臨終
岸本何某
第1話
老人が苦しげに咳き込むと、その背中がパックリ割れて、内側から倦み疲れた表情の中年男がズルリと這い出てきた。
まるで昆虫が羽化しているかのようだった。
男は溜息をついた後、頭頂部に指を掛けてグイと引っ張った。すると男はバリバリ裂けて、陰気な青年が現れた。
青年は何かに怯えるように周りを見渡した後、全身を掻きむしり、ズタズタになった。
裂け目からチラリと子供の姿が覗いた。
中の子供が両手を広げて駆け出すと、青年の切れ端は風に吹かれて飛んでいった。
活発そうな少年が現れた。
少年は私を見つけてキキキと笑った。
こちらも釣られて笑った。
突然少年は弾け飛び、彼が立っていた場所からは産声が聞こえた。
覗き込むと、てのひらほどの赤子が居た。
私が指を差し出すと赤子は小さな手でそれを握った。
そして徐々に縮んでいき、やがて消えた。
死んだんだなあ——と思った。
臨終 岸本何某 @Volex
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