夕焼け空
「……子、エル子、」
タッくんがわたしの肩を揺すって起こそうとしている。
「ふがぁ」
女子としては完全にダメな声を上げて、わたしは眠りから起きた。
「おまえ大丈夫か? もう古文の授業終わったぞ」
タッくんがあきれ顔でわたしを見ている。
わたしはまだ夢から抜け出せず、ちょっとボーッとしていた。
「変な夢をみていたよ」
わたしはボソッとつぶやく。
「どんな夢だったの?」
ヨネちゃんがで聞いてきた。
「えっと、エルフの神様が出てきて願いを叶えて貰う夢かな」
わたしは自分の耳にそっと手を添える。
相変わらずのエルフ耳がそこにはあった。
「願い事ってなんです?」
ヨネちゃんがのぞき込むように、わたしに問いかける。
「ないしょ」
「教えろよ、どうせ大したこと無いんだろ」
タッくんがぶっきらぼうに聞いてきた。
「たいしたこと無いらしいんで、おしえません~」
「ケチだなエル子は」
たっくんがふてくされたような仏頂面をしてきた。
わたしはその子供のような顔をみて、なぜだか楽しくなってきた。自然と笑顔が出てしまう。
それにつられて二人も笑顔になった。
休み時間は短い。何気ない会話をしていたらチャイムが鳴った。
わたしらはチャイムに催促されるよう、各々の席へと戻っていく。
次の授業が始まる。
授業の科目は地理だ。わたしは地理も苦手なのだ。
地理はほぼ、暗記のみで構成されていて、しかも役に立たない事が多い。
こんな事なら、まだエルフ語か魔法でも覚えた方が役に立ちそうだ。
「……キュプロス島戦記の魔法でも覚えるか」
わたしはスマフォで検索を掛ける。すると、いままで使われてきた魔法一覧と詳細なセリフをまとめたページがあった。
ヒマな人もいるものだ。わたしはそれをノートに写して覚える。
やることがあると時間は早く進む。
あっというまにその日の授業は終わり、ホームルームの後、わたしらは学校から解放された。
帰り道もタッくんとヨネちゃんといっしょだ。
歩きながら普段と変わらないやり取りをする。
「ちょっといいか。帰りにちょっと本屋に寄りたいんだけど」
タッくんが寄り道を提案した。
「ええけど、なにか目的があるの?」
「たしか今日はキュプロス島戦記 7巻の発売日ですわ」
ヨネちゃんがフォローをする。さすが、タッくんの単純な思考などは、簡単に分かるようだ。
「うわさによると、今回もヒロインが大活躍するらしいぞ」
「へー、ヒロインのエルフが大活躍ねぇ」
わたしが合いの手を入れる。
この流れは、おそらく次にエルフネタを振ってくるな。
「ああ、エル子と違って美人で
「なんやて!」
ちょっとカチンときた。そこでわたしは先ほど覚えたあのネタを出すことにした。
「わたしの方が聡明で、あのヒロインよりも魔法が上手いんだぞ!
生意気なタッくんは、わたしの魔法の餌食にしてやる。
ちなみにわたしの魔法を食らったら、今朝の小学生のようなリアクションを取らなあかんで~」
わたしはお約束を一通り説明した後、左手を上げて呪文を唱える構えをする。
「や、やめろ。オレはリアクションを取らないからな」
タッくんが焦り始めた。
だがわたしは止まらない! いやがらせのために構わず魔法を詠唱する。
「盟友シルフよ。空と風を愛す我が願いを聞きたまえ。
眼前に我ら自由を阻む敵手アリ。打ち砕くべく御力を与え土塊を砕き野に返せ!」
「うわぁ」
と小さな声を出し、よろめき、タッくんはやられた振りをしてくれた。
弱い、そのリアクションは弱すぎるぞタッくん。
もっとちゃんとリアクションを取ってくれないと。
ここでわたしはあの夢の事を思い出した。
たしか夢の最後の方で精霊魔法が使えるようになったとか言ってた気がしたけど、やっぱり気のせいらしい。仮にアニメと同じだったら、いくつも竜巻が起きて、ここら辺は大変な事になっていたハズだ。
もしかすると何かが起こるかとちょっと期待していたんだけど……
まあ現実はこんなもんだろう。
少し恥ずかしがっているタッくんが、ようやく立ち直り、わたしらは再び本屋に向かって歩き始めようとした時だ。
なんの前触れもなく突風が吹き、ヨネちゃんのスカートが盛大にめくれた。
「きゃあ」
「うぉ」
タッくんはパンツをもろに見たらしく。二人とも顔が真っ赤に染まっていく。
「もしかしてさっきのエル子の魔法かな?」
タッくんがごまかそうと、話をそらそうとする。
しかし、ごまかすにしても、魔法のせいにするのは無理があるんじゃないかな?
「いえ、『風の精霊魔法テンペスト』の呪文が成功すれば、街は大惨事になるはずよ。
魔法に必要なレベルは7だったはずだから、エル子ちゃんの魔法強度が足りなくて不発に終わったのかもしれないわ」
ヨネちゃんは以外にもその話題に乗って、何やら謎の解析を入れた。
もしかしたらパンツをみられて気が動転しているのかもしれない。
「そ、そうやね。そうかもしれないねぇ……」
わたしは苦笑いを浮かべるぐらいしかできなかった。
しかし、いやいや、まさかね。
あの突風は、ただの偶然だよね……
しばらくすると、三人は再び歩き出す。
どこまでも雲の無い空がつづく、青い空の初夏の日の出来事だった。
エルフのようなエル子さんはエルフでは無いらしい ~エルフ耳の女子高生はたいへんです~ クロウクロウ @clawclaw
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