第44話 出発
「
「
絶対に負けられない戦いがここにあります。高圧電流に触れたかのごとく私の体は打ち震え、血が沸騰しているかのごとく一子ちゃんの体から湯気が立ちます。
「いっしょにすわる」
私と一子ちゃんの手を引いて、ニコちゃんがてくてくと車に向かいます。
私と一子ちゃんは目と目で素早く会話を交わします。争いは何も生みません。私達はとっても仲良しなので、一子ちゃん、ニコちゃん、私の順で一番後ろの席に並びます。出発準備完了です。
「妙、ちょっと詰めて」
「
「四人ぐらい座れんだろ。妙も
この列は三人掛けですが、歌葉ちゃんは剛力にものを言わせてぐいぐいと私を押し込んできます。突撃隣の席御免です。
「むぎゅっ……妙、きつい」
「ごめんねニコちゃん、苦しいよね、でも全部歌葉ちゃんのせいだからね」
私は為す術もなくニコちゃんに密着してしまいます。触り心地満点です。体の相性抜群です。ニコちゃんの柔肌が私の身心を侵蝕します。このまま一つに溶け合う瞬間もすぐそこです。
「ん。妙、そこ、くすぐったい」
「ニコちゃん、ここ? ここがいいの?」
「あなた、いい加減にしないと絞めるわよ」
一子ちゃんが殺気を込めて私の首を狙います。
「言っとくけど、あたしは大して強く押してねーぞ」
歌葉ちゃんは責任逃れで両手を挙げて後退します。
仕方がありません。今回はこの辺で勘弁してあげましょう。ニコちゃんにすりすりするのは、あとの楽しみに取っておきます。
「歌、歌葉さん、こっち、こっち空いてるから。もし、もしよかったら、座らないかなって、かなって」
前の席から
本山さんを見やり、歌葉ちゃんはぽりぽりと頬をかきます。
「あたしは、いいけどさ。
「いい、いいと思う、思う」
歌葉ちゃんは前の列に移り、ぎこちなく本山さんの隣に座ります。いざ近くに来られると、やはり暴力を振るわれるのが怖いのか、本山さんは歌葉ちゃんに触れないよう小さく縮こまっています。
「……なんか怪しいなあ。歌葉さんと本山さん、わたしの知らないところで進展とかあったのかな? この初々しさからすると、まだこれからって感じっぽいけど、要チェックだね……」
二人の様子を気にする風情で、
ともあれこれで配置は決まりです。運転席にさつき先生、助手席に柚原さん、真ん中の列に本山さんと歌葉ちゃん、後ろの列に一子ちゃんとニコちゃんと私、一子ちゃんの足置きに
柚原さんが後ろを振り向いて確認を取ります。
「みんな準備いいかなー? 縹さんはちゃんと席に座ってシートベルト締めてねー。じゃあ先生、よろしくお願いします」
「はい。みなさんを家までお送りすればいいんですね」
「それは明日にしてくださいね」
総勢八名、いよいよ楽しい海水浴へ出発です。
#
空は快晴、高く上ったお日さまがじりじりと肌を焦がします。ですが街の中にいる時とは違い、粘りつくような不快さとは無縁です。
古くからの保養地として有名な海辺の町の、静かで奥まった場所に私達は来ています。
「ここが歌葉さんの家の別荘かー。間取りは聞いてたけど、思ったよりこぢんまりした感じで安心したよ。でも雰囲気があって素敵な建物だね」
「単に古いだけだろ。なにしろ築百年とかそんなレベルだからな。それなりに手は入れてあるけど、あんまり使ってないから、たぶん不便なとこなんかもあるぞ。あとでぶちぶち文句言うなよ」
「あはは、言わないって。こんないいところに宿代無しで泊まらせてもらえるんだもん、感謝しかないよ」
楽しげな柚原さんに、私達も同意します。基本は木造漆喰造りで平屋の和風建築なのですが、ドアや窓など随所のデザインが小粋な洋風で目を惹きます。
「気に入ってもらえたならよかったよ。とりあえずさっさと昼飯食って、一休みしたら海に行こうぜ。こっから歩いて五分ぐらいだからよ」
別荘の食堂で、来る途中のコンビニで買ったおにぎりやサンドイッチなどの簡単なごはんを済ませて、それぞれの部屋で水着に着替えます。
ちなみに部屋割はベッド一つの洋室にさつき先生、ベッド二つの洋室に柚原さんと本山さんと縹さん(柚原さんと本山さんがベッドを共用)、和室に一子ちゃんとニコちゃんと歌葉ちゃんと私です。
柚原さんによると、「各自の関係性を考慮しつつ、なるべく事故や間違いが起こらないことを旨として決めた。必ずしも皆さんの希望に添うものではないかもしれないが、グループの健全な発展と育成のためにご了承ください」とのことです。
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