ランチタイム
いつも通りのアホなやり取りをしながら学校に着いた。
学校についてもわたしは人気者だ。
「エル子、昨日のやってみせてくれ」
「エル子ちゃん、魔法を打ってよ」
と、男子、女子、同級生、先輩、関係なしにリクエストがくる。
そのたびにわたしは
「ええよ~。盟友シルフよ、なんたらかんたらで、えい!」
と、呪文とアクションを取るのだが、小学生と違い高校生は極めてリアクションが薄い。
「へー」とか「ふーん」としか返ってこない。
魔法をリクエストするなら、ちゃんとそれなりのリアクションを取ってほしい。
これだと、一人芝居をしているようで、とても恥ずかしい。
魔法を打つたびに、私のメンタルは削れていく。
そのうち、わたしの
教室について、しばらくするとチャイムが鳴り、学校ではいつもどおり授業が始まる。
授業は数学と理科と国語と英語の内容が、わたしにはちょっと難しい。
頭をひねりながら、一生懸命ノートを写しているとあっという間にお昼になった。
お昼もいつものようにタッくんとヨネちゃんで食べ始める。
ランチをしながら、どうでもいい会話を交わす。
「次の授業は古文だね。わたし、あの授業はいつも眠くなる」
「ああ、エル子はだいたい寝てるよな」
「えっバレてた」
タッくんが痛いところを突いてきた。
わたしは起きているように、がんばって偽装していたつもりだったのだが……
「あれでバレないと思っているのかよ」
タッくんがわたしにダメ出しをする。
「そうよ『食後にすぐ寝ると、牛になる』と言うわ、気をつけてね」
さらにヨネちゃんが謎の追い打ちを掛けてきた。
ちくしょう、こうなりゃ開き直ってやる。
「うぐぐ、寝るのはわたしが悪いんじゃない、授業の内容が悪んだ。
だいたい古文なんて大人になっても使うわけないじゃん。
古文で会話しているところなんて、見たことないでしょ」
「たしかに、それはないな~」
タッくんが同意してくれた。いいぞいっしょに堕落しよう。
「そうね。『つれづれなるままに、日くらし』とは、日常的に言わないわね」
ヨネちゃんも同意してくれた。そうだ、古文なんて要らないんだ。
調子に乗ったわたしはさらに調子に乗る。
「でしょでしょ、だいたい『つれづれなる』て何よ、意味なんてわからへんやん」
「『することがなく手持ち無沙汰である、所在ない』っていう意味ですわ」
「あっ、そういう意味だったんだ……」
ヨネちゃんは優等生だ、とても勉強が出来る。
ただ、タッくんはそこまで勉強は出来ない。とくに国語系は苦手だったハズだ。
現に今も『古文の事でオレに話しを振るな』というオーラを出している。
だからわたしはあえて話しを振る。
「タッくんはどう思う。古文なんて要らないでしょ?
いっしょに寝ようよ~」
「いや、オレいつも古文の時間はコッソリ数学の勉強やってるから寝てる暇ないわ」
くそう。たしかにタッくんの数学の成績は良い。こんな時間に勉強してたのか。
「エル子も古文の時間に、別のもっと役に立つ勉強でもしたらどうだ」
タッくんが正論を言ってきた。
やばい、このままではわたしの貴重な睡眠時間が無くなってしまう。
なんとか二人を言いくるめなければならない。
「ほら、数学は四則演算ができればいいし、国語は話せられればいいし、英語は使わないし。
勉強しなくても生きていけるでしょ」
勢いで学生の本分である『勉強』を全否定してしまった。
わたしの発言を聞いてタッくんはやや渋い顔をした後、不敵な笑みを浮かべた。
何かを思いついたらしく、わたしにネタを振ってくる。
「そうだな。エル子が日常的に役立つのはエルフ語くらいだろうな」
きた、定番のネタが来た。わたしはそれに答えなければならない。
「そうやね。エルフ語の練習は必要よね。日常的に使うし」
「じゃあ、エル子は古文の時間をエルフ語の勉強にあてるという事で決まりだな」
そういうと、タッくんはスマフォを取り出し、なにやらWebページを開いて私らに見せた。
「ほれ、読んでみろ」
「???」
画面にはアルファベットではない、見たことが全くない文字が並んでいた。
「なにこれ?」
「『
「何語? 英語じゃなさそうだけど」
「エルフ語だよ」
「えっ、エルフ語って実際にあるの!!!」
「あるよ、ほらこれがエルフ語講座のページ」
そういって他のページも見せてくれた。
アホだ、わたしより遙かにアホゥがいた。こんなの作ってどうするんだ。
エルフなんて存在しないのに。
「いやいやいや、何これ、おかしいでしょ?」
「じゃあ、このページのURLを送っとくよ。勉強頑張れよ」
タッくんがドヤ顔でLnieのチャットにURLを貼り付けてきた。ムカつく。
「頑張ってね。エルフ語はきっと役に立つわ」
ヨネちゃんまで悪乗りしてきた。
ああ、わかりましたよ。
ちゃんと習得する気はないけれど、次の時間くらいはエルフ語の勉強をやってやりますよ。
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