出遭い――5
怪異をおびき出して、影踏の力で以て退治する。――彼女が考案したその作戦は、単純明快その一言に尽きた。
まず整理しておきたいのは、彼女の中に取り付いている怪異の名前は『
「昔々、ある裕福な家に生まれた男がいたといいます。その男は野心家であれもしたい、これもしたいと言っては財産を使って実行しました。その結果、一五歳にして彼は大きな富を築きます。しかし、彼の一六歳の誕生日のことです。栄華を極めていた彼は突然死んでしまいました。誰もが、彼の死を悲しみます。その日の夜、彼の頭からにゅっと
つまり夢虫に遭うと、絶えず目標を見いだし成功するが、その反面一六歳の誕生日のタイミングで死んでしまうのだ。
どうして一六歳というタイミングなのか、夢虫が何故わざわざ宿主を殺すのか。それは原典にも書かれていないため、分からないらしい。
しかし、そういうところが怪異譚らしくもある。僕はそういうものだろうと思って、さほど抵抗なくその話を受け入れた。
ただ、問題だったのがただでは退治することができないことだ。夢虫本体がかなり小さいため、戦闘自体はおそらくそう手間はかからないのだが、それを呼び出すのには骨が折れるようだ。
先程の話からも分かるように、夢虫は基本的に宿主の頭の中にいるらしい。そうなると当たり前だが、容易には手出しができない。まさか、彼女の頭を割って怪異を出すなんてことはできないし。そんなことをしては、本末転倒もいいところである。それゆえ、夢虫をおびき出す儀式のようなことをしなければならないらしい。
どのような儀式をするのかと尋ねてみたが、彼女はただ一言、
「それは、秘密です」
とだけ言った。
不測の事態を減らしておくためにも、どのようなものなのか聞いておきたかったが、篠生もそのことは十分に心得ているだろう。そんな彼女がわざわざ秘匿すると言うのだから、僕が知らなくてもなんの問題もない情報だと思った方がいい。
僕はそう判断して、それ以上は何も訊かなかった。
この打ち合わせをしかし、影踏は一つとして訊いていなかった。僕は自室に戻った後、彼女に篠生の中の怪異を食べて欲しいということだけを伝えた。かなり端折っているが、これ以上情報を多くすると彼女の脳みそは理解することを拒否してしまう。
つくづく頭を使うことに向いていない彼女であるが、怪異と相対する時はそれを引いてもあまりあるほど頼りになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます