第2.2話 スレトン

 放課後の体育館裏は意外と騒々しい。


 既に様々な部活動が、その活動を開始しており、ボールの弾む音に、ランニングのかけ声、どこからともなく聞こえてくる管楽器の音色。

 陰になっているせいでいくらか肌寒いが、凪月は別の意味で、心底冷え切っていた。


「とりあえず、昨日のことを謝りたいんだけど」


 凪月は先手必勝で頭を下げた。


「本当にごめんなさい」

「いや、謝られて許せることじゃないと思うんだけど」


 正面に立つ進々は、無感情な瞳でこちらをみつめていた。

 ただ、凪月も納得できなかった。


「いやいや、俺もわるかったけど、おまえもわるいと思うぜ。俺は何度も断ったのに、強引に1on1に誘ってきたんだから」

「私、ものすごいセクハラされたんだけど」

「心の底からごめんなさい」


 ごもっともであった。


「それに1on1も結局そっちからやろうって言ってきたし」

「そ、そうだったかな」

「触られるし」

「……あれはおまえから突っ込んできたような」

「触らされるし」

「……俺が、わるいのかなぁ」


 進々の心的外傷はとても理解できるものなのだが、どうしても凪月は納得できなかった。


「あの、どうすれば、許してもらえるのでしょうか?」

「……自首とか」

「警察沙汰だけはどうかご勘弁を!」


 もしもそうなったらルル姉を道連れにしてやる!


「……慰謝料とか」

「ちなみにおいくらくらい?」

「……一千万」


 ……ルル姉、仕事紹介してくれるかなぁ。


「もしくは」

 と進々は続けた。

「……手伝ってほしい」


 突然言われて、凪月は首を傾げた。


「何を?」

「……部活を手伝ってほしい」


 部活?


 進々の部活というとバスケ部だ。

 それを手伝ってほしいというと、マネージャーか何かだろうか。部活の人員不足なんていうのはよくある話だが、彼女のバスケ部ということは。


「女バスだよな。俺、男だぞ?」

「何を想像してんの?」


 なぜか虫を見る目で見られた。


「別に、練習に参加してほしいとかいうわけじゃなくて」


 何やら、もじもじと進々は、言いよどむ。

 それにしても、進々は、こんな引っ込み思案な女子だっただろうか。

 昨日、遥のふりをしているときは、もっとぐいぐいくる積極的な女子だった気がするけれど。

 あ、そっか。今日は凪月のまんまで、男子だからか。

 ほぼ初対面の男子相手だと、こんなものなのか。


「じゃ、何するんだよ」

「バスケ部を……のを手伝ってほしい」

「は?」


 急に声が小さくなって、凪月は聞き返す。

 すると、進々はびくっと体を震わせた。


 ……昨日の印象では、バスケも一緒にしたし、けっこう打ち解けたような気分だったから少し傷つく。


 そういえば、目つきはあまりよくないと、流々香に言われていた。

 まぁ、そもそも関係は最悪なものになっているのだ。

 そこは、仕方がないと腹をくくろう。


「で、何をするって?」


 進々は、こちらをぐいと睨みつけ、半ば叫ぶように言った。



「バスケ部をつくるのを手伝って!」


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