第2話 和風中二病少女の深刻な悩みとバッジに込めた想い
市街区島のショッピングモール内にある
その
「――あら、
名を呼ばれた糸目の少年とツーサイドアップの少女は、窓際のテーブル席にいるショートカットの少女に視線をむけると、そこまで足を運ぶ。
「――
糸目の少年こと
「――でも、ちょうどよかったです。実は相談したいことがあって……」
そう前置きした
「――それって
「……はい、そうです」
そう答えて、
「――さっきそこで会ったのですが、話しても口数が少なくて。なにか悩んでいる様子だったので、相談に乗ろうと、どこかの店に入って訊こうと思ったら――」
「――アタシと出会ったと」
「……はい。正直、僕ひとりでは心細かったので、
「なに言ってんのよ。そんなの、当たり前じゃない。アタシたち、友達なんだから。その関係にした張本人がいまさらなに遠慮してるのよ」
「……そ、そうですよね……」
本日は休日なのて、三人とも制服ではなく私服姿である。
「――それじゃ、訊いて見ましょう」
そう言って
「見つけたわっ! 観静
店内の喧騒を上回る声が、店内にひびきわたった。
「……げっ、アンタは……」
その声を聞いた
右耳の裏に装着してあるエスパーダという三日月状の小型機器から手を離さずに。
「――あれ? この
「――
という検索結果が出て、それを口にする。都立上島高等学校に在学する一年生で、将来は当然のごとくジャーナリスト志望である。現在は新春社という週刊雑誌の出版社で働きながら勉学に励んでいる。
「――そうよ。でも、今日はアンタに用はないの。だから、ちょっと黙ってて」
だが、
相変わらずエスパーダから手を離さないでいる。
見聞
その姿を見て、
「……なによ、いったい。連続記憶操作事件やアタシやアタシの母さんについてなら、もう散々訊いたじゃない。なのに、これ以上なにを――」
「ちがうちがう。今日はそれらとは別のことを訊きに来たのよ」
「――では、なにを訊きに――」
「――もちろん、ヤマトタケルについてよ」
『――?!』
「――警察は認めてないみたいだけど、事件解決に多大な貢献を果たしたのは、ヤマトタケルと名乗った謎の少年だという話じゃない。第二日本国の危機を救った謎の
「……そ、そう……」
今度は
「――それで、ヤマトタケルについて、なにか知らない、観静。事件の時、いっしょに行動してたんでしょ」
「……さ、さァ。たしか、連続記憶操作事件の主犯格の一人が、小野寺家に代々仕える裏小野とかいう影の一族の末裔とか言ってたけど……」
「――裏小野? なに、その中二設定?」
「……そ、そんなこと言われても、アタシは自分の耳で聞いた事実を言っただけで……」
「……そ、そうだわっ! ヤマトタケルと直接会話した見聞
そこから目をそらすような情報を提供する。
「ホントッ!? じゃ、さっそく送って。もう、それがあるならはやく言ってよ」
それに食いついた
「――よしっ。これをネタに特集を組むよう
一通りその場でテレメールの内容を吟味した下村
「――だって、目の前にそのヤマトタケルがいるのに、それに気づく様子が全然ないんだもの――」
――からである。本人があからさまにオタオタしているにも関わらず。
そう。ヤマトタケルの正体は、そこの席に座っている糸目の少年――小野寺
普段はマッシュショートの髪型をした糸目の穏やかな顔立ちだが、感情がたかぶると、オールバックの髪型とツリ目の野性的な顔立ちに変化するのだ。むろん、外観だけではなく、声質や性格も変化する。この事実を知っているのは観静
(――この調子じゃ、ヤマトタケルの正体に気づく前に寿命が尽きてしまいそうね。それぐらい、ジャーナリストとしての才覚がないわ。ギアプの使用を考慮しても。はっきり言って、ただのミーハーな女子高生じゃない)
と、
「――ヤマトタケルの正体ならいま思い出したわ、下村」
「えっ?! ホントっ!? だれっ!? その人っ!」
思いっ切り身を乗り出して問いただす
「――そこにいる小野寺
『ええぇっ?!』
突然の不意打ちに、糸目の少年は驚愕の声を上げる。むろん、デタラメを言われたからではなく、正体を見抜かれたと思って。
『……………………』
四人の間に沈黙のメリーゴーランドが無音でまわる。
それが長く続くと思われた矢先、
「――あっはっはッハっハッ。そんなわけないでしょ、観静」
「ええ、ただの冗談。冗談よ、下村」
そう言った
(――やっぱりね――)
こうして、
(――ホッ……)
そのやり取りを聞いて、
だが、
(――フンッ、冗談ですって?! バカにして。彼の正体はまぎれもなくヤマトタケルよ。アタシのカンがそう告げているわ。小野寺につきまとっていれば、必ずその確証がつかめる。アタシの目はフシ穴じゃないんだから――)
下村
「――わかってるわよ。こんなヤツがヤマトタケルなわけないでしょ。知ってるわ。女子にイジメられている上に、その女子にイジメから守られているっていう、超ヘタレなヤツなんでしょ、その
けなす形で取りつくろう。本人の目の前で。
――その直後だった。
「――
ひときわ大きい声が店内にひびきわたった。
ツーサイドアップの少女――鈴村
聞き捨てならない発言を聞いて。
それはカマをかけた
「――なんにも知らないくせに、知った風なクチで言わないでっ!
ふたたび叫びを放たれた
「――アタシに知らないことはないわ、鈴村。この前の事件の取材でも言ったでしょ。それが小野寺
「なんですってっ?!」
「――いいんです、
他ならぬ
「――それよりも、よかったです。今日の
「……どうやらそれは一時的なものだったみたいわね、
「……どうしたのですか、
「――ちょっとアンタ、席を外してくれない?」
退席を要求する。表情を迷惑そうなそれに変えて。
「――いいじゃない、別に。せっかくだから。ネタは多く拾っておくことに越したことはないんだから」
だが、
「――これよ」
「……これは……」
「……バッジよ。鷹の形をした――」
(……このバッジ、どこかで……)
それを見て、
「――この鷹のバッジがどうかしたの?」
無遠慮に、もしくは無神経に問うたのは下村
「……七年前、暴漢に襲われそうになったアタシを、全力で助けてくれた人が落とした物なの」
「――ずいぶんと昔な話ねェ。で、いったい誰なの? アンタをたすけてくれた人って」
再度
「……ヤマトタケルよ」
「なんですってっ?!」
今度は
(……そうだ。このバッジ、いつの間にか失くしたと思ったら、七年前のあの時に落としたんだ……)
「――ということは、ヤマトタケルはやはり――」
一方、下村
そこへ、一人の人影が控えめな歩調で控えめに近づいてくる。
(……ああ、ついに来ちゃったか……)
……ではなかった。
『ハーフムーン』指定の、緑色を基調とした地味なデザインの制服を着用していないのが、なによりの証拠である。
代わりに着用しているのは、黄色を基調としたハデなデザインの衣服であった。
チョビ髭とパンチパーマにサングラスをかけたその容姿は、二十歳前後のようであった。
「……な、なによ、アンタ……。だれなの?」
ニヤリと笑いながら。
観静
「……ちょ、ちょっと、なにを――」
茶色のマフラーをなびかせながら。
店員や客にぶつかることなく、脱兎のごとく店を走り去って行った。
『……………………』
あまりにも突然の出来事に、四人の思考は二瞬ほど停止してしまうが、
「――バッジを盗られたっ!」
四人はもつれながら逃走したパンチパーマの男を追いかける。
だが、すでにパンチパーマの男の姿は見失っている。
いまさら追跡しても捕まえられるわけがない。
四人はそう思いながら店の外に出る。
広大で重層的なショッピングモールの建物と広場が、目の前に広がっていた。
通行人の往来も多い。
四人はそれぞれの視線で広場を見回すが、見当たらない。
「――あ~あァ。逃げられちゃった」
「――いたっ!」
その方角に視線をむけると、広場の噴水の縁に腰をかけているパンチパーマの男が、そこにあった。
パンチパーマの男は、あからさまにわざとらしくおどろくと、こちらに背を向けて逃走を開始する。
明らかに追跡者をもてあそんでいた。
それを悟った
まるで猛牛のように。
「……やめよう」
だが、下村
「――アタシの足じゃ、追いつかないし、なにより疲れるわ」
その表情と視線は冷めきっていた。
「――たかがバッジに、ご苦労なことね。ま、ヤマトタケルの所持品には興味あるけど」
「――お客さま」
背後から声をかけられ、肩越しに振りむく。
そこにいたのは、『ハーフムーン』の店員であった。
「――あのー、お会計を――」
『ハーフムーン』の店員は喫食代を
それも四人分の。
「――えっ?! ちょっと待って。どうしてアタシだけが――」
「――あ、そうだ。あのヘタレに払わせれば」
だが、そのヘタレたる小野寺
――結局、喫食代はなにひとつ注文していない下村
「――待ちなさいっ!」
鈴村
双方ともショッピングモールのオブジェや通行人の隙間をすり抜けながら。
だが、そのたびに、徐々にだが、逃走者と追跡者の距離が少しずつ開く。
(――どうしよう。このままじゃ、逃げられちゃう――)
疲労によってかいた顔の汗に、冷たいそれが混じる。
しかし、事態は好転する。
パンチパーマの男が、人気のない袋小路の裏路地に入ったからである。
そして、建物の壁に囲まれた袋小路を前に、パンチパーマの男は立ち止まる。
「――もう逃げられないよっ!」
その背中を、
「――それは、アタシにとってとても大切なものなのっ! だから、返しなさいっ!」
その表情はニヤニヤと笑っていた。
自分のしたことに、罪の意識など微塵も感じさせない不敵て不遜な笑いであった。
その笑みを見て、怒気を刺激された
今月なって陸上防衛高等学校から支給された護身用の武器である。
なので、
鈴村
発射に必要な精神エネルギー量も。
しばらくの間、両者は無言で対峙する。
「――返しなさいっ! さもないと――」
なんの前触れもなく、突然に。
「――なっ?!」
「――しまったっ! テレタクだわっ! あいつはそれで――!」
「――安心しなさい。
背後から声をかけられた。
親しみのあるその口調に、
観静
「――警察にはもう通報しておいたわ。だから、アイツが
「ホントッ?!
「――ええ。アイツの姿はアタシのエスパーダの見聞
「――それじゃ、アイツは――」
「――ええ。今頃はそこで地団駄を踏んでいるでしょうね」
「――それじゃ、さっそく警察署に行って、バッジを取り返さないと」
「――バッジってこの箱の中に入っているもののことかい?」
冷ややかであざけりの調子を込めた声が、二人の少女の鼓膜を刺激した。
聞き覚えのない男の声だが、それが聴こえた方角に振りむくと、見覚えのある容姿の男が、ショッピングモールをいきかう通行人を背後にたたずんでいた。
ハデな黄色い服装を着込んだその人は、パンチパーマの男であった。
右手には藍色の小箱がある。
鈴村
間違いなく『ハーフムーン』で鈴村
「――なっ?! どっ、どうして、アンタが、ここに……」
「――ヒヒヒヒヒ。それはどうしてかなァ。わかるかなァ、お前たちバータリンに」
パンチパーマの男はあざけりの笑みを絶やさずに応じる。
明らかにからかっていた。
警察署の留置場に
だが、現実はこの通りである。
「――かっ、返しなさいっ! それはアンタなんかのものじゃないわっ!」
それに対して、パンチパーマの男は、声高な、だが下品な笑い声を上げる。
「――ヒヒヒヒヒ。バッカじゃねェの。返せと言われて返す盗賊がどこにいやがる。そんなアホなことするくらいなら、最初から
パンチパーマの男はおどけた態度で応える。
「――それに、返せと言われたら返したくなくなるのがオレの
そう宣言すると、パンチパーマの男は小箱を懐にしまう。
「~~アンタってヤツはァ~~」
「――ヒヒヒ。怒れ怒れ。これはもうオレのものだ。オレが盗ったものはな。なぜなら、オレから取り返せたヤツは今までひとりも――」
だが、そのセリフは最後まで言い終えられなかった。
地面にねじ伏せられたからであった。
何者かによって。
その手際はあざやかで、抵抗のヒマすら与えられなかった。
「いてててて、なんだ、いったい?」
うつ伏せで腕をとられたパンチパーマの男は、背中にのしかかっている拘束者を見上げる。
オールバックの髪型にツリ目をした少年であった。
パンチパーマの男には見覚えはなかったが、二人の女子にとっては見間違えようがなかった。
エスパーダの脳内記憶の完全保存機能を利用しなくても。
その少年の名は、
「――ヤマトタケルっ!?」
「……ヤマトタケルぅ? へェー、こいつがウワサの……」
パンチパーマの男は苦しげにつぶやくが、その表情に不遜さは失われていなかった。
「――タケル。そいつからエスパーダを奪って。
「――ヒヒヒヒ。そんなことをしたってムダさ。オレは誰にも捕まらねェ。警察は元より、ヤマトタケル、テメェでももなァ」
だが、パンチパーマの男は、危機感を覚えるどころか、余裕とあざけりを混合した笑みを浮かべて宣言する。
「なに言ってるのよっ! 現にこうして捕まってるくせに、強がりを言うんじゃ――」
そこまで
パンチパーマの男がふたたびその場から姿を消したのだ。
なんの前触れもなく、忽然と。
ねじ伏せていたヤマトタケルが、姿勢を崩して転倒するが、すぐさま立ち上がり、周囲を見回す。
だが、パンチパーマの男は、今度こそどこにも見当たらなかった。いくら待っても。
「……
「――でも、テレタクの利用に必要なものは、全部取り上げたはずだし、与えたりしなかったはずよ。エスパーダも、時間も、
「……それなら、なぜ……」
「……それじゃ、あのバッジは、もう……」
「……すまない。バッジを盗ったヤツを取り逃がしてしまった……」
ヤマトタケルが
「えっ!?」
しかし、あやまられた方はとまどいの表情を浮かべる。
「……そ、そんな……」
そして、なにかを言いかけたその時、頭を上げたタケルと
その瞬間、
「――ひっ!」
おびえた表情で。
まるでDVにあう前のようである。
「…………………………」
タケルはなにか言いたそうに口を動かしかけるが、結局、口を閉ざしたまま立ち尽くす。
だが、それも長い時間ではなかった。
通報を受けて駆けつけてきた警官たちの気配に気づくと、その場から走り去る。
「――あっ、待ってっ!」
今度は呼び止める
「……行ってしまった……」
ヤマトタケルに対して取った
「…………………………」
「……そないなことがあったんかい。災難やったなァ。大丈夫なんかい……」
事情は現場に駆けつけた警官たちからの報告で知っていたが、
「……しかしアイツか。鈴村はんの物を
「知っているのですかっ!? 龍堂寺さん。その窃盗犯を」
「――ああ、よく知っとるで。コイツの名は
「……七年前の少女誘拐事件って……」
「……まさか……」
「――せやけど間もなく刑務所でぽっくりと病死し、久川
「……よくある話ですね。時代の変化についていけなくなった士族が、武士の道をはずして犯罪者に堕ちてしまうのは……」
「ホンマや。同じ士族として、とても恥ずいわい。そう思わんかい?」
「……ええ。ひとりの人間としてでも、同感です」
「……せやけど、これも恥ずい話で恐縮なんやけど、まだ一度も逮捕できたことがあらへんのや」
「――どうしてなのっ?」
大きな声で問いかけたのは、これまで沈黙していた鈴村
「
「――でも、テレタクを犯罪者の逃走に利用したら、自動的に警察署の拘留場行きになるはずじゃ……」
「テレタクじゃあらへんのや、それが」
「……それじゃ、いったいどうやってテレポート交通管制センターや
「――簡単な話よ」
休憩室にはいない誰かが言った。三人は声のした方角に視線を転じると、
「――そいつは
休憩室の出入口に立っているショートカットの少女が、そのように答えた。
「――
「――今までどこに行っておったんや。ワイらの
「――テレポート交通管制センターの所長に会って来たの。ちょっと話があってね」
「なんの話や?」
「それは内緒。今回の窃盗事件の窃盗犯捕縛についての以上のことは言えないわ。警察には」
「なんで言えへんのやっ!」
「だってこのまえの事件のようなことがあったら困るもの。全然信じてくれなかったし」
「うっ……」
痛いところを突かれて、
「――それじゃ、盗まれた
「――ええ。戻ると思うわ。窃盗犯のオマケつきでね」
「……でも、相手は純潔の
「――だから所長に窃盗事件解決の協力を取りつけたの。テレポート交通管制センターの機能なしでは、捕まえられない相手だからね。だから、安心しなさい」
「――そうですか。よかったですね、
「……うん……」
「……どうしたのですか。戻ってくるというのに、元気がありませんが……」
「…………………………」
「……もしかして、喫茶店で僕たちが相談に乗ろうとしていたことと関係があるのですか?」
「…………………………」
「――そういえば、相談に乗ろうとした矢先に、あのイエロージャーナリストが現れたんだっけ? それで本題に入りそびれてしまい、ようやく入ったと思ったら、あのイエローファッションの盗っ人にバッジを盗られてそれっきりになった。で、いいんだよね?」
「――そして、鷹の形をしたそのバッジは、七年前、暴漢から助けてくれたヤマトタケルが、その時に落としたものだったと」
その本人である
「…………………………」
今度は小野寺
「――でも、
「…………………………」
「――いったいなにがしたいの。そして、なにを思い悩んでいるの、
観静
「……返そうと思っていたの。ヤマトタケルが落とした鷹のバッジを」
それを聞いた龍堂寺
「――なんでそないなことで悩む必要があるんや。恩人が落としたものやったら、そのまま返せばええやろうに。いけすかんやっちゃやけど」
率直にそう言った直後、隣に座っていた観静
「……確かに、恩人よ」
それをよそに、
「……でも、怖いの。ヤマトタケルが……」
辛そうな表情で。
七年前の|誘拐事件と、前回の連続記憶操作事件で、鈴村
だが、それは同時に、自分のトラウマに向き合わなくてはならないことを意味していた。七年前の誘拐事件で助けてくれた少年が、
「……それで思い悩んでいたのね」
(……やれやれ、気を遣う上にややこしくなっちゃったわねぇ……)
「……そうやったんだ。そら無神経なこと
この件に関してなにひとつ知らない
「――おわびにワイが全力でバッジを盗んだ犯人を捕まえたるわ。せやから安心せい」
「――なに言ってるのよ。警察なんだから、当然でしょ。そんなの」
「……ま、まァ、その通りなんやけど……。せやっ! バッチの行方を追いたい今のおまいらにうってつけのところを紹介したるわっ! 今から紹介状をしたためるさかい」
立ち上がった
「――なんて言うところよ。それって」
「決まっとるやろ。前回の事件で
「えっ?! それってあそこのことっ!?」
「……でも、そこじゃなにひとつ手がかりが……」
「今回はだいじょうぶやって。ウワサじゃ、失せ物を見つける装置の開発に成功したっちゅう話やし。もしかしたら、盗られたバッジの行方がわかるかもしれへんで」
「ホントっ!? それって」
「ちょっと慌てないで、
「わかってるわよ、
「――もし在り処がわこうたら
「――わかりました。――それじゃ、行きましょう、皆さん」
勇吾が
「――見つけたわっ!」
甲高い声が、休憩室にとどろいた。
一同は声のした方角に視線をそろえると、サイドポニーの少女が、眉間にしわを寄せて出入口に立っていた。
「――あら、下村じゃない。どうしたのよ。いったい」
「『どうしたのよ』、じゃないわよ、観静っ! アンタ喫茶店の会計、払ってなかったでしょっ!」
「――ああ、そういえばそうだったわね。それじゃ、アンタが代わりに払ってくれたんだ。悪いわね」
「なに言ってるのよっ! そんな
叫びわめく下村
「――よくも将来最有望なジャーナリストになるこのアタシの経歴にドロを塗ってくれたわね。こうなったら、あることないことをアンタの特集記事で書きまくってやるわ。いくら
「――ちょ、それはやめてよ。ちゃんとあやまるわ。ごめんなさい。代金ならちゃんとアタシがあの店に払っておくから」
「ふん、ずいぶんと安く見られたものだね。あれっぽちのワイロでこのアタシを買収しようとするなんて。甘く見ないでちょうだいっ! このことも記事に書き加えてあげるわっ!」
逆効果であった。
「……いったいどーしろと……」
頭を抱えた
「――こらコラ。それはアカン。故意の虚偽報道は立派な犯罪やで」
警官である
「――ちょっと下村。
たまりかねた
「――そうね。それじゃ、記事のネタになるものをちょうだい」
「記事のネタ?」
「――そうよ。言っとくけど、この前の連続記憶操作事件で、陸上防衛高等学校の生徒なのに、二度も記憶を操作されたり、何度も人質になったりと、事件解決どころか、その足を引っ張る足手まといな活躍しかしなかった某重要参考人のようなネタじゃないからね」
「だれのことを言ってるのよっ!?」
更に荒げた声を上げて、
「――下村さん」
その間に、小野寺
「――下村さんはヤマトタケルさんについて調べているんですよね」
「――ええ、そうよ。それがなにか。士族の子弟なのに、活躍もしなければ足も引っ張らなかった、ネタにもならないただのヘタレさん」
「――そのことなんですけど、僕も協力できると思うんですよ。
それを聞いた瞬間、
「――なによォ。アンタもヤマトタケルについての情報を持ってたんだァ。もう、二人して出し惜しみしてェ」
そんな意図はどちらともないのだが、言ってもムダそうなので、
(――でもだいじょうぶかな、
「――いいわ。それで手を打ってあげる。それじゃ、さっそく――」
「――あ、でも、これから僕たちは行くところがあって、下村さんは――」
「――もちろん、いっしょについていくわよ。構わないよね」
「――じゃ、行こう」
(――しめしめ、うまく言ったわ。小野寺の密着取材に――)
うながした方は内心でそのようにつぶやいた。
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