空飛ぶ彼女
「私は、空を飛べるんだ」
私が中学生の頃、そんな突拍子のないことを言う女の子と、よく並んでブランコを漕いだ。
部活を終えて、学校から帰る道の途中にある公園で、私はブランコを漕ぐのが好きだった。夕焼けが雲を橙に染める空を、ひたすら漕ぎながら眺めていた。
この日が終わらずにずっと続けばいいのに。。。
そう願っても、空は綺麗な橙から薄暗い紺色になって、辺りを深い黒へと染めていく。
今日が終わって、また明日が来るんだ。
何故か、当時の私にはそのことに対してひどく不快感を覚えていた。
あるとき、いつものようにブランコを漕いでいたら、隣のブランコがキーキーと音が鳴っているのが聞こえてきた。
ふと隣を見ると、話したことのない同級生がブランコを漕いでいた。
「ねえ、私ね、空を飛べるんだ」
そのときも、彼女はそう言った。
変わった子だな、と思ったけれど、交互に揺れるブランコと、いつも一人で眺めている景色を共有している人がいるという、いつもと違う感覚にいやな気持はしなかった。
その日から、中学を卒業するまで、彼女と並んでブランコを漕いだ。
そして20歳になった今。
私は久しぶりに、変わらない公園でブランコを漕いでいる。
「私ね、本当はずっと悩んでいたんだ」
隣で、当時と変わらない姿で彼女は言う。
「本当は、空を飛べるないってことを?」
私は、皮肉めいて彼女に返した。
「ううん、逆」
彼女は、皮肉を言う私に、悲しそうに微笑んだ。
隣にいた彼女は、ブランコの囲いの柵にのぼる。
彼女の足元には、影がない。
隣で揺れることがないブランコが、寂しそうに影をつくる。
「三月ちゃん、またね」
そう言って彼女は、空を飛んで行った。
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