第3話 王都
それからの道のりと言えば打って変わって順調なものだった。いや、本来ならばこれが普通であるのだ。昨日はちょっと運が悪かっただけでそう悲観するべきものでもないのだ、うん。
「魔王復活の兆候は勘違いだった」という可能性に未だに一縷の望みを賭けているシャオは、自分にそう言い聞かせながらよく整備された街道を歩いていく。しばらくすると遠くに大きな門が開いているのが見えてきた。あの向こう側こそが王都である。
門から少し離れたところで立ち止まり、上を見上げる。それは自分の背の二倍ぐらいの高さがあった。門なんてせいぜい目の高さくらいの、家の前に何となく置かれているようなものしか見たことがない。こんな大きなもの、どうやって閉じるのだろうか。
深くて深いため息をついてから視線を下ろし、また歩き出す。門兵はいるにはいるが、シャオを一瞥するだけで何か言うようなことはなかった。これは既にシャオの存在が知られているというわけではなく、こんなに日が高い時間帯にまっすぐ街道を歩いてくるようなものが魔獣であるはずが無い、という認識に因るものだった。
もちろん夜には灯人が火を入れた道であろうとも万が一をの可能性を拭い去れるのもではない。だから夜間は門を閉めているものだとシャオは聞いていたし、無理に歩くこともしなかったのだ。
門を潜ったシャオはまず人の多さに驚いた。次には建物の多さに驚いた。そうしてようやく多くのざわめきが耳に入り、その雑多さと大きさに驚いた。どれもこれも村では見たこと聞いたこと無いものだらけだ。
この中を歩いていくのかと思うとどうにも気後れする気持ちが頭をもたげてきてしまう。こんなにたくさんの人がいる中を歩いていくことなんてできるのだろうか。村を挙げての祭の日にだってこんな風にはならない───
そこまで考えてシャオは勢いよく頭を振った。せっかく王都まで来ているのにこんなところで怖気付いていたら土産話の種にもならないじゃないか。後ろめたくなく話せるものが何一つ無いようでは面白くない。勇者云々は別として、あいつらに得意気に話せるくらいの体験はしておかなくてはいけない!
シャオは頬を軽く叩いてからゆっくりと一歩を踏み出し、歩き出す。そうしてみれば分かりやすく人の流れができていることにすぐに気がついて、少なからずホッとした。このまま流れに逆らわずに歩いていけばその内に王様のところに辿り着くことができるだろう。そう、王様のところに……
シャオはハッとなった。そうだ、王様だ。王様はどこにいるんだ。このまま流れに乗っていては駄目なんじゃないか。だってこんなにたくさんの人がいっぺんに王様に会いに行くだなんてあるわけがない!
思わず立ち止まって、その瞬間に誰かとぶつかってよろけて、よろけたついでに道の端を目指してまたぶつかって。そんなこんなで何とか人の流れから抜け出したところで思わず大きなため息が一つ、こぼれる。そうして付近を見回して───ひときわ大きな建物を見つけて思わず指さした。おとぎ話に出てきそうな宮殿だ。おとぎ話も現実を元にしている部分があったのだ、というのは思わぬ収穫だった。こんなところで役に立つなんて!
よし、と頷いてそちらに向かおうとする。が、上手くいかない。どうにも人の流れに流される。掻き分けて横切ろうとしてもやっぱり流される。どうにもこうにも上手く進めない。
三歩進んでは二歩戻るぐらいの効率の悪さで流されつつもなんとか少しずつ少しずつ横切って、たっぷり20分はかけたろうか。ようやく王様がいるだろう宮殿、つまりは王宮に辿り着いたのだった。
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