第2話 ルミナス魔法学園


「ルミナス…魔法…学園……」

 それが私ことシルファがそこへ到着し最初に呟いた言葉。

 

 気の良い乗客達に見送られながら魔蒸気を降りた私だったけど

 すぐに目的地となる場所を見つける事が出来ました!

 むしろ迷う事すら難しい、私の目的地はこの街で最も目立つ巨大な建造物だったのだから。

 

 最初はその巨大さゆえ、それを目的地として気付く事が出来なかったのだけど……

 細かい事を気にしてはいけません、目的は達成すればそれでよしなのです。

 だって、大きいとは聞いていたけど

『それ』は私の想像を遥かに上回る巨大さで。

 最初『それ』を見ても目的地となる場所の建造物と認識出来なかったのだから

 仕方がないのです。

 

 とにかく私は到着した、ここに到着した。

 さあ、気を取り直して前に進もう。前向きなのは大事。

 

 さて、私の見上げる左右にはずっしり構える二本の門柱。

 両手で抱えるのも難しいほどの太さ、素材は石?金属の光沢の様にも。

 そして、そのどちらにも複雑な紋様と文字列が浮き彫りで彫刻がされている。

 二つの一方には共用語が、そしてもう一方には魔法文字で。

 魔法文字の方は私の学んだ物と微妙に異なるので読みとりが難しい。

 もしかしたら、古い形式なのかも?

 魔法文字と一言で言っても、その種類は豊富で複雑だから。

 話を戻すとその一方、共用語で書かれた文字こそ私の目的地の名。

 魔法の学び舎『ルミナス魔法学園』です。

 多分もう一方にも同じ名が書かれているのだろうけど、ひとまず保留。

 

 門柱の間からは薄い桃色の道が一直線に続いている。

 レンガかタイル張りなのでしょうか?

 その道に沿って視線を先にやればその先には白き巨城が聳え立つ。

 それが学園の本校舎。

 遠くから見る校舎は淡い霞がかかり

 それがますます巨大にそして幻想的な姿に見せています。

 さらに本校舎の左右には天を貫く尖塔が二本。

 右手に見える方は校舎より少し高い程度だけど

 左手に見える方は校舎の倍以上の高さがある。

 こちらもまた香住がかかり、その突端の姿を曖昧にしている。

 

「うん、ルミナス魔法学園…よろしくね!」

 ひとしきり眺め終えると、小声で呟いてから革製の旅行鞄の取っ手を握り締め歩きはじめました。

 ある意味ここからが本番だ、まだ入り口に立ったにすぎないのだから。

 とにかく今はあの校舎を目指そう、そうしない事には始まらない。

 様々に思い馳せながら鞄の車輪をカラコロと言わせ、門柱と門柱の間を通り抜ける

 これが学園での最初の第一歩。なんとなく気合いも入ります。

 

「ふわ?花弁はなびらでいっぱい……」

 そんな私を出迎えたのは花弁の雨。止む事の無い薄い桃色の雨が私へと降り注ぐ。

 道の左右には小さくも愛らしい花を満開に咲かせる木々が並木となり、それが花弁を舞い散らせ歩く者達へと降り注がせている。

 先程まで道の色として思い見ていたのはこの降り積もった花弁の色、そして先程校舎が霞んで見えたのは、花弁の雨を通し校舎を見ていたからです。

 これはまさに幼い日に読んだ絵本の一場面

 歌をうたい弾む様に桃色の花の道を行く少女達……

 この道をお姉さまと並び歩いたらどんなに素敵だろう。

 二人で並び歩く姿を想像をすれば

 胸は大きく弾み胸元を飾るタイも兎の様に跳ねる。

 はい、想いを募らせ膨らませシルファの心身は大きく成長しましたよ。

 …身長の伸び具合は微妙だったけど。代わりに髪が伸びました。

 今の私を見てお姉さまはどう思うのだろう?どんな事を言ってくれるのでしょう

 

 そんな夢想の中、ふっと気付けば私の白銀の髪に花弁。

 花飾りは愛らしいが、これは少々恥ずかしい

 こう言う時に伸ばした髪と言うのは困り物です。

 私は苦笑を浮かべつつ髪から花弁を払うがすぐに新しい花弁が。

 溜息混じりにもう一度払うが、すぐに新たな花弁。

 これはきりがない。でも……

 ああ、こんな時にお姉さまが側にいたら私の髪をそっと……

 髪に触れるお姉さまの指先、その感触を思い出せば私は小さく身震いしてしまう。

 …っと、これはいけない!ここに来てお姉さま欠乏症が出始めている。

 今の私はきっとしまりの無い表情をしている。

 こんな顔をお姉さまに見られたら……

 でもそれはそれで…落ちつけ私!まずは深呼吸。

 すーはー……

 すーはー……

 

「花弁可愛い♪髪、綺麗だね」

「え…?」

 誰?と言う間もなく風が通り過ぎて行った。

 髪に触れる指の感触そして涼やかな声。そして頬を撫でる風、全てが一瞬の出来事。

 直ぐに声の主を追うも、遠くとなった背中が遥か彼方へと走り去っていくのが見えるのみ。

 風に流れる金の髪はその先端が緑に染まり、左右に突き出ているのは葦の様に細長い耳。

 多分だけど、あの子は噂に聞いた『森妖精』だ。

 森に住み自然と調和し生きる神秘的な種族。行使する魔法も風や土等の自然に関わる物が多く、それらに秀でるらしい。

 彼女達はあまり街には出る事が無いと聞いていたが、様々な種族がこの学園に来ているんだ……

 あれ?一瞬だけ森妖精の彼女が振り向いたように見えました。

 気のせいかな?

 同じ学年となるならば話す機会もあるかもしれない、それを期待しよう。そうしよう。

 

 そんな事を思う中でふっと気付いた。

 緊張で見えていなかったけど、周囲には多くの姿があった。

 同じ制服を身に纏った少女達の姿

 胸元には私と同じ薄い花色のタイが揺れている。

 それは同じ学年となる証。

 少女達の身長は様々、髪の色も金、赤、亜麻…多種多様。

 きっと彼女達もまた故郷を離れ、同じ様な想いを胸にこの学園へとやって来たのだろう。

 もしかしたら未来の友人もこの中にいるのかもしれない。

 ああ、そうだきっといる。そうでなくてもここで一緒に過ごす事にはかわりない。

 そう思うと胸の奥に何か熱く弾む様な気持が沸き上がって来るがわかる。

 私はもうすぐこの学園の一員となるんだ。

 うん、そのためは受付を済まさないと!一人こくりと頷くと再び歩き始めた。

 

 

 さて少し説明。ここで行われる入学試験の類は無い。

 代わりに入学希望者は各地域で適正検査等を受ける事になる。

 これは私の様な地方出身者を配慮しての事らしい。ありがたい……

 試験は基礎学力試験と基礎魔法力試験、それと適正検査を兼ねた面接がある。

 合否はその日のうちに決まり、合格した者には後日制服等の必要な物が学園から送られてくる。

 だから、私がこの学園にやって来るのが初めてならば見るのも初めて。

 全てが初めて尽くし。

 

 ちなみに制服着用には身分の証明と少女達の安全を確保する目的がある。

 私は無事学園に着いたけど、万が一の場合はその地域の自衛団…場合によっては国の騎士団が動くらしい。

 自衛団はともかく、少女一人を守るために騎士団が動くなんて普通はありえない。

 それほどにこの学園の影響力は大きく、国の威信や名誉にすら関わってくる。

 だから、ここで学びやがて巣立つ将来性高い魔法使い達を守る事は重要なのです。

 

 

「到着っと、んーやっぱり大きいなぁ……」

 てくてくと歩き続けやっと到着しました昇降口前。思った以上に距離があった。

 私は一呼吸すると身を逸らす様にしながら校舎を見上げてみる。

 やはり大きい。大きいと言う言葉ばかりが出てしまう程に大きい。

 遠くからでも巨大と感じた学園の校舎だけど、間近まで来るとさらに圧巻だ。

 まるで途方も無く深い谷底に居る様な錯覚さえ覚えてしまう。

 どれほどの数の生徒達がこの学園内に収まり魔法を学んでいるのか、想像さえつきません。

 全てが圧倒的、ぽかんとしたまま足が進まない。そんな私に呼びかける声が。

 

「そこの貴女!お胸を自慢したくなる気持ちはわかりますが、愛らしい顔が台無しですわよ?」

「はい?」

 思わず間の抜けた返事をしてしまったが、何か褒められつつ恥ずかしい事を言われた様な……

 しかし確かに、この状態が傍から見て間抜けであるのは確かです。

 今の私は天を見上げたまま、ぽかんっと突っ立っている状態なのだから。

 だから急ぎ顔を降ろすと姿勢を正し声の主の方へと振り向いた。

 瞬間、世界が変わった。

 

 正確には『彼女』のある場所だけ世界が違う。

 彼女を通し見る背景まで違って見える。

 存在感?、纏い放つオーラが他の生徒達と違う。

 頭の左右で揺れるのはクルクルと巻いた金の縦ロール

 私を見据え凛と輝くのは青緑石の瞳。

 同じ制服を纏っているのに

 彼女のそれは何か豪奢なドレスの様にさえ見えてしまう。

 そうだ、これは所謂『お嬢様』と言う存在です。うん、間違いない。

 一人納得し頷いていると再び声がしました。彼女の声。

 

「だから貴女!いつまでそこで呆けているつもりですの?」

「はい?…あ……」

 そこでやっと気付いた。私が立つのは昇降口前のど真ん中、このままでは通行の邪魔でしかありません。

 彼女は遠まわしではあるがその事を指摘し注意していたのだ。多分。

「えっと…お先にどうぞ」

「ふぅ、まったく…貴女もこの学園に通わんとする淑女ならば、常に周囲に気を払いなさい」

 あ、いい人だ。

 ぶつぶつと言いながら通り過ぎて行く背中を見送りながらそんな事を思う。

 苦言を呈してはいるが、本質的には見知らぬ私に気を使ってくれている。

 なんとなくだが彼女とはまたどこかで会う、そんな予感がする。

 ん?何か忘れている様な……あ!


「私も早く受付に行かないと!」

 ぽんっと手を叩くと彼女の後を追う様に私も学園校舎の中へと入っていた。

 

 

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