第5話 怪盗比呂
――その頃、ヤマトタケルこと小野寺
「――つまり、おまいら三人が久川容疑者を追うておったら、勝手についてきた下村はんも含めて、現場で消息を絶ってもうたっちゅうわけか。おまいをのぞいて」
ひととおり
「――はい」
「――
そうぼやいた
「――せやから久川に返り討ちに遭うんや。こういう時こそ警察の出番やっちゅうのに」
「……………………」
「――せやけど、おまいはよう久川に返り討ちに遭わへんかったのう。そないに戦闘技能があるわけでもあらへんのに」
「……う、運がよかっただけです。本当に、それだけです……」
現場で久川
「――それよりも、
「――残念ながらわからへん。なんせ
「――そうだっ! 物体探知装置を使えばっ!」
「――せやっ! それがあったわっ!」
「――残念ながら、それは不可能だ」
水を差すような声が、二人の耳に聴こえた。
「どういうことなんやっ!
「――
「――それでも不可能なのだよ、
沈痛な面持ちでかぶりを振った
「――人間のように発見対象に物理的に可変する要素があっては、どんなに外見的に鮮明な記憶情報で精神波を撃っても、探知はできないのだ。撃った時に入力していた外見的記憶情報の精神波が、探知したい対象のそれがつねにその形状を保持しているとはかぎらないのだからな。バッジのような無機質な固体とちがって」
「……ど、どういう意味や?」
「――同一人物の顔でも、喜びと怒りだとその形状は異なるだろう。喜びの表情で精神波を撃っても、発見したい対象の表情が怒りの状態だと、符号せずにスルーしてしまう。つまり、そういうことだ」
「……な、なるほど、わかった、ような、気がする……」
「――第一、物体探知装置はその盗賊に破壊されてしまっただろう。いま助手たちが修理しているが、いつになることやら」
「……あ、そうだった……」
思い出した
「……打つ手なし、ですか……」
「――向こうから姿を現さんがぎりはな」
「――そのことなんだ、
「――こんなものがワタシの家に届いてあったのだ」
「――なんや、これ?」
受け取った
「……読めばわかる……」
そのカードには、ゴシック体の
曰く――
明日の夜八時、
――怪盗
「……こ、これは……」
「……犯行、予告……」
「――そうだ。二人とも」
「――ヤツは苦労して作り上げた物体探知装置を破壊しただけでは飽きたらず、今度は『萌え絵』まで盗もうとしているのだ」
そして近くにある机に手を叩きつける。
「――あれは数ある
「おのれっ! 犯行予告やとォツ!? 警察をなめくさりおおってからにっ! 絶対に逮捕したるわっ!」
「――頼むぞ。龍堂寺警部。ぜひ怪盗から守り通してくれ。甚大な労力を費やして再現したあの萌え絵を」
「――労力といっても、そのほとんどはあなたの助手が払ったものでしょ」
冷ややかな声が、
「――黙れ、元助手。労力を払ったのはワタシの助手でも、着想にいたったのはこのワタシ自身だ。どちらがより貢献したかは、口に出すまでもなかろう」
肩越しに振り向いた
「――とにかく、警察に研究所の警備を要請しなさい。まったく、アタシが付きそって正解ね。でないと、話が本題からそれてしまうところだったわ」
だが、たしなめられた方は、痛痒を感じさせない口調でぼやいた。
「――それを言うなら、そういう貴様はどうなんだ。怪盗
「――なっ、なに言ってるのよ、
「――わかったわかった。お二人さんの言いたいことは――」
言い争う
「――ただちに
『だれが痴話ゲンカ』「だっ!」「よっ!」
最後の一文字をのぞいて。
「――と、とにかく、あんさんの『萌え絵』は絶対に奪わせへん。警察の威信にかけて」
「――うむ。たのむぞ、
「任せときい。あんなごっつうべっぴんな絵を、ワイは今まで見たことはあらへんからな。萌え絵を守りとおせたら、記憶情報でもええから、何枚かそれをワイに譲ってくれ」
「――案ずるな。功績に見合った対価は十分に払う所存だ」
「おおきに。これで萌え絵は安泰だな。ガハハハハハハ」
「ハハハハハハハ」
「……怪盗
『……あ』
意表を突かれたような
「……ハァ、まったく、もう。これだからオトコは……。ねェ、小野寺くん」
「えっ!?」
「――え、あ、うん、も、もちろんやとも。あんなインスタント怪盗は必ずワイラ警察がとっ捕まえたるわ。せやから安心せい」
取ってつけたような
「――ほな、さっそく警備に回せる警官を動員させるわ。可能なかぎりの数をな。あと
「――うむ、わかった。萌え絵を守るために、こちらも協力は惜しまない。再現に成功した一周目時代のセキュリティシステムの試験もかねて導入する。助手よ、ただちに準備しろ」
「――だから、アタシはもうあなたの助手じゃないって」
「――いいから行け」
「――それと、テレポート交通管制センターの所長に、
「――こちらも物体探知装置の修理を急がせよう。何かの役に立つかもしれん。怪盗
「――怪盗
それに
「――安心せい、
「……………………」
だが、
(――仕方ありません。陸上防衛高等学校から、アレらを無断で調達しましょう。先生に見つかったら怒られますけど――)
そして、そのように決意することで、不安を打ち消すのだった。
「……うう、どうなっちゃうんだろう。アタシたち……」
そんな
「――大丈夫よ。
「えっ!?」
「――特にタケルの強さは尋常じゃないわ。それは、この前の連続記憶操作事件で行動と共にした
「……そんなこといったって無理よォ。タケルは強いとはいえ、神出鬼没で何を考えているかわからないし、小野寺にいたってははヘタレを絵にかいたようなヤツで全然頼りないし、これでどう希望を持てというのよォ……」
だが、
「――ほっときなさい、
冷たい声で言い放ったのは
「――好奇心で何でもかんでも見境なく首を突っ込んだ下村の自業自得よ。おかげでどれだけアタシたちに迷惑をかけたか。その上、アンタのことを悪く言うし」
「……………………」
「――ましてや、
中二まじりなのはちょっとどうかと思いながら、
「……たしかに、アタシは
「……でも?」
「……もし、
「……………………」
「……
「……………………」
「……そんな自分を許してくれたアタシが、以前のアタシのように
「……
(……もう、アタシなんかのためにつらい思いをさせたくなんかない。だれひとり。だから、アタシのためにつらい思いをしている人とふたたび出会えたら、今度こそ言うわ。あの時にいうべきだった、あの言葉を……)
そう誓った
施設の各所に配備されている警察官の表情はとても厳しく、けわしいまなざしで周囲を光らしている。
施設の関係者は安全を考慮して、幾人かをのぞいて退避済みである。
怪盗
「――現れたとしても、一瞬やろうからな」
「――せやけど、現れたその瞬間こそが怪盗
そのセリフをそばで聞いていた蓬莱院
第一研究室の中央に展示されてある萌え絵には、ある仕掛けが施されているのである。
正確には、萌え絵の額縁に。
これに触れると、全身が麻痺して動けなくなるのだ。
電気を流した鉄条網のように。
怪盗
萌え絵も持って。
その瞬間、額縁に仕込んだ
仮に、まんまと萌え絵を盗み出すことに成功しても、こちらには観静
「――警察をなめくさりおおってからに。今までさんざん
「――そろそろ時間や。
そして、第一研究室の周囲の機材や調度品の陰に隠れている部下たちに言うと、
全員、萌え絵から一瞬たりとも目を離さずに。
勝負は一瞬で決まるのだから。
犯行予告の時間は刻一刻とせまる。
三分前、二分前、一分前……
時間が経つにつれて、室内の緊張が高まる。
そして、秒読みの段階に入る。
五秒前。四、三、二、一――
「――ゼロッ!」
犯行予告の時間と同時に、室内の緊張感は頂点に達した。
その瞬間――
第一研究室に一個の人影が突如現れた。
黄色を基調としたハデなデザインの衣服に、チョビ髭とパンチパーマにサングラスをかけたその容姿は――
「――怪盗
「とことん警察をなめくさりおおってっ! かかれっ!」
上司の号令に、物陰に潜んでいた部下たちは一斉に躍り出た。
だが、この時になって、
「――
と、
そして、
その直前、怪盗
萌え絵に触れる前に。
「なんやとっ?!」
おどろきの声を上げた
「萌え絵はっ!?」
だが、そこにあるはずの萌え絵は消えてなくなっていた。
怪盗
「――せやけど、どうやって」
「――怪盗
室外や研究所外にいる部下たち命令し、
「――ヒヒヒヒ。バカなヤツゥ。萌え絵に罠を仕掛けてることくらい、お見通しだっつんだよ。ナメんじゃねェぜ、オレを」
怪盗
右わきに萌え絵を抱えて。
事前にそれを看破していた
自身と萌え絵を、同時に。
マフラーをバイパスに物理的に萌え絵と繋がっていれば、直接手で触れなくても一緒に
――というより、できないと論理的に色々と矛盾が生じる。
もし
「――うん、『アレ』で何度か見たけど、やっぱ肉眼で見るのが一番だぜェ」
とあるビルの屋上に
「――いたぞ、あそこだっ!」
だがそのあと、怒声に似た声が背後から聴こえた。
警官らしきの声であった。
テレポート交通管制センターの対
「――ちっ、もう追いついてきやがったぜ」
怪盗
「――なんだよ。昨日と同じじゃねェか。どうしてなんだよ」
「――クソッ! ウザってェぜェッ!」
「――いずれにしても、オレみたいなヤツがそうゴロゴロといるわけじゃねェんだ。テレポート交通管制センターの機能を、警察が
そう言って
「――どこやっ! ヤツの位置はっ!」
その頃、龍堂寺
「――ここです。ここに
少年は答える。この|少年は、昨日も、観静
「――よし、保坂はここに。楢原はそこに
警官である龍堂寺
犯人追跡の指揮を執るために。
それには、テレポート交通管制センターの機能が不可欠なのである。
これは、警察には告げずに独自に活用した
それを採用したテレポート交通管制センターの所長が、この管制員に運用を一任したのである。
前回はこの管制員の判断で観静
むろん、このシステムの使用は、テレポート交通管制センターの所長から許可を得ている。
「――また消えおおったっ! 今度はどこやっ!」
「――少しお待ちください」
あどけなさが残っている管制員は端末を軽やかに操作する。
「――ここに
「――よっしゃ、じょじょに追いつめてきたでっ!」
「――年貢のおさめ時やな、怪盗
「――あれ、待ってください」
そこへ、管制員が水を差すような声をかける。
「――怪盗
これまでは、行き当たりばったりの不規則な動きで、超常特区の市街区島中を
管制員の報告に、
「――どこへ向かっとるんや」
「――この方向は……まさか――」
管制員がおどろきの声を上げかけたその時――
「――やっぱ
その声は突如二人の背後から投げかけられた。
二人は同時に背後を振り向くと、
「――怪盗
が立っていた。
だが、その姿はすぐに消失する。
怪盗
怪盗
テレポート交通管制センターの屋外に、二人とも。
どちらも三階の位置からそのまま落下し、地面に叩きつけられた。
「ぐはっ!」
二人とも何とか受け身を取ったが、それでも激突の衝撃は計り知れなかった。全身に激痛が走り、管制員はそれで意識を失い、
「――これでオレを追いまわしてやがったのか。ウザってェもんを作りやがって」
一人となった第五管制室で、
――こうして、警察は怪盗
テレポート交通管制センターの第五管制室でその姿を確認したのを最後に。
「――よし、もう追って来ねェな」
とあるビルの屋上で、警察の追跡がなくなったことを確認した
「――はァー、疲れたァ……」
大きく息をはいた
「――これじゃ、スリルを味わう余裕がねェぜ、まったく」
「――けど、それ欲しさに盗みをやるには、ワリが合わなくなってきだぜ。こんなにしんどいんじゃ……」
引き続きぼやく
「――しかたねェ。とりあえず、しばらくの間、大人しくしているか。ほとぼりが冷めるまで」
結局、ごく無難な案に落ち着く。
消極的とも言える。
「――しかし、その間ヒマになるなァ。なにして遊ぼうかァ……」
夜空を見上げながらふたたび考える
「――そうだ。あのオンナどもがいたじゃねェか。ヒヒヒヒ」
思いついた
「――せいぜい楽しませてもらおうじゃねェか」
そう言って音を立てて舌なめずりする。
しかし、
「――そんなことはさせませんよ」
聞き覚えのある声が
それを聞いた
マッシュショートの髪型に糸目をしたその容姿は、
「――なんだ、てめェか。おどかしやがって……」
小野寺
「――よくわかったな。ここにオレがいることを――」
「――あそこの展望台から望遠鏡で捜していたら、偶然あなたを見つけたのです。そして――」
「――テレタクでここへ
「――まさかおめェのようなヘタレに見つかってしまうとはなァ」
自嘲気味に述べる
「――で、そのあとはどうするんだ? オレを捕まえるのか? 捕まえられるのか。おまえごときのヘタレに。そんなオレとでも思っているのか?」
「――べつに構いません。捕まえられなくても。今はあなたを捕まえることよりも、囚われた
「――ほほう。それはそれは、ご立派なことで」
「――それで、今度はどうやってその三人を助けるんだ? 居場所すらつかめてねェっつうのに。おまえにそれができるのか?」
「――その必要はありません。なぜなら、ヤマトタケルさんが三人を助けますから」
「ヒャハハハハッハハハハハッ!」
これ以上ないくらいに。
「――おまえ、そんなヤツにそんなこと期待しているのかよ。ホント、ヘタレなヤツだぜ。期待するだけムダだっつうのに」
「――どうしてですか?」
「――それはな、あいつも三人といっしょに囚われているからだよ。瀕死の状態でな。このオレがそうしたんだ。ムダな期待、ご苦労さまだったな」
「――そんなことないですよ。現にヤマトタケルさんはこうしていますよ。ねェ、タケルさん」
「――なっ?!」
オールバックの髪型にツリ目をしたその人影は、まちがいなくヤマトタケルだった。
「……そ、そんなバカな?! どうしてお前が、ここに」
「……………………」
「……い、いや、その前に、お前は瀕死の重傷だったはずだ。オレの
「――
ヤマトタケルが問いただす。問いただされて、
だが、混乱の極に達している
「――それよりも、お前はどうやってあそこから脱出したんたっ!? あそこは地下深くにある上に出入口もないんだぞ。なのに……」
「――だったら自分の目で確かめてみたらどうだ。そんなに信じられねェってんなら」
「――チッ!」
音高く舌打ちした
「……変だ。何度見直しても脱出した痕跡がねェ」
時間をかけてそれを終えた
「……三人はいるが、やはりタケルがいねェ。いったいどうやって脱出を……」
茫然とつぶやいた
と、その時、
「――ここだったか」
その声に、
「――服だけが残されたこの工事現場の地下に監禁されているんだな。鈴村たち三人は」
その声の主――ヤマトタケルは、あわてて身体ごと振り向いた
「――なっ?! なんでおまえがここにっ!」
「――どうしてわかったんだっ!」
「――おまえが抱えてあるものをよく見るんだな」
そのように答えられた
「……こ、これは、まさか……」
「――そうだ。精神波発信機さ」
タケルは淡々と答える。
「――おまえがそれを盗んだ時から、おまえの位置は丸わかりだったのさ。オレには」
ヤマトタケルこと小野寺
ちなみに、さきほどのとあるビルの屋上にいる
「――クソッ!」
そのことに気づいた
「――それじゃ、三人を開放してもらおうか」
ヤマトタケルは要求する。事実上の降伏勧告である。
「――ケッ、バカがっ! だれが開放するかよっ!」
しかし、
「そんなに助けたきゃ、自分で助けろっ! 必死こいて地下深く穴を掘ってなっ! オレは
そう言い残して
「……なんだ? 見えねぇぞ、オイ。どうなってんだっ!?」
そのまえにすべきことができず、激しくうろたえる。
「――ムダだぜ。
そんな
それを看破していたヤマトタケルこと小野寺
「――もっとも、
「……くっ……」
次々と図星を突かれ、
「――さて、これで王手だな。さァ、どうする」
問いながら、タケルは
「……………………」
それに対して、
(――けっ、バカめ。それでオレの
しかし、内心ではあざけりのつぶやきを発していた。うつむいたのは、あざけりの笑みを相手に見られないよう隠すためであった。
(――どんなトリックを使って監禁部屋から脱出したかわからねェが、どうやら全然しらねェようだな、あいつは――)
ヤマトタケルは、
肉眼での目視による
ヤマトタケルが構えを取り終える前に。
(――もらったぜ――)
内心で叫んだ直後、
ヤマトタケルの目の前に。
そして、ヤマトタケルの胸に手を当てると同時に、ヤマトタケルの姿はそこから消失した。
それと同時に、付近の地面がボコリと盛り上がる。
おそらく圧死しているであろう。
地中に
ヤマトタケルの人体を。
どのぐらいの深さなのかは、目視による目測では正確にはわからないが、ありったけの精神エネルギーを込めて深く飛ばしたのだから、仮に生きていても、自力で這い上がるのは不可能な上に、それまで息が持たない。
「……ヒヒヒ、やった。殺ったぜ……」
「……何度も同じ手に引っかかりやがって。ザァまぁ見ろってんだ」
そのあと、吐き捨てるように罵倒するが、ひきつった調子は引きずったままであった。
そしてふたたび笑い声を上げようと口を開けかけたその時――
「――そっちこそ何度も引っかかるなよ」
その喉元に青白色の光刃がそえられた。
「……な、なんで……」
「――動くな。そして
「……なんでだよォ。なんで地中に
その姿を確認した
「――そんなことはどうでもいい。それよりもこれを転送しろ」
ヤマトタケルは取りあわず、左手にある三日月状の小型機器を
「……これを鈴村たちのいる地下の監禁部屋に転送しろ。連絡がしたい。ESPジャマーの散布ならもう止めた。おまえはできるんだろう。自分の手に触れた人や物体を任意の位置に
「……………………」
「――むろん、三人は無事なんだろ。もしそうじゃなかったら――」
「もちろん無事だっ! すぐにエスパーダをそこへ転送させるっ! だから殺さないでくれェッ!」
「……お、送ったぞ。エスパーダを。いまオンナの一人が装着した」
「――OK。三人の無事を確認した。もうおまえに用はない」
そう言い捨てて、タケルは
怪盗
敗因はヤマトタケルこと小野寺
最後までそれの駆使を看破できなかったのだから、是非もなかった。
「――ありがとう、タケル。また助けてもらったわね」
地下の監禁部屋から、テレタクで脱出したのである。
監禁部屋には防犯カメラはないが、その代わり
ただ、三人とも全裸の状態だったので、その前にタケルが工事現場にあった三枚のきれいなビニールシートを調達し、三人の裸体をおおい隠してあげた。
また、テレタクを要請する際、その管制員は女性でおこなってもらうよう要請したので、男性の管制員に三人の裸体を見られずにすんだ。
おかげで、これ以上男性に裸体を見られる事態はさけられた。
その上、テレタク代はヤマトタケルが持ってくれた。このあたりの配慮と行動は、
「――困ったことがあったら、また駆けつけるよ」
タケルはそう応じるが、彼は知らない。観静
「――それじゃあな」
そう言ってタケルは踵を返す。そろそろ警察が駆けつけてくる頃なので、居合わせてしまうと、なにかと不都合なのだ。前回もそうだが、今回の事件も警察を利用する形で解決したので、その功労者とはいえ、どこの馬の骨とも知らぬヤマトタケルを快く思ってないのは想像にかたくない。軽く見ても重要参考人として連行されるのは目に見えているし、それによって、自分の正体をバレれてしまうのを、ヤマトタケルこと小野寺
「――まってっ!」
だが、それでも引きとめた者がいた。
それは、そんな事情を知らないツーサイドアップの少女――鈴村
一度は踵を返したタケルであったが、その声を無視せずに立ち止まり、身体ごと
その両者を、
「――邪魔しないの」
「そんなァ~。せっかくの独占インタビューのチャンスなのにィ~」
その間、
「……あ、あの、その……」
しかし、思うように言葉が紡げない。決然とした表情でタケルを引きとめたものの、いざ対面すると、過去のトラウマが足を引っ張るのだ。
「…………………………」
タケルは引き続き無言で
「……あ、ありがとう、タケル。助けて、くれて……」
ようやくそれだけが言えたが、それでも多大な気力と精神力を要した。そんな
「――無事でよかったよ」
そう言って表情を喜びにほころばせる。無骨な笑みだが、それを見た途端、
「――それだけじゃないわ。先月の時も、七年前の時も、アタシを助けてくれた。なのに、礼を言うどころか、邪険にしてしまって――」
自分でも驚くほどなめらかに語る。
「――ゴメンね。本当に。命の恩人なのに、今までお礼と謝罪が言えなくて……」
そして、涙まじりに謝罪し、うつむく。
「――鈴村」
苗字で幼馴染の名を呼んだタケルは、ズボンのポケットをまさぐると、その手を差し出す。
その掌の上には、鈴村
それは、鷹のバッジであった。
「――そこにいるヤツが持っていたよ」
タケルは気絶しているパンチパーマの男を見やって告げる。
「――これ、おまえにやるよ」
思いもかけぬ言葉に、
「――どっ、どうしてアタシにっ?! それは元々タケルの――」
「――今まで大事に持っていてくれてたんだろ。これはその礼だ」
タケルは嬉しそうに答える。
「――でも、それはあなたにとっても大事なものじゃ……」
しかし、
「――ああ。大事なものだ。だからこそおまえに持っていて欲しいのさ」
「……………………」
「……………………」
「……あ、ありがとう、タケル……」
礼を言った愛の表情はうれし涙にあふれていた。
「……じゃ、またな――」
ダケルは再会を約束する別れを告げると、今度こそ工事現場から立ち去って行った。
「……ヤマトタケル……」
それを最後まで見送った愛の瞳には、感謝の念以外のなにかが宿っていた。
「……やっぱり覚えてなかったですか……」
しかし、工事現場の出入口を通過したその付近で足を止めたヤマトタケルは、髪型をオールバックからマッシュショートに、両目の形状をツリ目から糸目に戻すと、悄然とつぶやく。工事現場一帯の防犯カメラは、
「……あの鷹のバッジ、
それは一○年前、六歳の誕生日のプレゼントとして、
それでも、自分が失くした鷹のバッジを今まで大事に持っていてくれたことはとてもうれしかった。『ヤマトタケル』としてそれに最も報いるには、
「――別にいいですか。
気を取りなおした
(……やれやれ。大変ねェ、
と、
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