第34話 私の魔法…?

 

 

「えっ…何…?」

 

 木の破片が宙を舞っています。パラパラとパラパラと……

 少しだけ大きな破片が私の背の数倍まで舞い上がり

 地面に落下し、細かな破片は雪の様にゆっくりと落下してくる。

 

 派手な音と共に、丸太が砕け散りました。それも粉々にです。

 燃えるや割れるでは無くて、砕け散るです。

 自分でも信じられない出来事に、もう驚いて唖然とするしかありません。

 驚きすぎて、私は右手を振り下ろした姿勢のままで固まっていますよ。

 

 何が起こったの?

 

 私がやったの?

 

 頭の中を疑問と驚愕がぐるぐるとしています。

 自分でした事のはずなのに、目の前の状況を信じる事が出来ない。

 ずっとずっと、待ち望んでいた瞬間のはずなのに。

 

「えっと……」

 無理に口を開き、呟く事で硬直から回復すると

 指で両目を三度擦って、もう一度丸太のあった場所を見てみます。

 

 私から十歩ほど離れた先にあるのは、散乱した木片。元は訓練用の丸太

 組んで足場に使ったり、小屋を作る事にも使う丈夫な木から切り出した丸太です

 魔法の矢マジックアローでは削るのがやっとだったのに

 それがものの見事に砕け散っています。木端微塵です。

 本当にこれは私がやった事なのでしょうか?

 

「シルファさん!シルファさん!今のは!?」

「あ、先生?」

 

 私の名を連呼しながらセルティス先生がぴこぴこと走って来ます。

 先生から少し遅れて、コロネ達が走って来るのも見えます。

 いいえ、コロネ達だけじゃないかも?

 さらに続く姿が。一人、二人、三人……こ、これはクラスの全員です。

 同じクラスで学ぶ皆が集まってきます。

 

 なんだか大騒ぎになっていませんか?

 でも思い返せば、既に皆を巻き込んでしまっていますし。

 もはやこの場に私と無関係な子はいません。

 

「シルファさん!」

「は、は、はい!」

 ぼんやり考えていると、セルティス先生に呼ばれました。

 どこから?と見れば、私の真前でぴょんぴょんと跳ねていました。

 

「はぁはぁ、今のもう一度できますか?」

 先生、興奮しすぎでは?

 違いますね、走って跳ねたから息を切らせている様です。

 それはともかく『今の』とは私の魔法の事ですね?

 もう一度出来るかと聞かれたら……

 私自身良く分からないので、ここは試すしかありません。

 

 先生の操る魔法人形達が新しい丸太を準備するのを待って。

 私はさっきの出来事を思い返しました。

「まず、こうだったかな…あ?」

「シルファさん!どうしました!?」

 私の声に驚き先生がまたぴょんっと跳ねました。

 可愛い。可愛いけれど、今はそれどころではありません。

 

 出来る!出来ます!

 

 イメージする事が出来ます。

 私の中にある『新しい魔法』をイメージする事が出来ます!

 空を切り裂く闇色の雷、私の魔法。…私の?

 ふと疑問が浮かんだけれど、今は試す事が先です。

 

「大丈夫です…自分でも驚いてしまって……」

「そうでしたか、よかった」

 微笑む先生の言葉が嬉しい。先生が私を心配してくれているとわかるから。

 なら、見せないと。私が得た魔法を。

 

 イメージがあるのなら、次は魔力をこねてイメージ通りの形へと変えて行きます。

 慣れれば一瞬で出来るのだけど、今は慎重に魔力をこねてこねて……

 魔力がイメージ通りの形へと変わり、出来ました!

 形となった魔法が今にも弾け飛び出しそうです。こんな感覚生まれて初めて。

 

 ここまで来たのなら、後は放つだけ。

 

 私が放とうとしている魔法は魔力の消耗が大きい。

 でも、今の私は魔雫マナに満ちている。

 五日間の特訓の成果、私の魔力容量は以前よりかなり増えている様です。

 

 緊張してきました、気付けば私を瞳がどんどん増えています。

 私を見守っているのはセルティス先生だけではありません。

 コロネにルキアとクロワ、フォルテとルメア。

 少し離れてライラの姿もあります。他にも他にも……

 クラスの全員です。五日間の間、私を助け協力してくれた皆が見ています。

 

 焦らずに、落ち着いて行きましょう。

 まずは深呼吸からです。息を深く吸って吐く。

 皆も一緒に深呼吸しているけれど、気にしない事にします。


 単純だけど馴染んだ動作は私の鼓動を穏やかにし、緊張を解いてくれる。

 大丈夫、行けます。

 二本の指を立てた右手を鼻の前付近で構え

 そして……

 

闇の雷ダークライトニング!」

 叫ぶと同時に指を振り下ろし、イメージを解き放つ。

 

 まず見え聞こえたのは、黒い閃光と空が切り裂かれる音。

 続けて鋭い破裂音が響き、砕け散った木片が宙を舞い

 木片はパラパラと言う音を立て、地面へと……

 

 先程と同じ。私、新しい魔法を使う事が出来たみたいです!

 驚き過ぎて、まだ夢か幻を見ている様な気分。

 頭もぐらぐらして、ふわふわとするし……

 

「シルファすごい!すごいよー!」

「シルファさんやりました!先生も嬉しいです♪」

 

 本当に揺れていました。

 コロネが肩にセルティス先生が脇腹に、それぞれ私に抱き付き揺らしています。

 左右で揺らす位置が違うでの頭がくらくらと……

 

 だけど聞こえます。皆の声が、祝福の声と拍手が。

 今日まで協力してくれた皆が私を祝福してくれている。

 これでみんなと一緒に前と進む事が出来る。

 もう、嬉しすぎて涙が出てしまいそうです。

 苦しく辛い日々よさようなら!

 

 …と言いたいのだけど、どうしても気になる事があります。

 私の中に一つの疑問が生まれていました。

 先程僅かに生まれかけた疑問が鮮明な形となりました。

 

 私はなぜ新しい魔法を使う事が出来たのでしょう?

 

 思い付く可能性は多数あるけれど、その中で気になる可能性が。

 ううん、多分それしか無いと思います。

 だとしたら……

 私、お姉さまにとんでも無い事をしてしまったのかも?

 

 お姉さまに会わないと。会って確かめないと。

 気持ちは焦ってしまうけれど。

 こう言う時に限って、物事はすんなりといかない物で……

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 焦る気持ちのまま時間は流れ、お昼休みです。

 昼食やおやつを食べたり、皆思い思いに過ごす癒しの時間。

 でも、今のは癒されている余裕はありません!

 ありませんのはずなのだけど。

 

「シルファさんおめでとう!貴女はやはり私の思った通りの子だね。うんうん。

 まさか目覚めた魔法が、セレーネさんと同じ闇属性の魔法だなんて……

 私は君に運命の祝福的な物を感じてしまうわ。女神の輝きが見える様よ。

 そんな事も含め、この事を校内新聞に載せてもいいかな?」

 

 ほら、早速ですよ。

 いきなりの啄木鳥の嘴トーク、揺れるブラウンのサイドテール。

 最早お馴染み、新聞部の部長さんこと『ニース先輩』の登場です。

 早すぎやしませんか?まだお昼休みですよ?

 あれから数時間しか経っていないのに、もう先輩の耳に届いているなんて。

 

「先輩いつ知ったんですか?」

「え?だって、派手な拍手が外から聞こえたから。

 聞こえたら見るよね?外をさ。

 そしたらセルティス先生と生徒達の姿があって、私はすぐにピンっときたねー

 新聞部部長の直感って奴?後は流れて来る情報を纏めたら、ね?」

 

 ね?と言われても困ります。

 でも確かに、あれだけ校庭で派手に大喜びしたら

 知れ渡るのは当然のことかもしれません。

 先輩の言う様に、私だって外から騒ぐ音が聞こえたら気になります。

 

「でさ?校内新聞に載せる件どうかな?」

 先輩がずいずい迫って来ます。通りすがりの生徒達も見ているし。

 断りたいけれど、また変な噂が立つのも困ります。

「うう…出来る限り控えめに……」

 悩んだ末の妥協点。

 大見出しで記事にされたりしたら恥ずかし過ぎますからね。

 

 なのに、先輩が見せてくれた新聞の仮原稿には

『覚醒!黒の氷姫に後継者誕生か!?』なんて書いてあるんですから。

 過剰に目立ち過ぎます!いえ、お姉さまの後継者が嫌と言う訳ではないですよ?

 ただ、私はお姉さまと穏やかで静かで甘い学園生活を送りたいだけです!

 

 …結局、小さ目の記事にする事で話は纏まったけれど。

 それでも不安です、大丈夫かな?結局、校内新聞に載る事には変わり無いし。

 ああ、今はこんな事で悩んでいる場合ではありません!

 早くお姉さまの所に行かないと!

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 廊下を歩く私の耳に予鈴が聞こえて来ました。

 もうすぐお昼休みが終わる事を知らせる鐘の音です。

 この時間まで歩き廻ったのに、お姉さまには会えません。

 食堂に屋上、中庭の長椅子。そして校舎の裏

 お姉さまが行きそうな場所は全て巡ったはずなのに、なぜ?

 

 普段のお昼なら、少なくとも最初の食堂で出会えているはずです。

 一緒に食べる約束をしていなくても、お互いの姿を見つければ笑みを交わし合う。

 それが私とお姉さまの日常。

 なのに、今日に限ってなぜか会えませんでした。

 

「もう、放課後かなぁ…え?」

 とぼとぼと教室の戸を開けた私に何かが突撃してきました。

 私よりも頭を一つほど小さい姿、あの子は……「「きゃう!?」」

 悲鳴が重なりました。倒れる程の衝撃では無いけれど、頭突きがお腹に。

 

「あいたぁ、あ!シルファ見つけた!」

「はぐぅ…メリッサ…痛いのは私の方だよ?」

 突撃して来たのは、金の巻き毛の少女メリッサでした。

 彼女に突撃されるのはいつもの事だけれど、見つけたってどう言う事でしょうか?

 

「うん!さっきセレーネ先輩が教室に来てね、『コレ』シルファにって」

 にっこり笑顔を浮かべると、メリッサは小さく畳まれ封をされた紙を渡してくれました。

 見覚えのある色、お姉さまが良く使う便箋の色です。

「お姉さま…が?」

「うん!セレーネ先輩!あれ?あれれ?シルファどうしたのー?」

 

 私は崩れるが如く、その場に座り込んでしまいました。

 便箋の内容は読まなくてもわかります、わかりますとも……

 

 

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