第22話 ウォーターランド その2

「歌葉ちゃん、知らないの? 水着を着る時はね、パンツは脱ぐものなんだよ」

「うるせえよ。二子、一人で着替えられるな?」

「ん、できる」

「上等だ。それじゃあたしが妙のこと抑えてる隙にって、わー、待て待て、ちっちゃいガキじゃねえんだから、いきなり脱ぎ出すな! 柚原頼む、適当にタオルで隠してやって、うおっ、妙、暴れんな大人しくしろ!」


 取り返しのつかない悲劇の発生です。私が歌葉ちゃんから解放された時には、ニコちゃんの着替えは完了してしまっています。もちろん裸が見られなかったのが残念とか、そういうことではありません。ただニコちゃんの助けになれなかったのが悔しいだけです。せめて帰りに水着を脱がすのは私がやってあげようと、固く心に誓います。


 私や他のみんなも水着になって、いざプールに向かいます。私は学校で使っている紺無地のセパレートです。上はお腹が全部隠れて、下は太ももの半ばまであります。こういう賑やかな所で着るにはかえって変かもしれませんが、特に不都合はありません。


 ニコちゃんは競泳用っぽいワンピースで、お股が少し切れ上がっています。背は低くてもすっきり整った体型のニコちゃんにとても格好良く似合っています。あえてのシンプルを選択した一子いちこちゃんはさすがです。ニコちゃん道の家元です。

 歌葉ちゃんは大胆な赤いビキニにと冒険してます。布面積は下着とそんなに変わりません。というか私の下着よりも小さいです。


「ど、どうだよ妙……こんなのあたしのキャラじゃないかもだけどさ、ほら、夏だし? どうせならって……やっぱ変かな」

「ううん、いいと思うよ。歌葉ちゃん、素敵だね」

「そそ、そうか!? そんなことないだろ!? なあ本山、そんなことないよな!? あたしがこんなの着るなんて変だよな!? めっちゃ笑えるだろ!?」

「え、え? どうだろ、どうだろ、別に変ではないかなって、かなって……」

「いやいやいや、よく見ろって!」


 歌葉ちゃんにこじれたキレられ方をしている本山さんは、ヒマワリ柄の可愛いセパレートタイプです。お胸はすっぽり覆われていますが、おへそは出ていて、下はタイトな一分丈です。


「歌葉さん、ちょっと落ち着こうね。妙ちゃんは素直に褒めただけだから。そんな深い意味とか込められてないから。そうでしょ、妙ちゃん?」

 柚原さんの水着は上が長めのタンクトップ、下はショートパンツ風で、生地以外は普通の夏服みたいな装いです。それでもみんなの中では一番お胸が目立っています。歌葉ちゃんの真逆です。


「妙? どうせ冗談なんだろう? 似合ってないなら正直にそう言えよ?」

「似合ってるよ。トップアスリートっていう感じで」

「そういう意味な。知ってた」

 歌葉ちゃんが素に返ります。割れた腹筋に陰が差します。僧帽筋がさみしげです。広背筋が泣いています。


「……神楽坂さんには、やっぱり革のボンテージを着てほしいな……網タイツとピンヒールも忘れずに……」

 縹さんは、縄です。


「待て待て縹、なんだそれはなんの真似だそんな格好で人様の前に出るな!」

 縹さんの体を縛る縄を、焦った歌葉ちゃんが全力で掴んで引っ張り寄せます。

「あんっ……らめっ……そんなふうにされたら、ボクの真ん中に食い込んで……!」

「あっ、悪ぃ、でも違うぞ、そんなつもりじゃなかったからな」

「……いいんです。神楽坂さんにしてもらえるなら、どんなことだって嬉しいから……いっそもっと痛いことだって……」

 縹さんが潤んだ瞳で見上げます。歌葉ちゃんは凛々しく見下ろします。


「本当にいいのかよ」

「はい……もちろんです」

「縹……」

「神楽坂さん……」

「ふんっ」

「ぐほぁっ」

 歌葉ちゃんは縹さんの頭を抱えると、膝へと叩きつけました。ココナッツクラッシュの炸裂です。


「柚原、頼む。この痴女をどうにかしてくれ」

「はいはーい、任せて。こんなこともあろうかと、ばっちり用意してきたからね」

 柚原さんはカバンの中から新たな水着を取り出します。私のと同じスクール水着のようです。


「それって柚原の? 縹にはサイズ合わなくねえ? その……」

 歌葉ちゃんがためらいがちな視線を向けると、柚原さんは大きな胸の膨らみを隠します。


「……歌葉さんもわたしのことそういう目で見てたんだ。やだなー」

「ええっ? だって実際……ってか、あたしみたいに平たいよりかはいいだろ!? 気に障ったならごめんだけど!」

「なーんてね、これはわたしのじゃないよ。新しく買っておいたやつだから。縹さん、これ着てね」

「……はい。縄の上と下、どちらに……」

「それは好きにしていいから」

「いや縄はほどけ」

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