Karma05.5:奈落迦を射る光芒
闇に散る火花をじっと見ていた。
自らの冷たい輝きを照り返す火花を生む、精密機械の細い手指をじっと。
火花だけが頼りといっても過言ではない暗闇に包まれた工場の管理室。ガラス窓を隔てて機械が機械を生み出す様子を、ヘカテーは身じろぎもせずに見つめていた。濃桃のネオン光がその形に添い縫うように走る、黒い首輪のような機器がコンベア上をゆっくりと流れていく。
決して呆けているわけではなかった。だが、足音にしては鋭いカンカンという響きがすぐ近くに聞こえてくるまでは、その音の主が誰かなど考えることもなかった。
「探したよ。こんなところで何をしているんだい」
金属で出来たヒールが床を打ち鳴らす音が止む。中性的で芯のある、しかし掴み所のない声。横目でちらと見れば、深藍の涼しげな吊目と目が合う。緑がかった短い黒髪は、彼女を男性のようにも見せた。
「あの男からメッセージが届いた」
ヘカテーが何も答えないままでいると、レトはどこか待ち侘びていたような声色で呟いた。スキニーパンツのポケットに手を突っ込んだまま、レトは続ける。
「実に二十四年ぶりの連絡だ。相変わらず
「……
ヘカテーが吐き捨てると、レトはなぜかけらりと笑う。
「そう! その神の子――ユーリスと言ったかな? 彼を相手に暇潰しを始めたらしい。君が準備を整えるまでの間にね。リュカを探していた時に偶然出会ったが、まあそうだな……素直で人の良さそうな青年だったよ。あいつが気に入りそうなね」
ベルトコンベアは延々と流れ続ける。代わり映えのしない単調な景色を未だ見据えるヘカテーの瞳に、不規則な火花が映り込む。
「これは最後の手段だ。単なる保険でしかない。私はこの手で全てを破壊し尽くす。神も、世界も、人間も全て」
心の臓が煮えるように熱くなる。所在の知れぬ心が張り裂けそうになる。それ程までにヘカテーの抱える瞋恚は絶えず燃え盛っているのだ。
二十四年前のあの日、多くの同胞を奪われた。他ならぬ人間の手によって。
どれだけ願えど神は救いの手を垂らさなかった。まるで見て見ぬ振りをするかのように。
「――リュカオンが生きていたのは想定外だった。まさかあの餓狼の牙から逃れるとは」
この瞋恚の前に立ち塞がる、全ての障害は度し難く目障りだ。
「居場所は判っている。ライラプスを連れてリュカオンに接触しろ。必要となれば
一切合切を物言わぬ肉塊へ。天上に座す神格を深く泥梨の奥底へ。
「仰せのままに、女王陛下」
わざとらしい恭しさを纏い執事のような礼をしてみせたレトは、再び鋭い靴音を響かせて部屋を出ていった。ヘカテーはまた一人、規則的に動き続ける光景を前に息を吐く。
「天よ、見ているか」
それは主への呼びかけであった。彼女を見捨てた神ではなく、天啓を与え給うた「天」への宣誓である。
「私は必ずこの復讐を遂げてみせる。私の望むサンサーラは、その先に――」
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