第4話 大地に立つ

 鎧に取り込まれた光太郎は、光る床と共に上昇を続ける。

 視界の先に強い光が見えたと思うと、太陽に照らされた場所に立っていた。

 ここはどこだろうと首を左右に振る。

 なんだか分からないが緑色の肌をした人型のものが群れていた。

 大きな音に反対に首を振り向けると、すぐそばには赤い肌をした巨人が手足を振り回している。

 その顔に目は一つしかなく、矢が突き立っていた。

 手には巨大な棍棒を持ち、辺りをやたらと叩きまわっている。

 その周りにも緑色の小人がたくさん居り、棍棒を避けながら、何やら耳障りな声で叫び光太郎を指さしていた。


 その叫び声にあわせ、巨人が光太郎の方に向きを変え、棍棒を振り下ろしてくる。

 え? これはなに?

 あまりの急展開に頭がついていけなかった光太郎は、身動きしようとすることすらできずにいた。

 危機に瀕した人間によくあることだが、時間の流れがゆっくりとなる。

 光太郎はスローモーションで振り下ろされてくる赤黒いものが付着した棍棒を見据え、ああこれは死ぬな、と思った。


 が、その瞬間、左腕がするすると上がり、棍棒を持つ巨人の手首をがっしりと掴む。

 勝手に動いている?

 光太郎には不思議な感覚だった。この左腕は自分のものだが自分のものではない。

 そもそも自分の細い腕では巨人が勢いをつけて振り下ろしてきた手首を受け止められるはずがなかった。

 しかし、現実にはしっかりと受け止めている。

 そして、左手で相手の腕を支えながら、右足を引き、腰を反時計回りに回転して右の拳を相手の顔に叩き込んだ。

 巨人は数メートルを吹っ飛び、地面に落ちると身動きをしなくなる。

 

 右手の指には確かに何か硬いものをなぐったという感触はあるが痛みは無い。

 冷静になって周りを見渡してみると、暗い部屋の中をうろうろとしていたときと比べ、視線がずっと高くなっていることに気づいた。

 2メートルは超えている。

 いつもより良く見える視線で、落ち着いて辺りを見回すと石造りの建物と大きな開口部があった。


 緑色をした人型のものが手に刃物を握り、建物に侵入しようとして、中にいる誰かと激しく争っている。

 視野が急に伸び薄暗い建物の中には数人の人影が見えた。

 その奥で薄ぼんやりとした淡い光があふれだし、その側にいた人の顔を照らす。

 あれは……姪の祥子!


 こんなところで何をしているんだ、という思いはすぐに消えた。

 この緑色の連中は祥子を傷つけようとしている。

 なんとかして助けなくては。

 こちらに背を向けている緑色の首を右手と左手で1人ずつ掴む。

 頭同士を激しくぶつけ合うと、先ほどの赤い奴の方に放り投げた。


 地面に激突したそいつらの首は変な角度に曲がっている。

 入口から入ろうとしていた他の奴らは、中にいる人たちによって概ね倒されているので問題はなさそうだ。

 問題は、振り返った光太郎の目の前にひしめく数百体はいるだろう新手である。


 襲い掛かってきた緑色の奴らの武器では光太郎の鎧を傷つけることはできない。

 ただ、光太郎にしても素手で殴るのでは効率が悪すぎた。

 今のところ、急に現れたものに気を取られて、こちらに殺到しているが、いずれ自分をすり抜け、中に入ろうとすることに気づくかもしれないと考える。


 そうなったときに中の人間だけで耐えきれるのかは判断できなかった。

 速やかに何か手を打たなければ、そう考える光太郎は独り言をつぶやいている。

「何か、何か、武器は無いのか?」

 光太郎がつぶやくと同時に、右腕の手のひら側から何か筒状のものがせり出してきて右手の中に納まった。


 直径5センチメートル長さ30センチメートルほどの金属製の筒だ。

 籠手の親指が添えられている辺りに四角く切り込まれた部分がある。

 脳裏に浮かんだイメージ通りにそれを親指で押し込む。

 すると眩しく光り輝く帯が筒先から現れた。

 長さは60センチメートルほど。その光り輝く部分を緑色の奴に押し当てると、まるで豆腐を切るようにスッと突き刺さり体の反対側まで突き抜けた。


 筒を動かすと何の抵抗もない。緑色の奴の体は半分に切れたようになっている。

 切り口は焼けて収縮しており、血のようなものは何も出てこない。

 光が貫通して切られた奴はそのまま、バタリと倒れた。

 眩しく光り輝く刃を手に入れ光太郎は勢いづく。

 右手を振り回しながら、緑色の奴らに突撃していった。

 何も抵抗を受けることなく、一方的に光太郎は焼き斬っていく。


 今や、緑色の肌をした連中は恐慌状態に陥っていた。

 一方的に自分たちを狩る漆黒の巨人。

 この巨人さえ越えれば、あの建物の中に入って蹂躙することができる。

 しかし、もうこの巨人とその右手に握られた光の剣を逃れて先に進むことは不可能だった。

 しかも、忌々しいことに中の連中もこの巨人出現の騒ぎに乗じて防衛体制を再構築してしまっている。


 ただ、この緑色の連中はそれほど頭が良くなかった。

 臨機応変な判断などはできず、本能の赴くまま、効果のない突撃を繰り返す。

 十数度の波が押し寄せ、周りに死体の山を築いたが、最終的にすべての攻撃は実を結ぶことなく撃退された。

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