壱ノ不思議 廊下の怪(30p)

 私はコンロの上にカレーが入った鍋を見付けて、近付いた。

 雪絵お姉さんに言われた通り、火を点けてカレーを温める。

 しばらくすると、カレーのグツグツ言う音が聞えて来た。

 カレーの臭いが漂う。

 私の吐く息が白い。

 ただ、それだけだ。

 何も起こらない。

 あの声は聞えて来ない。

 私は火を止めて、カレーをお皿によそり、台所から立ち去った。

 廊下を進みながら、私は小さく笑った。

 私ったら、馬鹿みたい。

 まるでトイレに一人で行くのが恐い子供みたいだったじゃないの。

 何か起こる訳なんて無い。

 台所へカレーをよそいに行っただけだ。

 それなのに、少しだけ緊張したりして。

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