壱ノ不思議 廊下の怪(29p)

「それくらい分かります。中学生ですから」

 雪絵お姉さんは、笑って、いってらっしゃいと私を見送った。

 居間から出て、台所へ向かう。

 私は、あの声の事を思い出していた。

 行かないでと聞えた。

 でも、誰もいなかった。

 アレは、やはり空耳だったのだろうか?

 いけない! 気にしないと決めたじゃ無いか!

 そうだ、空耳だ。

 つまらない事を考えて、せっかくの逃避行を台無しにしたらダメだ。

 私は気のせい、気のせいと呟きながら、台所の暖簾を潜った。

 台所は、静かだった。

 夜だからか、台所の空気はヒンヤリしていて、中へ入った途端に、まるで冷蔵庫を開けたときの様な感覚になった。

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