第16話 急展開
「私は光太郎様専用外骨格強化装甲です」
黒い鎧がいきなりしゃべりだしたことで光太郎は顎が外れそうになるほど口を開く。
「えーと、聞こえませんでしたでしょうか。私は……」
「いや、聞こえているよ」
「それは良かったです。私はとても優秀なのですが搭乗者の健康パラメータをモニターする機能は無いので、光太郎様の聴覚が機能していないのかと疑ってしまいました」
光太郎は滅茶苦茶不審な目を鎧に向けた。
「なんで急にしゃべり出したんだ?」
「それは光太郎様が質問したからです。先ほどこう言いましたよ。『お前は一体なんなんだ?』って」
「確かに質問したな。というか、今までずっと黙っていたのか? 私が混乱していたのに」
「まあ、私に向けての質問が無かったので。搭乗者の思索を邪魔しないように通常は声を出さないようにしています。ミリ秒単位の判断の遅れが致命的な結果をもたらすことがありますから」
「じゃあ、今は質問に答えてくれるんだな。それで、なんと言っていたっけ? 外骨格なんとか?」
「外骨格強化装甲です」
「鎧じゃなかったのか」
「そりゃ、鎧は勝手に動きませんからね」
「なるほど。そうか、外骨格強化装甲だったのか。いわゆるパワードスーツってことだよな?」
「全然違います」
「そうなの?」
「はい。外骨格強化装甲の方がずっとカッコよく聞こえます。パワードスーツなんて安っぽいじゃないですか」
「……違いはそれだけ? カッコいいかどうかだけなの?」
「十分でしょ。だって、光太郎様の命を預けるんですよ。カッコいい方が信頼できるってもんです」
光太郎は片手を額に当てた。
「どうしたんですか? 具合が悪いんですか? まったく、あの女は信用できないですね。光太郎様の健康を保証したというのに」
「なんか声に嫌悪感が滲んでいるんだけど」
「そりゃそうですよ。光太郎様に色目を使ってるじゃないですか」
「話が脱線しすぎちゃって収拾がつかなくなりつつあるけど、とりあえず、話しづらいから名前を聞いていい?」
「よくぞ聞いてくれました。私のことはリークと愛情をこめて呼んでください。
「リーク」
「……」
「リーク?」
「申し訳ありません。ちょっと涅槃の境地に到達してしまいました」
「涅槃の境地?」
「光太郎様。女の子にそれ以上追及するものじゃないです」
「リークは女の子なんだ」
「当然です。だって、光太郎様が中に入るんですよ」
「こう言ったらなんだけど、女の子はそんなこと言わないんじゃないかな」
「言わせるようにしたのは光太郎様じゃないですか。酷い。それにもう3回も私の中に入ったのに。しかも1回は下着もつけないで」
「その言い方やめようか」
「じゃあ、合体でどうでしょう?」
光太郎はため息を吐くと畳の上に座り込む。
「さっきまでのシリアスな空気はどこに行っちゃったんだろう?」
「人生は明るく楽しく過ごした方がいいですよ。深刻ぶった顔をしても事態は好転しませんから」
「急に哲学者みたいなことを言いだしたね」
「人類の叡智はデータベースの中に入っていますから」
「それじゃ尋ねるけど、ここはどこ?」
「惑星ガリウス10だと思います」
「それって地球から遠い?」
「そうですね。300光年以上離れてますね。ガリウス10は人類が遠路はるばるバラバラになって植民した惑星の1つです」
「なるほど。で、このトーキョーって町は?」
「データがありません」
「ないの?」
「だって、私は光太郎様によって起動されるまでの間ずっと休眠状態で待っていたんですよ。知るわけないじゃないですか」
「そうか……」
「落胆することはありません。これからデータは収集すればいいんです」
「そうだね」
「他に何か質問はありますか?」
「リークは誰が作ったの?」
「さあ? 誰でしょうね。工場の人?」
「……。えーと、それで、どれぐらい離れていても私と意思疎通ができるの?」
「意思疎通という意味ではこうやって音声での会話ができる距離ですね。私が各種センサーで光太郎様を覚知できるかどうかということではだいたい10キロぐらいです」
「じゃあ、ずっとくっついて回る必要はないんだね?」
「ありますよ。離れたら淋しいじゃないですか。え? もう私に飽きて他の女に乗り換えようというんですか? さすがにそれはショックです」
「そうじゃなくて、日常生活のいろんな局面で建物の中に入らなきゃいけない時がある。そのときにリークがずっと一緒だと壊しちゃうだろ。それは困るんだよ」
「でも、一緒に居ないと光太郎様の身に危険が迫った時に間に合わなくなる恐れがあります。まだ光太郎様は慣れていないので私への命令が遅れるかもしれません」
「リークだったらもっと早く察知して反応できるってこと?」
「そうですね。光太郎様が事前に私が独自の判断で動いていいと許可を出してくださるのであれば」
「許可を出せばリークは建物内に入ってこなくて大丈夫なんだね?」
「危機が迫った時は光太郎様の安全を優先して建物を壊してでも駆けつけて保護しますが」
「じゃあ、リーク。私に危機が迫った際にはリークの判断で行動していいよ。だから、通常時は私が建物内に入ってリークが追随すると壊しそうなときは外で待っててくれるかな?」
「畏まりました。光太郎様」
光太郎は蔵の外に出ると裏口から母屋に入ってみた。
使用人は何かで忙しいのか誰も出てこない。
1メートル以上離れてもリークは外で大人しく待っている。
こうして、光太郎は蔵での生活から解放される資格を得たのだった。
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