戦いたくない者たちの闘い

silvester

第1話勇者と魔王

 「ついに魔王城に辿り着いたぞ・・・」


私は長年人々を苦しめてきた魔王を討伐に人間界を越え、魔界に来ていた。


魔界は人間界に比べ、荒廃していて私はこれも魔王の魔力のせいなのだろうと考えている。


私は城に入りやけに入り組んだ城の仕掛けをすべて解いて、ついに玉座の間に辿り着いた。


やけに荘厳な扉を開けるとそこには、魔王と思しき人影が見えた。


「おい、魔王。私は勇者だ。人々の平穏な暮らしを害する貴様の所業も、もうこれで終わりだ。」


すると逆光で顔の見えないその人影はこちらへ近づいてきた。


私は後退りしながら様子をうかがった。


すると魔王はかしづき、私の手を取って言葉を発した。


「おぉ、勇者よ。よく来てくれた。君はなんと美しい女性なんだ。あなたに世界の半分を・・いいえ、私と一生添い遂げてくれないだろうか。」


「は、はぁ!?」


私は敵であるはずの魔王から突然のプロポーズを受けてフリーズした。


魔王は返事のない私を不思議に思って、そこで気づいたようだ。


「そうか。人間界から遠路はるばるこんな辺鄙な田舎に来て疲れているのだな。」


私はようやく意識を取り戻し、魔王に尋ねた。


「あなたは魔王ですよね?」


「うむ。」


「人々を苦しめてきた魔王ですよね?」


「魔族も人間によって苦しめられてきたがな。」


「じゃあ、なぜ私にプロポーズしてきてるんですか!私はここにあなたを倒しに来たのに!」


「知ってる。映像用魔水晶ラクリマを通して全て見ていたからな。君がぼくの城の罠で悪戦苦闘しているのとか。」


「とにかく、あなたにはここで死んでもらいます。」


そう言って私は聖剣を構えた。この聖剣は魔王を倒すことのできるただ一振りの剣なのだ。


私が魔王に切りかかろうとしたとき、魔王の姿は掻き消え、勇者は背後に回り込んでいた魔王の手刀で意識を奪われた。







 私が目を覚ますと天蓋付きのベットだった。

やけに豪華なつくりの部屋で私は記憶を整理している。

すると扉をノックする音が聞こえた。まだ醒めきらない頭で返事をした。

「どうぞー。」


部屋に見覚えのある男が入ってきた。

それで私は一気に目が覚めた。


「魔王、私を部屋に連れ込んで何をするつもりだ!」


「まあまあ落ち着いて、朝食持ってきたから。」


「敵の作った飯など食べられるわけがないだろう!」


そう言うと魔王が落ち込んだオーラを出し始めたので、結局毒見を条件に朝食を食べた。


なんとなく殺し合いをする雰囲気ではなくなってしまったので、頭に浮かんだ疑問を魔王に投げかけた。


「城に入ってからこれまで魔王以外の魔族を見ていないんだが、魔王はこの広い城に一人で暮らしているのか。」


「まあ、一人だな。」


「家来や守衛、魔物などは城に配置していないのか?」


「よく考えてもみろよ。家で配下たちに気を使うのは息苦しいと思わないか?」


そう言われると確かにそうだ、と妙に納得してしまった。


「じゃ、じゃあ魔王軍はどうして人間界に攻め込んできたりするんだ。まさか理由もなく、という訳でもないのだろう。」


「お前もここに来るまでに見ただろう。わが領土の痩せた土地を。」


「魔族の持つ魔力が影響しているのか?」


「いや、もともとこうだったんだ。私たちの先祖が住み着いたこの魔界はもともと荒れていた。」


「人間界ではお前たち魔族が土地を荒らし、おぞましい魔界を作り上げたことになっているぞ。」


「それは人間たちの思い違いだ。人間の王はどうも都合の悪いものは、魔族に押し付けたがるきらいがあるようだ。」


魔王は憐れむように淡く微笑んだ。

一瞬その儚げな笑みに見とれていた私は気を取りなおして彼に自らの思いを告げた。


「私はお前をを殺しにここに来た。だがどうにも殺す気になれない。だから一度人間界に戻り、考え直したいと思う、人間と魔族との関係を。」


「それは無理だ。」


「へ?」


あんまりにも淡々と魔王がそう返すので、思わずキョトンとしてしまった。


「ラクリマを通して見ていた時から僕はあなたを好きになってしまった。あなたの艶めかしい肢体、柔らかな唇、絹のように艶がありシムルグの羽のように美しい髪に一目惚れしてしまった。あなたを魔界から帰すつもりはないよ。」


「なっ、なん。」


魔王の言葉にいろんな意味で驚いてしまい言葉が咄嗟に出てこなかった。


「大体、開始3秒で手刀で落とされたあなたがぼくから逃げられる訳がないでしょう。」


お父さん、お母さん、私は魔王につかまってしまいました・・


「衣食住は整えてあげるから、僕に仕えてよ。ね?勇者」


今唐突に聞きたくなったことがあったので聞いてみた。


「私がくるまでこの城で何してたの?」


「勇者待ってた。」


「他には?」


「家事してた。魔王城で」


なぜか嫌な予感がした。


「あとは?」


「・・・・」


「ないの!?」


そういうとあからさまに魔王がしょぼくれたのでとりあえずフォローした。


「ま、まぁ魔王だから敵を迎え撃つだけでいいと思うよ。」


「慰めはいらないよ・・・」


落ち込むオーラを見せる魔王に吹き出してしまい、つい本音を口に出してしまった。


「ふふっ、なんか可愛い。」


「ま、魔王にかわいいとか言うな!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戦いたくない者たちの闘い silvester @daikikai1231

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る