第8話 雷の被害

 昨日の夕方から夜にかけて、俺が担当する地区の一帯では、いわゆる『ゲリラ豪雨』が発生していた。もちろん雷のオマケつきで。

 どうもかなりの大きさの雷が地面に落ちたらしく、一帯の電話回線やパソコン機器の不具合が一斉に上がってきていた。


 もちろんウチの部署も例に漏れず、夜が開けた頃から、異常信号が統括センターに入ってくるようになった。やはりそこは『腐っても精密機械』のようだ。

 俺が朝に出勤すると統括センターでは、出動要請と書かれた紙がテーブル一面に広げられ、とんでもなく慌ただしくなる事が予想されてウンザリしていた。


「おー。おはよう松本。今日は忙しいぞ。とりあえず上がってるだけでも7件、出動要請が来ている。とりあえず交通事故だけは起こさないようにして、現場に向かってくれ」

「へぇーい」

 ウンザリと気の無い返事をし、俺は担当地区の出動要請の紙をピックアップして、ファイルに入れる。工具を刺したベルトを腰に巻いて、統括センターから近い所から順に廻れるよう、出動要請書を順番に並べ替え、社用車のナビに登録する。


 んでは、真面目に勤労しますかね。





「お世話になっております、タカハシ電子サービスです。機器の不具合の信号を受け、参りました」

VR機器の電源のOFF・ONをしてリセット

異常が出てないか点検

「これで大丈夫です。やはり昨日の雷の影響でしょう。今回のは契約の範囲内のものですので、料金はかかりません。では、報告書にサインをフルネームで」


 地面を伝った雷の一部が、VR機器に影響を及ぼし、異常信号を出しているのだ。で、上記一連の流れだけで20分ほどかかる。それをあちらに行きこちらに行きして、操作して点検しているのだ。


 とにかくVR機器は雷に弱い。いくら雷の影響を弱めるクッションアダプターを噛ませていても、直撃の雷の近くであれば少なからず影響が出てしまう。それを復旧させるのも、俺の仕事なのだ。面倒極まりないのだが。







 5件目の個人宅を済ませた直後に、スマホが鳴る。統括センターからだ。画面をスライドさせて、電話に出る。

「お疲れ様ッス。松本です」

「お疲れさん松本。まだ残り2件あったと思うけど、こちらで連絡がついたよ。お客さんの方で復旧操作をしてくれて異常信号も止まったから、そっちの対応は無しに。帰ってきていいよ」

 統括センターからの思わぬ報告に、思わずこっそりとガッツポーズをする。

「んじゃあ、統括センターに戻りますね」

 嬉しさを言葉に滲ませないようにして返答し、電話を切ってポケットに戻し、俺は統括センターへの帰路に付いたのだった。


 帰り道、自販機のある道端に社用車を一時停止しハザードを点滅させて降り、財布から小銭を取り出して自販機に飲み込ませる。出てきたペットボトルのスポーツドリンクは良い具合に冷え、握る手に心地よいひんやり感を与えていた。


 キャップを捻って開け、中身を一気に煽る。ゲリラ豪雨の次の日だけあって、若干の蒸し暑さが身体を覆う。それを追い払うには最適の、冷えた飲料だった。






「さて、帰って報告書の整理か…。またこれも面倒くさいンだよなー」

 ボヤきつつも、一段落付いた仕事に充実感を覚え、またハンドルを握る。こんな仕事の時もあるのが、この現場の日常だ。





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る