第4話 空間転移での追走劇とその末に
それは、警察の指名手配書の人相と照合したことで証明された。
やはり、
その証拠に、そのパンチパーマの男の所持品の中に、バッジはなかった。
「――それじゃ、どうして
鈴村
元助手こと窪津院
「――うむ。どうやら実物のバッジではなく、バッジの形状記憶が保存されている
「――それじゃあ、そこにいたパンチパーマの男は、たまたまそこにいただけの人違いで、久川
それを聞いた観静
「――いずれにしても、骨折り損のくたびれ儲けだったわ。
憤慨の声を吐き出したのは下村
「……反省の色が全然ないわ、こいつ……」
腹立ちまぎれに文句を並べる
それをよそに、
「――しかし、複数以上バッジが
「……本当にそれで発見できるの?」
「――無論だとも。
そう言うと、
「――元助手よ。さっそく調整作業にとりかかるぞ」
新たなパンケーキを持ってきた
「――なんであなたの手伝いをしなければならないのよ。アタシはもうあなたの助手じゃないのよ。あなたとは同格の第二研究室の室長なんだから」
「なにを言うか。ワタシから見ればおまえなどまだまだケツの青い青二才よ。室長なんて地位など、おまえにはまだ早いわ。満足にうまい紅茶を淹れられない分際で」
「それはあなたの舌がおかしいからでしょ。アタシが丹精込めて作ったモンブランだってマズいっていう始末だし」
「ふん。万人に受け入れられる食べ物を作れぬようでは、しょせん、おまえのスイーツの
「それが萌え絵だというなら、そっちこそそんなもの切り上げなさい。あんなものの何がいいっていうのよ」
「くっ。芸術というものを理解できぬ残念なオンナめ。これだから、色気より食い気を優先するスゥイーツなオンナは……」
そして、両者のやり取りがヒートアップする様を、
「――あれ? そういえば、
第一研究室にいたはずの幼馴染の姿が、いつの間にかどこかへ消えていたことに、
頭上の陽月が夕日のような
初夏のそよ風は心地よいが、それを受けている糸目の少年の表情は、それにはほど遠かった。
「……やはり、おびえていたね。
「……元をただせば、七年前、僕が
「――どうしたの、
そんな
聞き慣れたその声に反応した
「……
つぶやくように言った
しばらくの間、沈黙のそよ風が吹きわたる。
それを破ったのは、小野寺
「……ゴメンね、
それも、突然の謝罪で。
「……どうしたのよ、いきなり」
「……七年前……」
「……………………」
「……七年前、僕が
トラウマを負うことはなかったのにと、
「――同じことよ」
「……どのみち負っていたわ。その人数が増えただけで……」
「……………………」
「……だから、一人で逃げて正解――とは言わないけど、もう気にしてないわ。幸い、あのあと、ヤマトタケルが助けてくれたし、
けど、その代わり
「――専業主夫の道が閉ざされるしまうからね」
二人の幼馴染の後姿を黙然と見やりながら、
「……わけないのよね。これが……」
普通、そんな実績と実力をそなわった人材を、専業主夫などという、誰にでもなれる職業に就くことを、
「――実戦では役立たずで使えない優等生のフリをする――」
ことである。これなら、主席卒業して専業主夫になっても、周囲は別に引きとめはしないであろう。むしろ、忌避する人間が大半になる。ゆえに、小野寺
(――でも、僕のこんなワガママで、これ以上、
と、
たしかに、どんな志望であろうとも、それがかなうなら、それに越したことはない。だれだって志望と異なる道を歩まされるのはイヤなのだから、その点においてはなんの問題ない。問題なのは、志望に必要な才能がまったくともなってない場合である。小野寺
「――
「……
「もちろん、知っているわ」
だが、
「知ってるのっ?!」
問いかけた
「……な、なんなの? ヤマトタケルの正体って」
ごくりと喉を鳴らして。
それは遠くから見守っている
そして、返って来たのは――
「――
であった。
ズルッ!
それも盛大に。
「……融合させやがった。ふたつの中二設定を、強引に……」
「……………………」
「……そ、そう、なんだ……」
困惑しながらもたどたどしく応えたのは、だいぶ経ってからであった。
「……ど、どうしてそう思うの?」
この質問も、けっこうな時間を経過してからである。
「――だって、それ以外に考えられらないんだもの」
「……いったいどういう思考回路で構成されていたら、そんな断言ができるのよ……」
それとは対照に、
「――あ、いたいた、三人とも」
屋上に上がったその声は、その階段に続く出入口から聴こえたものであった。
それを耳にした三人は、そこに視線を集中させると、サイドポニーの少女――下村
「――なによ、いったい?」
そうとも知らず、
「――蓬莱院|が物体探知装置の調整が終わったって」
それを聞いて、
「――終わったんだ。物体探知装置の調整が」
「――行こう。
「――
「……ええ」
「――くっクッくッ。ついに掴んだわ。ヤマトタケルの正体の確証を。これならスクープ間違いないわ」
三人の姿が階段の下に消えると、下村
「――うむ、来たか。待っていたぞ」
蓬莱院
「――さっそく物体探知装置に座ってくれないか」
その中の一人、鈴村
「……今度こそ大丈夫でしょうね……」
と、不審に満ちた表情と口調でにらまれてしまう。しかし、にらまれた方はまったく怯まなかった。まるでその認識がないかのように。
「――心配は無用だ。
自己陶酔気味に言って
「……初めて会ってから思ってたんだけど、本人の娘の前でよくそんな謳い文句が言えるわねェ……」
「――
「……いや、褒めてもなければ公認もしてないわよ。そんな風に受け止められるアンタの神経に呆れているだけで……」
「――いいから早くしてよっ!」
車椅子を形どった物体探知装置に座った
「――一応確認しておくが、バッジの
「――大丈夫。維持しているわ。
「――それはいつ頃したのだ?」
「一週間ほど前よ。それがどうかしたの?」
「――なるほど。前回、物体探知装置が反応したのは貴殿がバックアップしたそれであったか」
「……ええ。本人に返す時になっても、忘れたり劣化したりしないように……」
次々と質問する
「――それよりも、準備は終わったの?」
「――うむ。終わったぞ」
「――では、押すぞ」
「――あぶないっ!」
突如叫んだ
その直後、物体探知装置が、それとおなじサイズの機材に押しつぶされる。
上から降ってきたのである。
その機材が、突然。
第一研究室の一角にあった機材である。
「……な、なんでそれが……」
思いもよらぬ突発的な事態に、
「――ヒヒヒヒ。惜しいな」
聞き覚えのある笑い声を耳にして、
「――そこの二人も潰したかったんだが、まさかヘタレに阻まれるとはなァ。やってくれるねェ」
ぶっそうな事を、愉快そうに言ったその男は、黄色を基調としたハデなデザインの身なりをしていた。
そして、チョビ髭とパンチパーマにサングラスをかけたその容姿は、
「――久川
であった。叫んだ
ただ、
「――ヒヒヒ、その通りだよん。また会ったなァ」
「――返しなさいっ! アタシのバッジを――」
それを聞いて、久川
銃口を向けられているにも関わらず、恐怖の色はどこにもなかった。
「――わっかんねェヤツだなァ。ショッピングモールのところでも言っただろ。返せと言われて返す盗賊がどこにいるんだよって。おなじこと言わせんなよ。バッカじゃねェの」
「うるさいっ! わかっていても言わずにはいられないのよっ!」
「――なっ、なんだね、君はっ!? ワタシの研究室に無断で入った挙句、ワタシの大切な機材を破壊するとはっ! なんてことをするんだっ!」
「――アタシたちや警察からの追跡を逃れるためよ。物体探知装置を破壊したのは。いくら
話の流れにそってそれに答えたのは
「――ヒヒヒ、そっのとおり。けっこう頭いいじゃん、おまえ。そこのわめくだけのバカっぽいオンナとちがって」
素直に肯定した
「なんですってっ!?」
「――貴様、なぜこの装置の存在と場所がわかったんだっ! これはワタシをふくめたごく少数しか知らないものなんだぞっ!」
それに呼応するかのように、
「――さァ、どうしてかなァ。ま、オレ一人で
「――いったいなんの目的でバッジを盗んだのよっ!?」
今度は
「――スリルさ」
「……スリル?」
「――そうさ。一周目時代の中高生が万引きをする大体の理由とおなじだよ。オレはそれが欲しくて他人の物を盗るんだよ。もちろん、盗る瞬間を見せつけて。でないと、盗られたことに気づかずに追って来ねェじゃねェか」
「……だからあの時、あえて見せつけたのですね。
「……それじゃ、あの喫茶店でバッジを盗ったのは……」
「――そ。たまたまさ。コーヒーをすすっていると、なんだか騒がしいから、そこへ行ってみたら、それに目がついて実行に移したってわけさ」
「……そ、そんなぐたらない理由で、バッジを……」
「……バッジを返しなさいっ! 返しなさいったらァッ!!」
「――だァかァらァ、何度も言わせるなよォ。返せと言われて返す盗賊が――」
「――なら撃つ!」
そう叫んだ直後、
粗点を久川
銃口からほとばしった青白色の閃光は、だが、命中しなかった。
その寸前に消えたからであった。
標的に定めていたはずの久川
「――
「また逃げられたわっ!」
「――大丈夫、対策は打ってあるわ」
「いつ打ったのですか?」
「アンタたちが警察に盗難届を出しに行った時によ。さァ、今度は絶対に捕まえるわ。アタシたちの手で」
めずらしく息巻く
「――ふぅ、あぶねェ、あぶねェ」
久川
「――さすがに
「――へぇ、それは言いことを聞いたわ」
聞き覚えのあるそのセリフを聞いた瞬間、
「――げっ、おまえらは――」
観静
「――いくらなんでもはやすぎるぜっ!」
今度はそこから二○メートルほど離れた路地裏の一角である。
だが、
「なんだとっ?!」
数秒も経たないうちに三人がその付近に現れる。
まるで
「くそっ! いったいどうなってやがんだっ!」
捨てセリフを残して、
「――テレポート交通管制センターの所長に会いに行っていたのは、この時のためだったのですね」
「――ええ。ふたつの施設から
それに対して、
観静
テレタクで
しかし、テレタクの利用は有料なので、その料金を支払わなくてはならない。
ゆえに、テレタクでは、
だが、今の三人の
純然にテレポート交通管制センターの機能で対象者を
順番待ちも、その気になれば最優先させることも不可能ではない。
これらの依頼を、観静
この事態を予期して。
結果、テレポート交通管制センターによる
逃走する
時の人の上に
むろん、余計な手間を省いたからといって、テレタクと同様、費用がかかることに変わりはない。そのあたりはひとまずツケにしている。いずれ警察にこの対
あとは、
「――これなら捕まえられるわ。バッシを盗んだアイツを――」
このような手順の繰り返しで、観静
むろん、無数に点在する防犯カメラにも死角はあるので、そこに久川
「――あれ?
「――どうやら見失ったそうよ、管制員からの
「――ってことは、この付近に、久川
トラック、ショベルカー、コンクリートミキサー、鉄骨の束、組み立て式の足場、簡易トイレ、プレハブなどがある。
どうやら建築の工事現場のようである。
四方五○メートル、高さ一○メートルはある仕切りに覆われているので、地上からでは仕切りの向こう側の様子がわからない。
仕切りから上の景色も、闇夜の支配下に置かれつつあるため、暗くてよく見えない。
「――いったい、どこに――」
「――二手に分かれましょう。アタシと
「――うん、わかった」
「――さっき管制員が通報したから、もうすぐ警察が来るわ。それまで逃がさないように目を光らせて。管制員も、この付近にある防犯カメラでこの一帯を監視しているから」
「――ええ」
「……これで、やっとバッジが戻るわ。ヤマトタケルの……」
「……そうね……」
そう応じた
(――あれ? 待って。バッジの持ち主が
その事に考えが至り、首をかしげる。
その時だった。
「動くなっ!」
二人は今、鉄骨の束と仕切りの間を歩いていた。
その途中、
「――待ってっ! 撃たないでっ!」
叫んだその声に、二人は聞き覚えがった。
鉄骨の束の陰から両手を上げて姿を現したのは、サイドポニーの髪型をした、これも見覚えのある少女であった。
「――アタシよっ! 下村
「……なんだ、アンタか……」
「……なんてアンタがここにいるのよ?」
「――なにって決まってるでしょ! 取材よ、取材。アンタたちの。スクープはどこに転がっているかわからないからね。とくにアンタたちは。だから密着取材にしたのよ。なのに、突然テレタクでどこかへ行っちゃう上に、どこにいるのかもすぐに掴めなかったから、テレタクでここへ来るのに時間がかかっちゃたわ」
「――だからってねェ、ここまでついてくる必要はないでしょうに。これじゃ、一周目時代に跋扈していたストーカーと同じよ」
「――とにかく、どこかへ行って。アンタは邪魔な上に足を引っぱりかねないから。
「――それよりも、あのヘタレはどうしたの? アンタたちといっしょに
「――あ、途中で置いてきたのね。そりゃそうよね。士族の子弟の上に陸上防衛高等学校の生徒のくせに、女子にイジメられるヘタレなんだから、いっしょにいても足手まといにしかならないもんね」
『そりゃアンタだよっ!』
「……ほっとこう。こんなヤツ。コイツがどうなろうが知ったこっちゃないわ。
「――そうね。
「――んじゃ、好きにさせてもらうぜ」
突如、
驚いた
だが、さらに驚いたのは、三秒前まで両者の間にいたはずの下村
「――おまえらもしつけェなァ。いいかげんウザったくなってきだぜェ。だから二度とオレを追う気にさせなくしてやるよォ」
――前にたたき落されてしまう。
その後、
「――なっ、なにをする気っ!」
それは
「――言ったろう。二度とオレを追う気にさせなくしてやるって」
「――そんなことをしてもムダよ。アタシたちが断念しても、警察は決して断念しないわ」
「――ヒヒヒ。
「……たしかに、否定できないわ。残念だけど。でも、ヤマトタケルなら――」
「――そうだなァ。そいつならいい勝負ができるかもしれねェなァ。なんてったって、その事件の解決に導いた謎の功労者だからなァ。もしかしたら、今もオレを追ってるかもしれねェ。ショッピングモールの時のように。だが――」
そう言って
「――おまえらは邪魔だ。消えろ」
三人の少女が久川
そこには、三着の衣服が、上から落としたかのように折り重なっていた。
それらの衣服に、
それだけではない。
エスパーダも衣服のうえに落ちてあった。
(――まちがいない。
(――いったいどこに――)
そう思って
背後に気配を感じ、全身を硬直させる。
三人の少女の気配なら、このような
ただならぬ、そしてどこかで感じたことのある危険な気配だからこそ取った
「――なんだ、まだいたのか」
その気配を発している者の声は、明らかに男性のものであった。
パンチパーマの男――久川
「……………………」
「――おまえもいっしょに追っていたのか、このオレを。オンナに追われるのは悪くねェが、オトコに追われるのは好きじゃねェなァ」
「……………………」
「――なァ。いい加減あきらめたらどうだ。あんな子汚ねェバッジのために、そこまで必死になるなんてよォ。はっきりいってバカだし、ものすごくダセェぜ」
「――――――――っ!」
「――ほら、わかったらさっさと
そこまで久川
久川
「――へェー――」
|相対した
「――なんだ、おまえだったのか」
相手の姿を見て言った
「――また会ったな。ヤマトタケル」
ツリ目にオールバックの髪型をした少年の呼称を、
「……三人はどうした?」
静かな声で問うた時になって初めて、ヤマトタケルは久川
「――安心しろ。こう見えてもオレはフェミニストなんだ。暴力を振るったりしてねェさ」
「……つまり、生きていると」
「――おいオイ。オレはそこまで残虐じゃねェぜ。ひでェ偏見だなァ」
言いながら
「――鈴村を物体探知装置もろとも機材で押し潰そうとしたヤツがなにをほざく」
タケルも言いながら
「――へェー、おまえもあの場にいたんだ」
「……………………」
「――ということは、ウワサは本当だというわけか。なら、合点がいくぜ」
「……もう一度訊く。三人はどうした?」
「――そんなに会いたいのかよ。あの状態の三人に。おまえも案外ス――」
と、そこまで言ったところで、久川
その直後、一瞬前までいた
タケルが撃ち放った
すんでのところで躱されたのだ。
と、同時に、タケルの頭上になにかが落ちてくる。
それは、両者のそばにあった鉄骨の束のうちの一本であった。
左右にサイドステップするには
このままでは押し潰されるそれを、タケルは
両断された鉄骨が地響きを立ててタケルの前後でバウンドし、土煙が高く舞い上がる。
それにより、両者はともに相手の姿を見失ってしまう。
しかし、ヤマトタケルは、土煙が収まる前から、鋭い目つきで周囲に視線をめぐらしていた。
いつでも
視界は完全に
だが、
「――ムダだぜ。そんなことしても」
タケルの背後に
タケルは二○メートルの高さから地上に叩き落された。
受け身が取れたとしても、その高さでは、落下の衝撃を完全に吸収するにはほど遠かった。
さらに、
「――ほら、もう一度」
それは、あと三度ほど繰り返された。
「――ヒヒヒ。他愛もねェ」
地面に伏したまま微動だにしないタケルを見下ろして、
「――
「…………………………」
「……おや? 返事がない。もしかして死んじまったかな?」
「――チッ、
「――それじゃ、さっそく
そう言って久川
警察が
そこには三人分の衣類しか見つからなかった。
ヤマトタケルの姿も。
だが、
「……う、うーん……」
あおむけに横たわっていた
だが、それでも、現在の自分が置かれた状況と事態を把握できてないでいる。
「……たしか、アイツの手首を捕まれた後……」
……のところの記憶があいまいであった。右耳に触れると、エスパーダがないことに気づく。なぜ無いのかはわからないが、これでは記憶があいまいになるはずである。そして、意識がぼんやりとした状態のまま上体を起こすと、
「キャアアアアアッ!」
身に着けていた自分の衣服もないことにも気づき、思わず悲鳴を上げる。
「――どっ、どうして裸なのよっ!」
叫びながら、これも反射的に両腕で胸を隠す。それにより、ぼんやりとしていた
これ以上ないくらいに。
「――アイツに
それに答えたのは
「――この部屋、どこにも出口がないわよ。これじゃ、脱出できないじゃないっ!」
不満の声を上げたのは
「――いったいどこなのよっ! ここはっ!」
結局、出口が見つからなかった
(――ヒヒヒヒ。いい光景だぜ)
突如ひびいた下品な男の声に、思わず急停止する。
聞き間違えようのないその笑い声は、久川
それも、音声ではなく、
テレハックではないので、思考を読み取られる心配はないが。
(――やっぱいつ見ても一〇代のオンナのハダカは最高だなァ。ものすごく興奮するぜェ――)
「――やっぱりアンタだったのね。アタシたちをこんな姿で監禁したのは」
(――ヒヒヒヒヒ。いいねェ。その仕草。ますます興奮するぜェ。このためだけに作ったオレ特製の部屋なんだからな)
「――この変態っ!」
「――はやくアタシたちを解放しなさいっ!」
続いて
(――いいのか。それだけの要求で。もしオレが素直にしたがったら、おまえたら公衆のど真ん中で開放することになるんだぜ。全裸で――)
「――あ、待ってェッ! その前に着るものを寄こしてっ!」
(――うーん。どうしようかなァー。オレとしてはこのままがいいんだけど――)
「お願いよっ!」
そうとわかっていても、もてあそばされざるをえない
(――そうだな。二度とオレを追いまわさねェって約束するんなら、要求をのんでやってもいいぜ――)
「うん、わかった。二度と追いまわさないっ! だから服と開放をお願いっ!」
「ちょっと待ちなさいよっ! なに勝手に一人で話を進めてんのっ!」
「アタシはイヤだからね。こんなヤツに屈するなんて。バッシを返さないかぎり、絶対に許さないんだからっ!」
「こんな時になに言ってるのよっ! そんなものよりも服と開放が最優先でしょうがっ!」
「そんなものってなによっ! アレはアタシにとってとても大切なバッジなのよっ! アンタにとってはただのバッジでもっ!」
「いいから黙っててっ! ジャーナリストとして数々の難しいインタビュー承諾の説得を成功させてきたアタシの交渉力で、なんとか事態を好転させるんだからっ!」
「――ムダよ、そんなことをしても」
達観とも諦観ともつかぬ口調で断言したのは
「――アイツにそんな気なんてないわ。
(――おおぉっ、わかってるじゃねェか。さすが
「ええェ~ッ! そんなァ~ッ……」
それを聞いて、
「――それじゃ、アタシたちはいつまでこんな姿でここに監禁されていればいいの? まさか死ぬまでっていわないよね」
(――ははっ。まさか。オレはそこまで無慈悲じゃねェぜ――)
比呂は笑いまじりに言う。
(――そこで裸踊りをすれば服つきで開放してやるぜ。それも、全身がくまなく見えるような激しいダンスをな――)
「……正真正銘のクズね、アンタ。どうりで武士の道をはずすわけだわ……」
(……テメェ、調子にのんなよ……)
そのあと、
(――オレを怒らせねェ方がいいぞ、オイ。その気になれば、これまで見聞
「……………………」
(――あと、オレを元士族扱いすんな。オレは好き好んで士族に生まれたわけじゃねェんだ。なのにオレを士族扱いして、他の士族と比較してなにかと優劣をつけやがる。はっきりいってうんざりなんだよォ。おちこぼれ士族としてはなァ――)
今度は嫌悪を込めて吐き捨てる。
(――だから士族の称号を剥奪されて、むしろせいせいしてんだ。好き放題しても口うるさく言われずに済んで。それに加えて、口うるさい
「……………………」
(――士族ってホント不自由な身分だぜ。やりたいこともできず、武士道なんていう、守る意味も必要もない無意味な自分ルールに縛られ、エンジョイすることも知らねェなんてよォ。あのヘタレも、そんな武士道なんか捨てて自由に生きりゃいいのに、よっぽど
「――
激昂の声をはり上げたのは
「――
「――ちょ、バカ、鈴村。アンタなに相手を刺激するようなマネを。止めなさいって」
「――それに、
(――あったんだな、これが。ほれ――)
久川
その人体はオールバックの髪型をした――
「――タケルっ!」
であった。
「――タケルっ! しっかりしてっ! タケルっ!」
そして声をかけながらタケルの身体をゆするが、反応はない。
(――ヒヒヒ。ホント、他愛もなかったぜ。
(――残念だったな。最後の希望が断たれて。なにが
「……………………」
(――いずれにしても、これでようやく専念できようになったってわけだ。テメェらのようなウザい邪魔者を気にせずにな――)
「――専念? 今度はいったいなにをする気っ!?」
(――盗賊なら一度はやってみたい事さ。オレも前々からやってみたかったんだ。警察との鬼ゴッコはさすがにもう飽きてきたし――)
「……要は新たなスリルを求めてのことなのね。それって……」
(――そうさ。最初は生きるためだったが、そのうちだんだんと楽しくなってな。もう止められなくなっちまったのさ。ましてや、超常特区の恩恵のおかげで、
「……………………」
(――だからオレは新たなスリルを味わいに行ってくるぜ。それまでここでおとなしくしてるんだな。それも、今度はどんな辱めを受けるか楽しみにしながらなァ。ヒヒヒヒヒ――)
下品な笑い声を残して、
「……アイツめ、今度はなにを……」
「――これは――」
と、おどろきの声を漏らす。
「――どうしたの?
ただならぬ反応に、
「……ちょっと。アンタなにやってるのよ……」
タケルの頭に手を置こうとしている下村
「――もちろん、ヤマトタケルの正体を『
答えた
「――さァ、本当はどんな人なのかなァ――」
そして、好奇心にうずかせた声で言いながら手を置いたその時、
バシッ!
「――なっ、なにをするのよっ!」
「それはこっちのセリフよっ! タケルが死にかけているっていうのに、そんなことをするなんて、不謹慎にもほどがあるわっ!」
「……よくも手を上げたわねェ。ジャーナリストであるアタシに。もう許さない。今のこと、記事にしてやるっ! それもトップで。パパでさえ上げたことない手を上げたことを後悔させてあげるわっ!」
「ええ、好きにしなさいっ! 記事にでもなんでもっ! こっちも好きにするからっ!」
叫んだ愛はふたたび手を上げるが、
(――大丈夫よ、
(――大丈夫ってなにを?
(――タケルのことよ。彼は無事よ――)
(……無事って、その状態じゃ、とてもそうには……)
(――これはちがうわ――)
(……え!?)
(――これはタケルじゃないわ。タケルが
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