夏の背徳

Rinn

第1話



「姉ちゃん」


真夏の海風の涼しさだけが頼りなこの部屋に、ふたり。

俺は本を片手に寝転びながら姉ちゃんに話しかけた。


「なーに、弟」

「最近思ってたんだけどいっつもノートに何書いてんの?」

「…気になる?」

「うん」


妙に真剣な顔をした姉ちゃんは、ヘッドフォンとメガネを外しながらこっちを向き、こう言った。


「エロい水着の女の子」


束の間の沈黙の後、俺は思いっきり起き上がり叫んだ。


「はあっ!?」

「なによー、大きな声出さないで、うるさい」

「姉ちゃんそんなのが趣味だったの?俺知らなかったんだけど」


俺がそこまで早口で捲し上げた後、

突然姉ちゃんは笑い出し、冗談に決まってんじゃん、と目に涙を浮かべて言った。


…はあ、我が姉ながらよくわからない奴だ。



「てか、私が絵下手なのあんた知ってるでしょ?」

「…あ、そういえば前言ってたっけ、」

「言った言った、すーぐ騙されるの見てて姉ちゃんは心配だよ」


本当に心配してんのか、と疑うレベルで軽い口調で話す姉ちゃんは、俺と全く似ていない。


「で、本当は何書いてんのさ、!」

「もー、しょうがないな、可愛い弟くんのために特別に教えてあげよう」


さっきとは違い、本当に教えてくれるらしい。

珍しくいつもより頬を染め、穏やかな笑みを浮かべたその姿は、俺が見たことのない”姉ちゃん”だった。


「私の恋心書き留めてんの」

「っっえ、姉ちゃんって恋してたの!誰に!?」

「誰だと思う?」

「うーーん」


俺は普段使わない思考回路を動かしながら必死に考えた。

が、姉ちゃんが仲良くしてる男友達なんて見たことがないし、全く思い当たる節がない。


「わっかんねえ」

「…正解教えてあげようか?」

「教えて!」


そう言うと、さっきまで窓際に座っていた姉ちゃんが、無言で俺の目の前に立ち、見下ろしてきた。

どういうことだ、と疑問に思っているとだんだん姉ちゃんの顔が近づいてくる。



その3秒後、唇に柔らかい感触。


「…びっくりした?」

「..した」


間近で俺の戸惑った顔を見て ふっと笑った姉ちゃんは、耳元でこう囁いた。


「ずっと前から好きだったよ」

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夏の背徳 Rinn @yiiiRr_08

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