弁財天の魂(マブイ)1
【魂(まぶい)抜ぎ】
南の島のいい伝えで、危険なことに遭ったり大きなショックを受けて、
恵比寿青年の従妹 江島真琴の声が出なくなったのは、飛行機トラブルに巻き込まれた時の恐怖心が原因だった。
真琴の
「原因は分かったけど、下調べも無くいきなり福岡に行けって言われても困るよ」
「僕は明日の午前中に仕事を片付けて、午後には福岡へ向かう。真琴の
普段は七海をぞんざいに扱う恵比寿青年が、真剣に頼み事をしている。
自分のような貧困フリーター女子でも力を必要としてくれる人がいると考えると、七海はこれまでと違う感情が湧いてきた。
「分かったわ、私が責任を持って、真琴ちゃんの魂を探してあげる!!」
それから恵比寿青年は仕事を片付けてくると会社に戻り、真琴は七海の家に泊まって、翌日朝イチで成田空港に向かう。
電車の中で、真琴は七海が重たそうに引きずる大きなスーツケースを指さした。
「ちょっと七海さん、一泊二日の九州旅行なのに、そんな大荷物抱えて何処に行つもり?」
「だって私枕が変わると眠れないし、飛行機の中で積み本を何冊か読みたいし、急に天気が悪くなったら折りたたみ傘も必要だし」
小さなリュックひとつの身軽な真琴と、大きなスーツケースに荷物をパンパンに詰め込んだ七海。
「どうしよう、最初から不安だよ。七海さんって全然旅行に慣れてないのね」
「そういえば私って小中高と大学、バイト先も地元。あんずさんの付き添いで団体旅行と修学旅行。最近の遠出は恵比寿さんの会社に行ったぐらいかな?」
「あの時は1時間近く道に迷って疲れたのぉ」
「
真琴が不思議そうに首をかしげているが、七海の方は逆に、知らない場所に外泊するのに小さなリュックに荷物がおさまるのが不思議だ。
「真琴ちゃんこそ、リュックひとつで着替えは足りるの?」
「夜寝る時の着替えはホテルのガウンで充分だし、翌日の着替えは薄手のシャツとズボンだよ」
「もし洋服が汚れたら大変だよ。予備の服を二,三枚持っておかないと」
「着替えが無ければコインランドリーで洗濯すればいいし、下着はコンビニで売っている。もしかして七海さん、シャンプーやリンスや洗面器まで持ってきたの?」
「ちゃんとドライヤーも忘れず持ってきたよ」
「七海さん、ホテルにドライヤーが完備されているって知らないの?」
まさかと思いながらたずねると、七海はバツが悪そうな顔で頷く。
これではどっちが年上か分からない。
成田空港に到着しても、七海は別の飛行機にチェックインしそうになり、真琴の手をわずらわせる。
「私、飛行機に乗るの二度目だからワクワクしちゃう。ねぇ真琴ちゃん、窓際の席に座ってもいい」
「私は南の島の移動、いつも飛行機だから慣れちゃった。福岡に到着するまで寝てるね」
「キャビンアテンダントはいい匂いがするのぉ。娘よ、ワシちょっと席を外してもいいか?」
まるで遠足に出かけるように浮かれた七海と小さいおじさん。
深刻さが微塵もない三人とは逆に、恵比寿青年は真琴が心配で仕事を早く片付けようと鬼のように働いていた。
千葉成田から一時間四十分、七海たちはお昼前に福岡空港へ降り立つ。
***
「窓の外眺めながら音楽聴いていたら、あっという間に福岡ついちゃった。でもここは真琴ちゃんが怖い思いをして、魂を落とした場所ね」
「私はあの後何回も飛行機に乗っているから、別に怖いと思わないよ。でもどうして私の
「真琴ちゃんの魂は海の近くにあるけど、九州の海は広いよね」
七海がスマホのマップを見ながら首をかしげると、真琴が思い出したように呟いた。
「飛行機が揺れたのは福岡に到着する直前だったから、
「飛行機は大分の上空は通らないし、到着直前なら福岡か佐賀の海ね。とりあえず博多駅でお昼食べてから考えよう」
「娘よ、そろそろワシはお腹が空いたぞ、豚骨ラーメン、豚骨ラーメン」
七海は大荷物なので、小さいおじさんは真琴のリュックの中にいる。
おしゃべりしながらのんびりと空港ロビーを歩いていた真琴が急にたちどまると、周囲を見回す。
「どうしたの、真琴ちゃん」
「なんだろう、小さすぎて聞き取れないけど。私誰かに、呼ばれたみたい……」
「空港は人が多すぎて真琴ちゃんの魂の気配が探れないのね。とにかく早く海に行かなくちゃ!!」
七海はスマホのマップを航空写真に切り替えて白い砂浜を探すと、福岡空港から地下鉄で繋がるJR筑肥線が海岸線を走っている。
「この電車に乗れば、もしかして真琴ちゃんの魂が落ちた砂浜に行けるかもしれない。気配が消える前に、早く電車に乗ろう」
「ええっ、ふたりともご飯を食べないのか? ワシはお供えがないと神通力が使えないぞ」
「小さいおじさん、少し我慢して。海に着いたら九州の海の幸をたらふく食べさせたあげるから」
お腹を空かせた小さいおじさんをなだめながら、七海と真琴は電車に駆け込む。
福岡空港から走る地下鉄は、博多天神まで外の景色が見えない。
天神の駅を過ぎると乗客が少なくなり、七海と真琴は並んで席に座る。
地下では魂の気配が感じ取れなくて、真琴はしきりに首をかしげていた。
「私、福岡は修学旅行で一度来ただけなのに、どうしてここで魂を落としたの?」
「もしかして真琴ちゃんは魂を落としたんじゃなくて、魂が逃げ出したかもしれない」
「七海さん、それってどういう意味ですか」
「私、祖母のあんずさんを病気で亡くして多額の借金を抱えて、現実逃避で家を汚屋敷にしちゃったんだけど、真琴ちゃんも故郷を離れて、東京で辛いことがあったのかなぁと思って」
「私は別に辛い事なんて、歌さえ歌えれば……」
真琴は何度か口ごもりながら、しゃがれ声で答えた。
七海は電車の乗客がチラチラとこちらを見ているのに気づく。
超絶美少女の真琴は、そこにいるだけで人目を引くスター性を持っているのに、デスボイスで売り出すなんて可哀想だ。
電車の乗っている間、小さいおじさんがしきりにお腹空いたというので、お菓子を与えて我慢させる。
地下鉄が地上に出てしばらくすると、車窓の景色は黄金色の稲穂が実る田んぼが現れる。
電車の乗客は、いつの間にか七海と真琴と小さいおじさんだけだった。
真琴はスマホのゲームに集中して、小さいおじさんは退屈で居眠りをして、七海だけが遠足気分でソワソワと窓の外を眺めていた。
「今どの辺を走っているのだろう。あっ、海が見えた」
秋晴れの青空に穏やかな海の景色が目に飛び込む。
七海は興奮してゲーム中の真琴の肩を揺さぶったが、海が見えましたか。と呟くだけだった。
「なんで真琴ちゃん、感動薄っ。成田から飛行機に乗って、やっと海にたどり着いたのに」
「娘よ、南の島生まれの弁財天にとって、海は見慣れたモノで全然珍しくないのだ」
「私、ちゃんと海を見るのは三年ぶりかなあ。近くの千葉の海より全然綺麗だよ。ほら、車内放送で雰囲気の良い音楽も流れているし」
「なにを言っているの七海さん、車内放送の音楽なんて聞こえないよ」
「昭和歌謡曲みたいな女の人の歌声が聞こえるよ。真琴ちゃんには聞こえないの?」
霊能力の高い七海に聞こえるなら、歌と踊りの神である弁財天にも聞こえるはずだが、真琴は不思議そうに首をかしげる。
「ワシにも歌声が聞こえるぞ。なるほど、弁財天の声が出ない理由が分かった。欠けた魂は何かを知らせようとしているのだ」
「大黒天様、どうして私だけ歌が聞こえないの?」
「弁財天よ、本当に歌を歌いたいのならひっぷほっぷでも構わないだろう。しかし弁財天の魂の一部がそれを拒んだ」
「それじゃあ今聞こえているのは、真琴ちゃんの魂が本当に歌いたい歌なのね。あっ、窓の外の海と砂浜の景色、真琴ちゃんの魂が落ちた場所と似ている」
七海は窓枠に手をかけて前のめりになり、外の景色を見つめる。
周囲に民家はなく、深い木々の間から白い砂浜と青い海が見える。
「私は歌は聞こえないけど、でも体が磁石みたいに引き寄せられる。きっと私の
「やっと目的地にたどり着いたか。それでは次の駅で降りて腹ごしらえしたら、弁財天の魂を探しに行こう」
しかし七海達が降り立ったのは福岡から1時間あまり、深い緑に囲まれた無人駅で、周囲には民家もない。
無人駅を出ると車が二,三台停められる小さい広場があり、海側へ伸びる細い道と、線路沿いを五十メートルほど歩き、踏切を越えた先に住宅街がある。
スマホのアプリで現在位置を確認すると、福岡を通り過ぎて佐賀に入っていた。
「娘よ、ワシはもう限界だ。豚骨ラーメンと辛子明太子と、ついでにイカ刺しと佐賀牛が食べたいぞ」
「そんなこと言っても駅前にキヨスクもコンビニもないし、福岡から1時間で無人駅なんて予想できないよ。あっ、ちょっと待って真琴ちゃん!!」
海に続く道は左右を防風林に囲まれ、昼間なのに通行人が見当たらない。
七海と小さいおじさんが揉めている間に、待ちきれなくなった真琴は海へと続く道を戦力疾走で駆けてゆく。
「待って、真琴ちゃん。こんな知らない場所ではぐれたら大変」
七海は慌てて重たいキャリーケースを引きずりながら、真琴の後を追う。
海の方向から聞こえるのは、波の音と昭和歌謡風の女性の歌声。
「なんだかテレビのサスペンスドラマに使われそうな、哀愁のある歌声ね。高校生の真琴ちゃんが歌うには大人すぎるかな」
「そんなことない、昭和歌謡アイドルは年齢が若かった。百江ちゃんなんか十五才デビューであの名曲を歌ったぞ」
「へぇ、小さいおじさんは歌も詳しいんだ。真琴ちゃんはヒップホップより昭和歌謡の方が似合いそう」
真琴を追いかけながら、ここまでは七海と小さいおじさんは会話をする余裕があった。
磯の香りが漂い、更に波の音も歌声も大きくなって、海へと続く道がひらける。
目の前に青い海とうろこ雲が広がる秋の空、風が優しくそよぎ白波が砂浜に打ち寄せる。
左右に続く白い砂浜を眺め、歓喜の声をあげようとした七海は、はたと気がつく。
「うっ、白くて綺麗な砂浜だけど……道路がない!!」
「娘よ、右の砂浜に真琴の足跡がついている。早くあれを追いかけるのだ」
「でも重さ二十キロのキャリーケースを引きずって歩かなくちゃいけない」
堅いアスファルトならキャリーケースを引いて運べるが、砂の上では車輪がめり込んでしまう。
「その大きなカバンはここに置いてゆけば良い」
「砂浜って同じ景色で全然目印が無から、キャリーケースを置いた場所が分からなくなる」
「それならカバンを担ぐしかないぞ。娘よ、早くしないと弁財天を見失ってしまう」
昭和歌謡風の女性の歌声は、息づかいが聞こえそうなくらい近くに聞こえた。
全ての原因がこの砂浜の先にある。
声が出ないと泣いていた真琴や、真琴の声を取り戻すために、忙しい仕事の合間を縫って小さいおじさんにご利益ご飯を作っていた恵比寿青年。
七海は意を決してキャリーケースを持ち上げると頭の上にのせ、よろめきながら真琴の足跡を追いかけはじめた。
***
この歌に聞き覚えがある。
「ああ、思い出した。私が小さい頃によく歌った、とても懐かしい歌」
七海の強力な霊能力のおかげで奇跡的に真琴の
「確かに私の魂(まぶい)はここにあるはずなのに、砂浜が広すぎて探せない」
砂浜に転がるピンクの貝殻、それとも打ち上げられた小石、もしかしたら海の底に沈んでいるかもしれない。
同じ場所を何度も歩き回り、真琴は途方に暮れ砂浜にしゃがみ込む。
砂浜の向こうから、キャリーケースを頭の上にのせてこちらに歩いてくる七海の姿が見える。
「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ、や、やっと真琴ちゃんに追いついた」
「う、うわぁあーーん、七海さんっ。私の
真琴に抱きつかれた七海は、思わず頭の上にのせていたキャリーケースを放り投げてしまう。
ガコンッと鈍い音がして、キャリーケースは砂の上ではなく、砂に埋もれた大きな岩に当たり角がへこんだ。
「泣かないで真琴ちゃん。私と小さいおじさんと三人で探せば魂は見つかるよ。って小さいおじさん、なにグッタリしているの!!」
「お腹が空いて、力が、出ない。ワシはお供え物がなければ神通力が使えないのだ」
泣きじゃくる真琴と空腹でへろへろの小さいおじさんを抱えて、七海は途方に暮れる。
昭和歌謡風の歌声は、足下から大音量で聞こえるのだ。
「とにかく真琴ちゃんの魂のある場所は特定できたから、地図アプリで印をつけよう。あれ、スマホの充電が切れている、キャリーケースから充電器を出さなくちゃ」
七海は真琴を抱きつかせたまま、白い砂に埋もれた岩の上に落ちたキャリーケースに近づく。
「まだ二回しか使ってないのに派手に壊れちゃった。せめて砂の上に落ちたら良かったのに。あれ、この緑色の岩って人工物?」
岩に触れた七海は全身が総毛立ち、砂を払うと岩の表面に文字が現れる。
ーー見つけた、これだーー
七海は抱きついていた真琴を突き放すと、突然素手で砂を掘り始めた。
「七海さん、急にどうしたの?」
「足元から歌が聞こえたから変だと思ったの。この岩に真琴ちゃんの魂の欠片がある」
盛り上がった砂の中に埋もれた緑の岩は明らかに人工物のモニュメントで、七海はそれを掘り起こそうとしている。
「待って七海さん、キャリーケースに洗面器入れていたでしょ。それで砂を掻き出そう」
それから七海と真琴は、洗面器をシャベル代わりにして砂山を掘る。
全身砂まみれになりながら、二十分かけて砂に埋もれたモニュメントを掘り起こした。
砂の中から現れた緑の大理石は、表面に文字が刻まれている。
『唐津大五郎先生 作詞家生活四十周年 記念碑
-虹とシャム猫のラプソディ- 歌手:大滝マサ江』
「この人は地元出身の作詞家先生なのね。もしかして電車の中で聞こえた昭和歌謡? でも大滝マサ江って歌手、聞いたことないけど」
予想外の重労働に疲れた七海は、砂の上に大の字に寝転ぶ。
その隣で真琴は何度も大理石の表面に触れると、武者震いするように体を震わせた。
「嘘っ、信じられない。『大滝マサ江』って再デビューする前の『大空さくら』の芸名よ」
「えっ、大空さくらって演歌歌手でしょ。若い頃、歌謡曲歌っていたの?」
「大空さくらは十代の頃、アイドル歌手の妹分で売り出したけど挫折して、演歌歌手に転向したの」
「それって今の真琴ちゃんの状況とよく似ている。真琴ちゃんの魂の欠片は、この歌をとても気に入っているのね」
「そういえば私の
真琴が言いかけたところで七海は砂の上から体を起こす。
掘り起こしたモニュメントの周囲は小さな砂山が出来て、その一部が不自然に崩れている。
「私砂を掘るのに夢中になって、真琴ちゃんの魂を砂山に埋めたみたい」
「えっ、
「探しに来た魂を砂に埋めるとは、全く娘には呆れるのぉ」
「真琴ちゃんの魂が、砂山から出てきたところで掴まえる。私、セミ獲りが得意だから大丈夫よ」
七海は唇に指を当てて静かにと合図すると、崩れかけた砂山にそろりと忍び寄り……。
突然海風が強くなり、砂が巻き上がる。
まるで七海を拒むかのように視界がさえぎられるが、七海は眼ではなく気配で不思議なモノを視る。
「さすが真琴ちゃんの魂の欠片はじゃじゃ馬ね。私の貴重な休みを潰して九州まで探しに来たんだから、大人しく掴まってよ!!」
小さな砂の竜巻に囲まれた七海は吹き飛ばされないように足を踏ん張り、その中心に手を突っ込むとツルツルで弾力のある、ゆで卵のような丸い不思議なモノを手の中に捉えた。
これをどうすればいいのか、本能的に理解して体が動く。
「真琴ちゃん、口を開けて、捕まえた魂を飲み込んで!!」
ためらう
七海の砂まみれの魂の欠片を、手のひらで真琴の口の中に押し込むと、吐き出さないように口をふさぐ。
欠けた魂は、再び元の器になじんでゆく。
まるで薄曇りの夕暮れから快晴の朝へ、磨りガラスに覆われた視界が開けるように、真琴の意識が覚醒する。
「もうそろそろ良いかな。真琴ちゃんどんな感じ?」
七海が真琴の塞いだ口を解放すると、真琴は飲み込んだ砂を吐き出しながら、激しく咳き込んだ。
「ゲホゲホッ、ちょっと七海さん、乱暴すぎるよ。塞がれた口の中が砂まみれで、ジャリジャリする」
「真琴ちゃんのしゃがれ声が治っているよ。これが真琴ちゃんの本当の声!!」
七海は不思議そうに真琴を見つめる。
自分と同じ砂まみれなのに、魂を取り戻した真琴の姿は美しく、超絶美少女を通り過ぎて
「ねえ歌って、真琴ちゃん」
モニュメントから聞こえる大滝マサ江の歌声にハモるように、真琴は歌い出した。
昭和歌謡風の曲を少し今風にアレンジして、自然に体が動くのかダンスを踊りながら息を切らせず、波の音に負けない声量と抜群の歌唱力で真琴は歌う。
真琴の全身から放たれたオーラは天女の羽衣のように見えて、魂が歓喜で震える。
「凄いよ、小さいおじさん。真琴ちゃんの歌は、私が今まで聞いたどんな歌より素晴らしい」
「弁財天の歌声に圧倒されて、風も波音もやんだぞ。うおおん、ワシの涙腺は決壊した」
七海の肩に乗った小さいおじさんは、真琴の歌声に感動で涙を流し号泣している。
足元の砂にぽたぽたと水のしずくが落ちて、雨でも降ったのかと上を向こうとしたら、七海の頬も涙で濡れている。
だけど服も手も全身砂だらけで、涙をぬぐう事が出来ない。
そんな七海の目の前に、真っ白なハンカチが差し出された。
「これで顔を拭いてください。さすがです天願さん。ついに真琴は弁財天の力を取り戻した」
振り返るとそこには、少し髪が乱れて肩で息をしている恵比寿青年が立っていた。
「恵比寿さん、どうしてここにいるの?」
「昼過ぎの便で福岡に到着して、車で直接ここに向かったのです。ああ、大黒天様も真琴の歌に感動してお泣きになっている」
「それじゃあ恵比寿さんも、真琴ちゃんの魂がここにあるって知っていたのね」
「いいえ、僕は大黒天様にお渡ししたスマホの位置情報から、この場所を知りました。大黒天様の身の安全のため渡したスマホが実際役に立つとは思いませんでした」
さらりと重大発言をする恵比寿青年に、七海の涙はピタリと止まった。
それってつまり、小さいおじさんを連れ歩く七海の行動は、恵比寿青年に監視されているのだ。
「ちょっと待って恵比寿さん、いくら小さいおじさんが大好きだからって、それじゃまるでストーカーだし、私のプライバシーも……」
途中まで言いかけて七海は押し黙る。
歌い終えた真琴は恵比寿青年に駆け寄る。
目の前で長身美青年の恵比寿と超絶美少女真琴がひしと抱き合う姿は、親族の情を超えた愛情、完璧な男女の愛の形に見えた。
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