Metal Hands

れもな

第1話 喪失と会得

「科学と魔術」

それは「現実と理想」

それは「可能と不可能」

俺はそれを信じてやまなかった。


あの時、あの事故がなかったら・・・


アイリス「・・・それで、彼は」

研究員「ああ、あいつは今日締め切りだった論文提出したあとすぐ出てったぞ。というかなんであんなサボり癖のあるやつが後もいい論文をかけるんだろうねぇ。」

アイリス「そうですか・・・わかりました。」

アイリス・アダムス A大学の研究員。いつも無口で必要以上の話は全くしない。あの男の前以外ではの話だが。


実況「「おおぉっとぉ!ここでコナー選手のカウンターが炸裂ぅっ!すかさずコンボで体力を削り・・・KOぉっ!優勝コナー選手!」」

コナー「まあ、いつもどうりって感じだな。」

この男、コナー ファムはA大学の研究員にしてこの街の格闘ゲーム大会で無敵の10連勝を誇る屈指のゲーマーである。

アイリス「ちょっとコナー!またこんなところで油売ってたの!?」

コナー「おっ、アイリス。ところで周りがうるさくて何言ってるか聞こえないんだけどー。」

アイリス「ちょっとこっち来なさい!」

アイリスはコナーの耳を指先でつまみながら強烈な力でコナーをゲームセンターの外へ引っ張り出した。

コナー「なんだよ痛ってぇな!もうちょっと遊びたかったのに・・・」

アイリス「何言ってんのよあんた!明日は大切なプレゼンの発表であんたは私と一緒に発表することになってるじゃない!なのになんでゲームなんかにうつつ抜かしてるのよ!もうこのバカ!」

コナー「いいじゃねぇかプレゼンくらい。当日に台本何回か読めばすぐ覚えられるし、てかあの研究そんな大事な研究なのか?俺にはただのお遊びに見えるぜ?」

コナーはゲームセンター内で買ったジュースをストローですすりながらそう言った。

アイリス「もう・・・だからいつまで立っても大学内の呼ばれ方が『大学一の異端』だとか、『とある科学の遊び人』なんて呼ばれちゃうのよ?それにあんた他の相方のプレゼンのときにもそんなことしてドジばっかしてたじゃない!バカ!」

コナー「あーもうバカバカうるさいなぁ。練習すりゃいいんだろ練習。任せとけ。フレームガードの練習量なら他の誰にも負けねぇからよ。」

アイリス「だからもうぅ・・・バカバカバカ!」

アイリスはせっかく整っていたきれいな髪型をクシャクシャにしながらその場を去った。

コナー「いよぉうし、アイリスも帰ったとこだしまたゲームすっかな。・・・とは思ったものの、あいつにとっては明日のプレゼンは俺の格ゲーの大会より大切なものとみた。ここで俺が最高のファインプレーを決めて、あいつの口の悪さを改善させてやる。というかなんで俺にだけしか口の悪さを出さないんだ?これがわからない・・・」

コナーはそんなことを考えたあと近くのゴミ箱にからのジュースを投げ捨て、大学へと戻ることにした。


大学へ行く途中、あるおもちゃ屋のショーウィンドウが目に入った。

コナー「はえー。こういうおもちゃってまだ売ってたんだな。ってもうこの年だし知らなくて当然だよな。」

他愛もないことを思いながら、ショーウィンドウの真ん中に飾っているアイアンマンとキャプテンアメリカのフィギュアを眺めながら、

コナー「そういや、俺の小さな頃の夢って正義のヒーローだったっけな。今となれば馬鹿馬鹿しいな。格闘ゲームを始めたのもヒーローへの憧れだったっけな。」

昔の記憶に思いを馳せつつ、彼はおもちゃ屋から離れた。

コナー「正義のヒーローかぁ。なれたらいいけどな。」

正義の味方、最強のヒーローは、男の子ならば一度は夢見るもの。悪を倒し、光を導く。今も昔もこれは変わらぬ事実。後に正義のヒーローとなるものは、

その時・・・

っどごぉぉっんっ!!

後ろから、衝撃が。

時間がゆっくりになった。

今、自分は浮いている。

ヒーローが飛び時ってこんな感じなのかな。

体が、軋む。

そして、地面へと落ちる。

瞬間・・・

ピガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

目の前にあるものが嫌なノイズ音と共に写った。

桃色の線。黒色の鉱石。

ものが浮き、動く。

鉱石が、手足へ変わる。

そして、

どさっ。

気を、失った。


気がついた頃には白い部屋にいた。細かく話すと、病室。

そして、数十秒後、気づく。

手が、ない。足が、ない。

四肢を失っていた。


アイリス「コナーっ!」

左奥の扉からアイリスが急いで入ってきた。

コナー「おお、アイリス。」

アイリス「「おお、アイリス。」じゃないわよ!バカ!このバカ!あのあと大学に戻ったらコナーが事故したって聞いて見に来たら、・・・四肢がなくなってるって」

アイリスは今にも号泣しそうな目でこちらを見ながら言った。

アイリス「コナー、心配かけないでよ・・・」

耐えられなかったのか、ついひと粒涙を流した。

コナーはこんなアイリスを見るのが初めてだったのか、それとも心配かけない様にしようとしたのか、手がないにもかかわらずアイリスの頭の撫でようとした。

そこで彼は、また異変に気づく。それはまた何かを失ったのに気づいたのではない。に気づいたのだ。

手の感覚が、ある。

足にも感覚が、ある。

見た目は手足もなくなっているはずだが、たしかにここにある。

実際、撫でようとしたないはずの手がアイリスの髪の毛を少しだけ揺らした。

アイリスはもちろん、コナーも衝撃を受けた・・・


あのあと時は過ぎ、夜になった。

アイリスはあのことをなかったことにしたのか明日のことについて話したあと、帰っていった。

コナーはその後からずっと、考えていた。

ないはずの手足の感覚。

そして、事故したときに見たあの、『ヴィジョン』。

桃色の線。黒色の鉱石。

ものが浮き、動く。鉱石が手足に変わる。

そして今、手足がなくなり、ないはずの手で物を触ることができる。

コナーはあの時見たヴィジョンは幻覚ではないと感じた。

試しに、奥にある花瓶に刺さった花に意識を集中し、


動け。


その花は空中に浮き、自由に動かすことができる。

少し驚きはしたが、すぐ正気を取り戻した。

コナーは手足を喪失し、代わりに謎の力と黒色の鉱石の情報を会得した。

鉱石については調べてみないを名称や成分はわからないが、謎の力については完全に把握した。


これは、物を浮かせ、動かす力。

目に見えるものや見えなくとも存在がはっきりしているものなら、例え手が届かなくとも動かすことのできる力。手足のようにも使え、それ以上のものとしても使える力。


四肢を失った彼が正義のヒーローへとなることは、まだ誰も知り得ない。


2話へ続く・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Metal Hands れもな @lemona1212

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ