ウォーターランド
第21話 ウォーターランド その1
駅から発着している専用シャトルバスを降りた途端、梅雨明け初日の陽光が真っ直ぐに照りつけます。私は軽く目眩を覚え、手近のニコちゃんに抱きつきました。柔らかいです。かぐわしいです。幸せメーターが瞬時にマックスまで振り切れます。
「こら」
「あうっ」
しかし楽園は無残にも終焉を迎えます。強烈なチョップが私の頭蓋を揺らし、脳内快楽物質を霧散させます。
「こんなクソあちーとこでふざけるのやめろって。熱中症になんぞ」
爽やかなアクアマリン色のタンクトップからにょっきりと突き出た腕を、
「だねー。照り返しがきっついもん。遊ぶのは中に入ってからにしようよ。
「暑い……
「ほ、ほんとにわたしも来ちゃって、来ちゃってよかったのかな、いいのかな」
「いいに決まってんだろうが。だからチケット渡したんだ。一枚だけ余らせてもしゃあねえしな、逆に来てもらってよかったぜ」
歌葉ちゃんが獰猛に笑いかけます。本人的にはお愛想のつもりらしいですが、本山さんはこそこそと柚原さんの背中に隠れます。それを柚原さんは朗らかに押し戻します。
「本山さん、大丈夫だよ。歌葉さんはいきなり噛みついたりしないから。少しずつ慣れていこう。ね?」
「ゆ、柚原さんがそう言うなら……あの、神楽坂さん、今日はお誘い、お誘いありがとう。でも痛いのは得意じゃないので、ないので……ごめんなさい」
「お、おう。なんであたしがフラれたみたいになってんのかよく分んねえけど、よろしく頼むわ」
ペコリと頭を下げた本山さんに、歌葉ちゃんは複雑そうな表情で応じました。
期末試験も無事終わり(結果はまだ分りませんが、少なくともニコちゃんと私は良くできたに決まっています)、私達はあとに続く試験休みを利用して、ここ
私とニコちゃんの他におまけが四人も加わっているのは、歌葉ちゃん提供の優待パスポートが六枚セットだったからです。勉強会の時にはいなかった本山さんを誘ったのは当然柚原さん、かと思いきや、意外にも歌葉ちゃんです。少し気弱そうなところのある本山さんですが、それがかえって歌葉ちゃんの益荒男心をくすぐったのかもしれません。
「ニコちゃん、水着はどうする? 私のを着る? それとも私の水着がいい?」
更衣室に入った私はニコちゃんに確認します。中学生にしては小柄なニコちゃんですが、私は抜かりなく自分の小学校時代の水着を用意しています。きっとニコちゃんの肌にしっとり馴染むと思います。
「だいじょうぶ。おねえちゃんが買ってくれたみずぎ、もってきたから」
「そうなんだ。じゃあこれね。ちゃんと洗濯してあるから。着せてあげる」
「おいこら、何さらっと二子のパンツ脱がそうとしてんだよ」
歌葉ちゃんのヘッドロックが極まり、こめかみがぎりぎりと締め付けられます。私はギブアップの意思を込めて歌葉ちゃんの前腕をタップしながらも、自分の正しさを主張します。
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