第26話 田中金属株式会社
俺はロイヤルホストを出ると、スキンヘッドの運転する車に乗せられた。小柳津大地は助手席、俺は後部座席に押し込まれ、印象の薄い男が横に座った。登録証を持っていなければ銃刀法違反になるような刃渡りのやたらでかいサバイバルナイフを見せつけられ、
「お前のせいで、パフェ食えなかった。大人しくしてろ」
と凄まれた。念のため、という理由で、俺は背後で手を縛られた。印象の薄い男は付けていたネクタイで、俺の手を縛った。
車は都心から離れたスクラップ工場に着いた。周りはここが東京かと思うほど畑に囲まれ、そばには民家はなく静かだった。入り口には「田中金属株式会社」と真新しい看板が掲げられていた。
「あれ?ここ田中さんところ?こんなに綺麗でしたっけ」
小柳津大地は素っ頓狂な声を上げて笑っていた。
「あの頃はここ、廃業寸前だったからな。所長が、今まで色々と協力してくれたからって、引退する前にかなりの資金を援助したらしいぞ。今じゃ、田中さん儲かっちゃって、シンガポールにある金属資源の会社と提携したらしくて、今も田中さん、シンガポールと日本に行ったり来たりの生活らしいぞ」
印象の薄い男は、スマホの画面を小柳津大地に見せ、小柳津大地はその写真を見て、なにこれぇ、高級リゾートじゃん、と言って大爆笑していた。
印象の薄い男は、俺がその「田中さん」という人を知らないのに、俺にもその写真を見せてきた。やたらでかいプールの前で、プールサイドのビーチベッドに寄りかかった、アロハシャツを着た心底人の良さそうな顔の俺と同じくらいの年齢の男が写っていた。もう1枚の写真はふざけて水泳用のゴーグルをしている写真。
「シンガポールって、タイから近いからさ、俺たち田中さんところ遊び行ったことあんだけど、超タワーマンションみたいなところで、部屋ん中もリゾートホテルのスイートルームみたいなんだよ。メイドのおばさんとかいて飯作ってくれるんだけど、全部美味いの」
「お金持ってると違うんですね」
「いや、全部向こうの会社が出してくれてるらしいんだよ。シンガポールっていったって、日本に比べたらやっぱり治安が悪いらしくて、日本人ってだけで、金持ってると思われるから危ないらしくて、そこら辺のホテルに居させるわけにはいかないから、セキュリティがしっかりしてるところっていうと、こういう高級マンションじゃないとないみたいだな」
「へえー、羨ましいな。僕、義肢装具士にならなかったら、田中さんところで雇ってもらおうかな」
俺は背後で手を縛られたまま、事務所みたいなところに案内され、椅子に座らされた。
俺は殺されるのか。そして、殺されるまで、こんな俺に関係ない話を聞かされるのか。
「おい!お前ら、いい加減にしろ!殺すなら、早く殺せ!」
頭の中では、頼むから助けてくださいと懇願している俺の姿があるのだが、あまりの恐怖のあまりに、自分でも信じられないが怒鳴っていた。
「うるせえ、テメエ!爆死させる前に、膝、折るぞ!」
スキンヘッドが怒鳴り返してきた。その直後、何が機械の塊が視界に入ってきた。
小さなプラスチックの箱の周りにいくつものコードが飛び出ていて、そこにデジタル時計みたいなものが取り付けてある。どう見たって、冗談みたいにわかりやすい時限爆弾だ。
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