方ないですね。あ、そろそろ脱いだほうがいいのでは?」
光太郎はパワードスーツによる保護の解除を命じた。
外に出た光太郎は言い訳がましく弁解する。
「私の実力ではなくて、鎧の性能なんですよ。勝手に反応して動くんです」
「それは問題では無いな。人は道具を使えるから強いのだ。私だって刀が無ければ爪や牙を持つ獣に苦戦するだろう」
強い人間にありがちな独善性を持たぬ柔軟な思考のナツヒコに軽く流され、光太郎は、はあ、と気の抜けた返事をするほかなかった。
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