第3話 最新式の機器

 そんな訳で、今日も勤労に勤しむ俺なのであった。しかし、今日は少々勝手が違っていた。


 いつものように統括センターから指示を受け、言われた住所の所に行ってみると…。

 なんだか無茶苦茶な豪邸が、目の前に建っていた。正確には、まだ門だが。

「お世話になっております、タカハシ電子サービスです」

 門のインターホンを押して来訪を告げると、自動的に門が左右に観音開きで開いたのだ。

 腰に工具を差し込んだベルトを巻いて門を入り、進む事数分。…いや、池の錦鯉が何匹いるんだよここ。それに綺麗に剪定された松が、堂々とそそり立っている。


 やっと入り口に到着すると、モーニングコートに身を包んだ執事さんらしき人が待っていた。

「お待ちしておりました、こちらで御座います」

 うやうやしく扉を開けると、荘厳華麗な教会のような内装に、正直かなりビビる。こんな所で仕事をするのか?

 そして通された一部屋には、棺のようなVR機器が鎮座していた。それは『TT-101 ver.3』、VR機器の中では最新式のヤツだ。


 VR機器は、大きく2つに分類される。ひとつは、視覚・聴覚など限定的な感覚器官だけを仮想空間に飛ばすタイプ。もうひとつが、半睡眠状態で感覚器官すべてを仮想空間に接続させ、いわゆる『ゴーストダイブ』をさせるタイプ。目の前にある最新式機器は、後者だ。


「ち、ちょっと失礼します…」

 執事さんにヘコヘコしながら、俺は急いで統括センターに電話をする。

「ちょっとー! TT-101 ver.3 って、俺は扱った事無ぇですよ! 研修もまだじゃねぇッスか」

 小声で執事さんに聞こえないように電話をすると、向こうの統括センターの同僚が平気な声で応答する。

「だーいじょうぶだって。仕様書は俺の所にある。指示通りに動いてくれれば、不具合も治るよ」

 まったく気楽に言うもんだ。現場の苦労も、ちっとはわかれや!


「それでは、修繕をお願い出来ますかな? パネルに赤いアラート表示が出てしまうのです。我々では手に負えないので、お願い致します」

 慇懃な物腰でこちらにお願いされる。ったく、仕方ないなぁ。

 パネルには、赤い表示で『1021 not Found』と出ている。その旨を統括センターに言うと、「緊急時予備バッテリーが無いって表示」だと言われる。要は予備バッテリー周辺の不具合って訳だ。

 しかし、予備バッテリーはしっかりコネクタに刺さってあるし、バッテリーの電力はあるから、そちらの不具合ではない…と。

 さて、どうしたものか(汗)。


 そうこうしているうちに30分も経過していた。それでも一向に進展が無い。バッテリー周りの配線を一本ずつ丁寧に調べたが異常無し。本体の電源をOFF・ONしてリセットしても変わらず。

 俺も統括センターもうんうん唸って八方塞がりになってしまった。で、救援を要請しようとしている時に、俺は一本の電源ケーブルに触れてしまった。その時に、妙な違和感を覚えた。手応えが軽いのだ。本体にはしっかりと刺さっている。しかし壁の方に目をやると…

「わかった、これだ!」


 電源ケーブルが、壁から抜けかかっていたのだ。本来ならちゃんとネジで止められている所を、足で引っ掻けたかなにかして、引き抜いてしまったのだろう。

 すぐに壁の穴を埋めてあるパネルをがし、そこにある電源ケーブルと大元の電源との接続箇所をあらわにさせ、ケーブルの中の銅線をきなおして、接続箇所へと繋げた。


 そうすると、アラート表示が出ていたパネルが緑に変わり、異常が解消された。やっとかー(汗)。






「手間取ってしまって申し訳ありませんでした。今回の対応は、サポートの範囲内ですので、料金はかかりません」

 いつもの定型文の終了報告を執事さんに済ませた。どうも持ち主が機器から出る時に、ケーブルに足先を引っ掛けて躓いたのを見たそうだ。それが原因らしい。

「では、報告書にサインをフルネームで」

 これで作業は終了となった。


 それにしても、最新式の機器を扱えないんじゃ、話にならないな。後で上司に文句を言って、研修をさせてもらわないと。

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