通学です
学校に行きながら、どーでもいい会話をする。
「昨日の夜、あのアニメみたか?」
タッくんが話題を振ってきた。
「見た見たキュプロス島戦記でしょ」
さすがヨネちゃん『あのアニメ』だけで分かったらしい。
昨日の夜に放送されたアニメは2~3本あり、わたしはどれのことだか分からなかった。
ちなみにキュプロス島戦記とは、いわいる剣と魔法のファンタジーの世界で、暗黒に覆われた島。キュプロス島を冒険するお話だ。
戦士の主人公と、ヒロインの美しいエルフ、その他大勢で島を冒険する。
行く先々には、ゴブリンがいたり、巨人がいたり、ドラゴンがいたり、まあ敵のモンスターと戦うアニメだった気がする。
タッくんはこの手のファンタジー作品が大好きだ。少し熱っぽく語る。
「昨日のヒロインの魔法。すごかったよな?」
「うん。複数の竜巻を起こして敵を倒していたよね。
たしかあの魔法は『風の精霊魔法テンペスト』、魔法強度は10段階のうち第7ランク目で、コスト250、ダメージは1700くらい。
でも敵のアークワイバーンは同じ風属性だから、本当ならもっと属性相性のよい炎系の魔法を打つべきだったよね」
さすがヨネちゃん、なぜかやたらと詳しい。
「ああ、うん、そ、そうだな」
どうやらタッくんはそこまでは詳しくないようだ。
でもこの会話の流れだと、きっと次はわたしに話題を振ってくるぞ!
「エル子も精霊魔法つかってみろよ。エルフだったら魔法を使えるはずだろ?」
きた! やはりきた! そう来るとおもっていた。
エルフといえばとうぜん、わたしに話しを振らざる終えないだろう。
「まあ、わたしはエルフだから、精霊魔法のひとつでも使えますよ。
でもな~ 攻撃魔法とか使ったら、この辺りが大惨事になってしまうからな~」
「そういうのはいいから、試しにやってみせてくれ」
タッくんがちょっと面倒くさそうに言った。わたしの扱い方が雑だ。ちょっとイラッときた。
さて、どうしてくれようか。ダメージが2000くらい出る攻撃魔法でも打ち込んでやろうか。
少し考えていたら、斜め後ろの方から声をかけられる。
「エル子お姉ちゃん、おはよう」「おはようございます」
声をかけてきたのは、近所の小学生のゴローとソウタだ。
実はわたしは小学生にもエルフのお姉ちゃんとして人気者だったりする。
人懐っこいゴローがわたしにネタを振ってきた。
「お姉ちゃん、昨日のアニメみた?」
「見た、見たよ~」
「あの魔法つかってみてよ」
ここはわたしのボケどころ。もとい見せどころ。
「そこまで言われちゃしょうがないな。お姉ちゃんの魔法をみせたるでー。
盟友シルフよ。なんたらかんたらで、えい!」
本当はもっとカッコイイ呪文を唱えていたが、わたしの記憶力だとこれが限界だ。
セリフとともに、手を大きく振るうと、ノリの良い小学生は、
「すごいかぜだー」「うわー、やられたー」
おそらく竜巻に巻き込まれたシーンを想像しているのだろう
ゆっくりとクルクルと回りながら飛ばされた振りをする。
わたしの魔法によって吹き飛ばされると、どうやら満足したもよう。
「じゃあねー」「またー」
「またね」
挨拶をかわして、それぞれの学校の方へ別れていく。
このやり取りを、ややあきれた感じでタッくんが見ていた。
そこでわたしはターゲットを切り替える。
「ふふふ、次はタッくんの番だよ。
わたしの魔法をくらうと、クルクルと回りながら吹っ飛ばなければあかんよ。準備はええかな?」
「いや、オレはいい。やらなくていい」
それまで
わたしは片手を上げてジリジリと追い詰める。
「まてまて、エル子はアレをやって恥ずかしくないのか?」
「正直言うと、ちょっと恥ずかしい。
『だが時に犠牲を強いてでも成し遂げなければならない時もある』」
先々週のキュプロス島戦記の台詞を使って、タッくんをさらに追い詰める。
「いやいや、この場面でその決め台詞を使うのはおかしいだろ」
タッくんはあのリアクションを死んでも取りたくないらしい。
本気で困った顔をしていたら、ヨネちゃんがわたしらの仲裁に入った。
「ちょっと待って、エル子ちゃん。
魔法が未発達の世界で、現地人の前で無闇に魔法を使うと、
『魔法規約132条、第3項』にひっかかって、大変な目にあうよ」
「え、ええぇ、それはイヤだな。しょうがないからやめておこう」
「ふう、助かった」
なんとか丸く収まった。
リアクションを取らなくてよくなったタッくんが本気で安心していた。
しかしヨネちゃんのボケの方向性がいまいち分からない。
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