才能と志望が不一致な小野寺勇吾のしょーもない苦難2 -中二病精神が旺盛な鈴村愛の苦悩-
赤城 努
第1話 序章
暗雲からひらめいた雷光が、闇夜と森林に包まれた山地を一瞬白く染めた。
それにおくれて、地軸をゆるがす轟音が、あますところなく地上と闇空に響きわたる。
轟雷の余韻が収まらぬうちに、ふたたび稲妻が落ち、時間差を置いて轟音が鳴りひびく。
落雷は山奥の小屋の近くにある一本の樹木を直撃し、火の粉をまき散らしながら二つに割れ倒れる。
凄まじいまでの光景に、だが、小屋の中にいる人間たちはだれひとり見向きもしなかった。
それに劣らぬ光景が、小屋の中でも繰り広げられていたからであった。
四人の壮年男性が一人の少年によって次々と血をまき散らしながら倒されていくという光景に。
四人は全員
にも関わらず、四人の大人は子供相手にかすり傷すら負わせられないまま、完膚なきまでに叩きのめされたのである。
文字通りの意味で。
折り重なって倒れている四人の顔には、赤い血と青いアザの二種類の色しか残されてなかった。
『顔』の態を成してないほどに。
その上に一人の少年が立っている。
少年の顔と両拳は、半ば赤く染まっていた。
相手の血によって。
少年は『こちら』に身体ごと視線を転じた。
その際、小屋の窓から差した雷光が、小屋の中を瞬間的に照らした。
少年の姿も。
相手の血痕で彩られた全身が、くっきりと映し出す。
胸につけられてある鳥のバッジが雷光で反射する。
そして、雷光が消えた後、『こちら』にゆっくりと近寄ってくる。
半ば血に染まっている顔に笑みをつくって。
それを認めた瞬間――
「――いやァッ!! 来ないでェッ!!」
そう叫んだ時には、ツーサイドアップの少女は
桃色のねまきが汗で濡れていた。
初夏とはいえ、尋常ではない量であった。
短いが激しかった呼吸がおさまると、少女は適度で女性的な調度品が配置された部屋の窓に視線をむける。
雲一つない夜空が、陽月によって薄明るく照らされている。
「……夢……?」
少女は放心した表情でつぶやくが、
「……いえ、夢じゃないわ。あれは……」
頭を振って否定すると、
正確には、窓のそばにある木製の机に。
その机の上には、正方形の小箱がひとつ置かれてある。
藍色のそれを手にすると、フタをあけ、箱の中身を見つめる。
「……まさか、あの人だったなんて……」
少女はフタを閉じると、祈るように胸元で箱を抱きしめる。
「……返さないと……」
意を決したような口調で、両目も閉じる。
「……けど……」
だが、そのあとに続いた独白には、ためらいと恐怖のひびきがこもっていた。
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