第17話 情報収集

「それじゃ、外に出て状況を確認してみましょうか。ちなみに指向性スピーカーを使っているので、私の声は他の人には聞こえないですからね。油断していると独り言を言っている危ない人になりますよ」

 庭を移動しながらリークが光太郎に警告する。

「分かった。なるべく話しかけないようにするよ」

「それはそれで淋しいです」

 面倒な人工知能だなと思ったが、口に出しはしなかった。


 門を出ようとするところで若いのが慌てて光太郎に声をかけてくる。

「どちらにお出かけで?」

「町の様子が分からないからさ。少し散策しようと思って」

「御屋形様はご存じですか?」

 そこに賑やかな声がかかった。

「あ、出てきた。コータローだ」

「お早う、コータロー」

 昨日の子供たちが、わあっと光太郎を取り囲む。


「町の探検に出かけるんだな。おいらたちが町を案内してやるよ」

「今日はノーパンやめたんだね」

 子供たちの中にはちゃっかり光太郎によじ登って勝手に肩車をしてもらうのも出た。

「それじゃ、出発!」

 肩車をしてもらっているサブが宣言して移動を始める。

 門番は何か言っていたが光太郎たちを止めることはできなかった。

 

 噂は町中に広まっているのか、行き会った人々は光太郎とリークに尊崇の視線を向けて会釈する。

 歩きながら光太郎が質問をすると子供たちは口々に知っていることを答えた。

 町の施設のこともそうだが、昨日見たモンスターのことも正直に話す。

 大人だと見栄だったり建前のために糊塗される部分もあるところだが、どうも隠し事は無さそうだった。

「昨日私が戦ったモンスターのことを詳しく教えてくれないか?」

「なんだ。コータローは小鬼や大鬼のことを知らないんだ」

「そうなんだ。遠くから来たからね」


「昨日のあいつらなあ。緑のは前は畑仕事をしていて、赤のは力仕事をしていたんだけど、人の言うことを聞かなくなっちゃったんだ。今は蟲人の家来なんだよ」

「蟲人っていうのは?」

 光太郎の質問に子供たちが色々なことをそれぞれ言い出す。

「凄い硬い皮膚を持っていたり、空を飛んだり色んな種類がいるんだぜ」

「そうなんだ。しかも魔法も使うんだぜ。だから警備隊も苦戦することがあるんだ」

「子供を捕まえると巣に連れていってアイツらの幼虫のエサにするんだ」

「でも、コータローと一緒なら平気だよな。めちゃくちゃ強いもんな」


 光太郎には子供たちの信頼と憧れの目が眩しい。

「いや、さすがに私も空は飛べないぞ」

「空を飛ぶのは力が弱いからいいんだよ。石をぶつけるぐらいで落ちてくるし」

「そうなのか」

 そんな感じで光太郎はこの世界に関する情報を増やしていった。

 トーキョー以外にも町があり、キョートという町が一番大きくてそこに一番偉い人がいるらしい。

「首相に呼ばれてナツヒコ様が出かけているんだ。蟲人と戦うんだって」


 商店が立ち並ぶエリア、学校、警備隊の詰所など一通りの場所をサブたちの案内で見て回った。

 トーキョーの町は一辺が1キロほどの四角形をしている。

 最低でも高さ5メートルの石垣が周囲を巡っていて、その外側には幅10メートルの堀があるとのことだった。

「まあ、ここは蟲人の住処からは離れているんだ。だから、たまに鬼たちが襲ってくるぐらい。町の中は安全だよ」

「私と出会った場所は?」

「あそこはねえ。古くからある聖地だよ。毎年夏になるとあそこでご先祖様を祀るんだ。最近は安全じゃなくなっちゃったんだよね」


 夕暮れが近づくと光太郎は子供たちに家に帰るように言い、自分もアキトの屋敷に戻った。

 腹心がやってきて昨日の露天風呂に案内しようとする。

 それを制止して光太郎は質問した。

「その前にお手洗いに行っていい?」

「はい、もちろんです。あのようなむさくるしい場所で申し訳ありませんが」

「他にもあるの?」

「はい。お客様用のものがあるのですが……」

「案内してもらっていい? あ、この鎧は外に置きっぱなしにするから」


 光太郎も現代人である。

 小はともかく大をあの環境でするのは抵抗があった。

 式台のところで雪駄を脱ぎ足を拭くと奥の方へと案内されていく。

「こちらでございます」

「あ、お手数をおかけしました。帰りは自分で戻れます」

「鎧と離れることができるのであれば、風呂も食事も母屋でご用意できます」

「やっぱり、私が蔵で生活していると負担ですよね?」

「いえ、それはお気になさらずとも結構です。ただ、母屋の方が快適とは存じますが」


 光太郎はちょっと考えた。

 リークと相談せずに勝手に決めると何かとてつもないトラブルが発生するような気がする。

 拗ねるだけではすまず、あの熱したナイフのようなもので刺されるかもしれない。

 そんな危険なものを感じていた。

「とりあえず、今日のところは今のままでいいですか? お手洗いはこちらを使わせてもらっていて我儘で申し訳ないですが」


「いいえ。自分の家のような気持ちでお寛ぎください。では、私はちょっと失礼します」

 腹心が去ったことに光太郎はほっとする。

 さすがに用をたす間待たれていては出るものも出そうにない。

 引き戸を引くと1メートル四方ほどのトイレとしては広い空間が広がる。

 そして、何より驚いたのは、自動で便座の蓋があがった温水洗浄便座の存在だった。

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