どうしようかな

 いつも通りに3人で学校へ向かう。


 するとタッくんが、こう話し出した。

「昨日の夜、あのアニメみたか?」


 それにヨネちゃんが答える。

「見た見たキュプロス島戦記でしょ」


 どこかで聞いたような会話がきこえてきた……

 そうそう、今朝やったやり取りだ。

 確かこの後、ヒロインのエルフの話になって、その流れでわたしに話しが振られるハズ。


 タッくんが話しを続ける。


「昨日のヒロインのエルフの魔法は凄かったな」


「ええ、かっこよかったわね」

 ヨネちゃんが答えた。


 さて、次はわたしに話しが振られる訳ですよ。

 エルフはわたしの持ちネタの一つですからね。


「あやこも見たか?」


 さあ、きた。タッくんが話しを振ってきた。


「うん、みたよ~」


「面白かったか?」


「面白かったよ~」


「そうだよな。来週が楽しみだ」


 ……えっ、もう会話は終わり?

『エルフだから精霊魔法使え』とか『エルフだから召喚魔法使え』とか、そういう無茶ぶりは無いの?

 いつものボケと突っ込みはいらないの?



 ……これでコミュニケーションが終わって良いのだろうか?

 いや、良いはずがない。

 確かこの後に、小学生のゴローとソウタから精霊魔法を催促されるハズだ。

 その時にわたしの見せ場が訪れる!


 しばらくすると、わたしの計画通りにゴローとソウタがやってきて、挨拶をしてくる。


「あやこお姉ちゃん、おはよう」「おはようございます」


「……あっ、おはよう」


 少し遅れてわたしは挨拶を返す。

 ヤバい、本名をよばれても即座に反応できなかった。


 ちょっと反応が遅れたわたしを不思議そうにのぞき込む小学生ふたり。

 なんとか笑ってごまかした。


 たしかこの後だ。この後にわたしにエルフネタを振られるハズ。

 そう思って身構えていたら。


「あやこ姉ちゃん、また遊んでね」「また遊んで下さい」


「そ、そうやね。また遊ぼうね~」


 愛想を少しでも出すために関西弁を使って答えて。

 わたしは手を振り、小学生ふたりと別れた。


 ふ、振られなかった。ふつうの挨拶で終わってしまった。

 そうか、わたしの耳はもうエルフの耳では無くなっているんだった。

 エルフネタはもう振られるハズが無かったんだ。


 しかし、アレでよかったんだろうか。周りの人と挨拶や会話を、普通に交わすだけで……


 ……そういや『普通の会話』ってなんだろう?

 こんな物足りない会話を交わすだけで良いんだろうか?

 わたし的にはもっとエルフネタでボケ倒さなければならない気もするんだけど……



 あれほど振られるとウザいと思っていたエルフネタだが、いざ振られないとなると、とてもさみしく思えてきた。


 耳に手を添える。やはりいつもとは違う普通の耳だ。

 これから先はこういう『普通の会話』を続けていく事になるのだろう。


 そう考えると急に不安になってきた。


 今まで会話の中心は、だいたいエルフネタが占めていた。

 わたしはエルフネタなしで、上手く会話ができるのだろうか?


「どないしよ……」


 思わず独り言としてつぶやいてしまう。

 何か今までわたしを支えてくれた柱のようなモノが、ゴッソリと抜け落ちてしまったような感覚だ。


「なんでこんな事になったんだろう。できるなら元の耳に戻りたい。クーリングオフしたい……」


 そうボソッと言った瞬間に、わたしは光につつまれた。




 光につつまれたと思った次の瞬間、わたしはまた不思議な空間に居た。

 青い空、光る白い地面の続く場所、願い事を叶えてもらった場所だ。。


 そして周りを見渡すと、エルフの女神様がいる。

 エルフの女神様はやさしくわたしに話しかけてくれる。


「どうでした、普通の耳になった感想は」


「あっ、はい。すごい普通でした」


 なんて感想を言っているんだわたし。

 まあ、その発言は本心で、間違ってはいないけれど。


「どうです、このまま普通の耳のまま生きていきますか? それとも……」


「すいません、願いを叶えてもらって申し訳ないのですが。

 わたしには普通の耳は向いていませんでした!」


 わたしは、照れ隠しで笑う。


「そうでしたか。

 そうですね。あなたにはあの耳が似合ってますよ」


 女神様はどこまでも優しい。

 わたしの自分勝手なわがままで、耳を直してもらって、今度はそれをキャンセルしようとしているのに、何一つ不快感を表さない。


「わたしをエルフに戻してくれますか?」


 わたしは決心をした。

 なんだかんだで、生まれてからずっとエルフ耳だった。

 これからもこの耳でなんとかなるだろう。


「はい、エルフにですね。わかりました」


 そう確認をすると、女神様は呪文のようなモノを唱える。


 しばらくすると、詠唱が終わり、微笑みながらこう言ってくれた。


「はい。これであなたはエルフ耳の人間から、エルフになりました」


「えっ。エルフ耳の人間でなく、エルフですか……」


「そうです、これからエルフとしてがんばってくださいね」


「ちょっとまってください。わたしは耳だけエルフで中身は人間で……」


 なんとか間違いを正そうとするが、わたしはまた光に包まれ、気が遠くなる。

 薄れゆく意識の中で変な機械的な声が聞こえた。


ジョブ職業をエルフにチェンジ』

『精霊魔法 LV1が使えるようになりました』

『召喚魔法 LV1が使えるようになりました』

『スキル、インフラビジョン熱を見る視力が使えるようになりました』


「いやいや、エルフはジョブじゃなく、種族やろが……」


 思わず大阪弁で突っ込みを入れつつ、わたしは完全に意識がなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る