第6話 終章
「――うーん。いつ食べても絶品だわァ~。このパンケーキは」
「――でしょでしょ。アタシが苦労して製造法を再現したパンケーキが不味いわけないもの」
二人は
先日、怪盗
「――
そう言うと、
「――他にもこういったスイーツはあるですか」
「――もちろん、あるわ。それも数えきれないくらい。いまもそれらの再現の研究中よ。だけど、みんなには内緒にしてね。特に
途中で声をひそめて言った
「――その点、怪盗
「――ホントですね。けど、そいつはもう警察に捕まりましたわ。
「――これまでの盗難品も、
「……でも、その怪盗
「――それは大丈夫です。アタシが即席で開発した神経衰弱装置を装着させて、
「――あら、さすがは
「――そうね。どうしようかしら」
「……
自分を呼ぶ声が聴こえた。
「――
「……………………」
「――突っ立ってないで、はやく座りなさいよ」
「……………………」
「――どうしたのよ、
「――とにかく、座って」
「――なんだかまた悩んでいるみたいだけど、アレはもう解決したんじゃないの?」
「……アレはもう解決したわ。夜はうなされなくなったし、心はすっきりしている……」
「――それってトラウマは克服したってことでしょ。よかったじゃない。それなのに、いったいなんで悩んでいるの? アタシたちの裸体映像流出の心配ならいらないわよ。記憶操作で
「……そうじゃ、ないの……」
「――それじゃ、なんなのよ?」
「……好きになってしまったみたいなの……」
「……誰をよ? 好きになってしまった人って……」
イヤな予感に眉をしかめた
「…………ヤマトタケルを…………」
「…………………………………………」
今度は
「――あら。ヤマトタケルって先月の事件に続いて、今回も事件解決にみちびいた立役者じゃない。
「――でも、なんでそれで悩むの、べつに禁断の恋というほどの大げさなものじゃないと思うけど」
「……大げさじゃないですけど、深刻なんです……」
「どうして深刻なの?」
「……他にもいるからです。タケル以外にも……」
真実を知っている
「……そう、そうなのよ。なのに、アタシは……」
そして、自分自身を責めるような口調で言うと、となりにすわっている
「……アタシ、どうしたらいいの……」
そのように問いかける。その表情は真剣きわまりなかった。
(……どうしよう。マジで……)
問いかけられた
(……
すべてを知っている
「――ねェ、観静、なんとかならないの。ヤマトタケルとは近しいんでしょ」
事情の知らない
「……そ、そうは言っても……」
せっつかれた方は困惑するしかなかった。だが、そのあと、さらに困惑する事態が発生した。
「――やはりここにいたわねっ!」
下村
しかもその背後には、糸目の少年――小野寺
その衝撃で、テーブルの上にある皿やコップが短く鳴る。
「――なによ、いったい。こっちは取り込み中なんだから、取材ならあとに――」
「――とぼけてもムダよ。アンタ知ってるんでしょ。ヤマトタケルの正体を――」
「えっ!?」
思いもかけぬセリフに、
「――ちょ、アン――」
「――アタシはわかったわ。ヤマトタケルの正体が。これまでの取材で、ついに」
『――ええェ~ッ! ウソォ~ッ!』
「――まったく、
「……………………」
「――あら、わかったんだ。ヤマトタケルの正体が。だれなの、いったい」
なにも知らない
「――小野寺家を影から代々守る裏小野という一族の末裔よ」
『……………………』
「――よくよく考えたら不思議だったのよね。小野寺たちが危険になると、いつもタイミングよく現れるんだもの。でも、これなら合点がいくわ」
『……………………』
「――アタシ聞いちゃったんだからね。
(……ホッ……助かった……)
(……下村がバカで……)
と、内心で付け加えて。やはり下村
(――できればアタシたちとは無関係なところでね――)
「――それで、小野寺。ヤマトタケルに会わせなさい。アンタの影の従者なんでしょ。主命にはしたがうはずよ」
「――えっ!? あ、会ってどうするの?」
「もちろん独占取材に決まってるでしょ。訊きたいことは山ほどあるんだから」
「……で、でも……」
言いよどむ
「……ああ、どうしたらいいの、アタシ……」
「……なんだかなかなかのカオスになってきたわね」
亜紀はこの状況の感想を述べると、フォークに刺したパンケーキの一切れを自分の口に運ぶ。
「……そうですね。しかもそれがさらに深まる要素が、ここに入店して来ます」
その現実から目をそらすように窓外の景色を眺めていた
――二人が入店した
暑い一日になりそうであった。
――完――
才能と志望が不一致な小野寺勇吾のしょーもない苦難2 -中二病精神が旺盛な鈴村愛の苦悩- 赤城 努 @akagitsutomu
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