第31話 夏風邪(仮)その2
「
クラスメイトの本山
裾が緩く広がったパステルチェックのワンピースに、五分丈の薄いレースのボレロを羽織り、頭には白い丸帽子をのせている。歌葉にはとても似合いそうにない可愛らしい格好だ。思わずじっくり眺めてしまう。
「……もしかして、デートの待ち合わせとかか?」
歌葉を前にした千紗は、落ち着きのない様子で頷いた。
「待ち合わせ、待ち合わせなんだけど、けど」
「マジかよ。じゃあ今からお前の彼氏が来るのか。どんな奴? 同い年?」
「違っ、違うの、彼氏、彼氏とかじゃなくて、はな、縹さんと、だから、だから」
「縹とデートって、お前らそういう関係だったの?」
「違う! 違うよっ!」
耳がキーンとした。歌葉はよろめいて後ろに退り、周りの視線まで集めてしまったことに気付いた千紗は、小さくなって下を向いた。
「ごめん、ごめんなさい。大きな声出しちゃって」
「別にどうってことねえよ」
実はまだ心臓がバクバクいっているのは内緒である。
「結局、相手は縹なのか?」
「デート、デートするつもりで来てって。意味はよく分らなかったけど、特に用事もなかったし、せっかく誘ってくれたんだからって。かぐら、神楽坂さんは? 神楽坂さんこそ、誰か男、男の人とデートだったりとか、とか」
「男とデート? あたしが? そんなのありえねーって。お前と同じで、縹に呼び出されたんだよ。暇なら一緒に出掛けないかってな。あいつ、二股なんかかけやがって。しかも誘った当人が来てねえとか。なめ過ぎだろ」
歌葉はここにいない綾乃を想像して手刀を振り下ろした。
「二股、二股って……神楽坂さんと縹さんは、やっぱりそういうことなのかな、かな……それにわたしも入るっていうこと? 困る、困る……やっぱりちゃんと一対一じゃないと……」
「本山? 何ひとりでぶつぶつ言ってるんだ」
「なんでも、なんでもないの。こっちのことだから気にしないで、絶対、絶対」
千紗は力んで念を押した。余り突っ込まない方が良さそうだと歌葉は思った。
「ともかく縹に連絡してみるか」
「そうだね、だね、それが、あ」
「なんだよ、うひゃっ!?」
この暑いさなか、歌葉の全身に鳥肌が立っていた。ぐにゃりとした何かが太股にへばりつき、気味悪く蠢きながらスカートの中へ潜り込むと、あっちこっちをすりすりと撫でさすり始める。
「わっ、ひゃっ、だめっ、そこは、あんっ、だめ、だ……だめだっつってんだろうがあっ!!」
歌葉は思いきり跳躍すると、全体重を乗せたヒップドロップを叩きつけた。エロエロな妖怪がぺしゃんと潰れる。
「ふぅー。本山、保健所に連絡しろ。未確認有害セクハラ生物の捕獲と隔離を要請するんだ」
「えっと、えっと、もうそのくらいにしてあげた方が……すごく苦しそう、苦しそうだよ」
歌葉の尻の下で手足をじたばたさせていた変態生命体、こと縹綾乃の動きがだんだん鈍くなっていく。ひゅーひゅーとやばい感じの息が洩れ始めるにいたり、歌葉はゆっくりと立ち上がった。
「さて行くか。たまにはあたしら二人で遊ぶってのも悪くないだろ」
「それは、すごくいいなって、いいなって思う、けど」
千紗がちらちらと窺う先で、綾乃がようやく身を起こした。歌葉も本気で置いていくつもりまではない。
「……すいません、遅くなりました……先に来てはいたんですけど……余りに暑かったもので……カフェで休んでいて……」
今にも倒れそうな風情で頭を下げる。
「そりゃ暑いだろうよ。そんなカッコしてればな」
案の定、綾乃は上から下まで黒ずくめだった。キャップに長袖長ズボンと完全装備である。
まるで肌を晒せない事情でもありそうな見た目だが、ウォーターランドでは裸に縄を巻いただけの格好で公衆の面前に出ようとしていた奴だ。単なる趣味に違いない。
「……駄目でしょうか……神楽坂さんの慰み物として……ふさわしい服装を心掛けているつもりなんですけど……もちろん下着もちゃんと黒いものをつけています……神楽坂さんのお好み通りに……」
「あたしの趣味嗜好を捏造すんなし。あと人前でパンツを出すな」
歌葉は綾乃の頭を引っぱたき、ズボンを脱ごうとするのをやめさせた。
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