第14話 タリムとサリナ
マルコが酒場で酒を注文した頃、エリーはカフェでコーヒーを注文していた。
「すみませーん!コーヒーを下さい!」
「はーい。少々お待ちください。」
眼鏡を掛けた若い男が注文を受け女主人へと注文を通した。店はあまり混んで居なかった為、エリーはとりあえず男に話しかけてみることにした。
「ねぇねぇお兄さん、バハムールって素敵な街ね!」
「あ、あぁ。ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。だけど、本当に素敵な国だったらどんなに良いことか。」
「どう言う意味?」
「確かに太陽の輝きも、街並みも、人々も僕は大好きさ!だけど、この国は大きな闇を抱えてる。ま、こんな事君に言っても仕方ないよね。」
男は意味深な発言をした。エリーは疑問を続けようとするが、その時女主人から声がかかる。
「おい!半端者!コーヒー出来たよ!さっさと持ってお行き!」
「わ、分かりました!すぐに!」
男はオドオドしながら返事をしてコーヒーを持って再びエリーの下へ来た。
(半端者なんて酷いなぁ。私だったら怒っちゃうけどなぁ。)
「コーヒーをお持ちしました。」
「ありがと。あんまりオドオドしてるとカッコ悪いよ!だから半端者なんて言われるのよ!もっと胸張らなきゃ!」
「そ、そうですよね。いつもオーナーにも言われるんですけど……。」
またオドオドし始めた男にエリーは少し呆れるが、まぁこういう人もいるかと気にしない事にした。
「ところで君、竜人族なの?」
「一応竜人族です。ハーフなんですよ。僕自身でも何のハーフかは分からないんですけどね。」
竜人族は緑の目、竜のように少し長い口、全身を覆う鱗が特徴なのに対し、男は茶色い目に人間の様な顔立ち、鱗も袖から見える腕には生えていたが、首から上には生えていないようだった。
「そ、それでいじめ受けて半端者とか言われてるんじゃないでしょうね?」
ドラグニルから聞いた『他種族との交わりを嫌悪する』という話を思い出し思わず聞いた。
「それは違いますよ!オーナーはそんな人じゃないです!あの人はただ口が悪いだけで、行く当てのない僕を住み込みで雇ってくれてる良い人なんです。まぁ昔は僕みたいのは認められなかったみたいなんですけどね。今は大丈夫みたいです。」
「そうなんだ。良かった。」
(どうやら時代と共に国民感情は変化してるみたいね。)
「それでは僕は仕事がありますので。何かありましたらお呼び下さい。」
「うん。呼び止めちゃってゴメンね!」
(どうしよう。話聞く人居なくなっちゃった。このままじゃマルコに怒られちゃうなぁ。)
コーヒーを啜りながら店を見渡すと客は他に2組程度。空いているのでまた、男に話を聞きたいが、さっきの今でまた呼び止めるのは気が引けた。
暇なので男の様子を見てみると、他の客に水を持って行こうとしていた。
その時だった。男は椅子につまづきよろめきエリーの方に突っ込んでくる。
「おっとっと!あ!避けて!」
エリーはボーッと見ていたせいか一瞬反応が遅れた。
「え!嘘!ちょっと!!」
大きな音を立てて2人は衝突し、エリーは椅子から転げ落ちた。
「何してんのよ!ビチョビチョじゃない!もー!」
エリーは文句を言いながら顔を上げると男がポカンと口を開けこちらを見ていた。不審に思い周りを見渡すとみんなしてエリーを目を見開いて見つめていた。
「なによ……そんな変な事言ったかしら……。」
ふと目線を落とすと足元に黒い角が転がっていた。
(まさか!)
頭に手を当てると偽装用の角が取れていた。
「ヤバッ!!!!」
エリーがそう声を上げると同時に客達が騒ぎ出した。
「人間だ!しかも剣を持ってるぞ!早く通報を!!」
「何をするか分からんぞ!とにかく逃げるぞ!!」
エリーは必死に周りの人々を説得しようと声を上げる。
「待って!何もしないわ!大丈夫だから!落ち着いて!」
「みんな近付くんじゃないぞ!衛兵はまだか!」
「聞いてってば!私はむやみに傷付けたりは……。」
「騒がしいが何事だ!?」
戸を開け青い鎧を着た竜人族が入ってきた。
「人間です!早く何とかして!」
「何!?貴様っ!動くんじゃないぞ!」
「待ってって!んもう!!」
エリーは窓を破って飛び出し店から逃げ出したが、大通りのため外は竜人だらけ。
エリーを見るなり街の人々は声を荒げる。
「人間だぞ!!」
「何しに来やがった!?」
「まだ生き残っていやがったか!」
(人間ってよっぽど嫌われてるのね……てか、生き残って?)
投げつけられた言葉に疑問を感じながらも、立ち止まる事は出来ずひたすら走る。兵の数もどんどん増えて気付けば大所帯を引き連れて走っていた。
「ヤバいヤバいヤバい!!なんでこうなるのよーー!!」
路地裏に駆け込むが、行き止まりになっていた。
「嘘!!」
「もう逃げ場は無いぞ!」
エリーは立ち止まり両手を挙げ兵士達の方へ振り返る。
「降参です……。」
「はぁはぁ……人間にしては足が速かったじゃ無いか……。よーし。動くなよ〜。」
階級が高いのだろうか、赤い鎧を着た兵士が槍を向けながらゆっくり近付いて来る。
「何もしないってば!」
「黙れ!人間など信用できるか!」
エリーはされるがままに押し倒され、手錠をかけられた。
「痛いなぁ!乱暴しないでよ!」
「これから連行する。暴れるんじゃないぞ。」
「はいはい。連れてって下さいな。」
「生意気な人間だ。さて、ここはもう俺1人でいい。他の者は持ち場へ戻れ。」
赤い鎧の兵士はエリーを紐で縛ると、他の兵士達を解散させた。
「よし行くぞ!だらだら歩くんじゃないぞ!」
兵士はエリーに繋がれた紐を引っ張りながら歩き始めた。
(あ〜あ〜。捕まっちゃった〜。どうなっちゃうのかな〜。)
捕まってしまったにも関わらず『何となく大丈夫』そんな気がして平静でいられた。
「ねぇ、兵隊さん。あなたのお名前は何でいうの?」
「……。」
「ねぇってば!」
エリーが声を荒げると兵士は歩きながら嫌そうに顔を向けて来た。
「名前などどうでも良いだろう!自分の立場分かってるのか?お前みたいな人間は初めてだ!静かにしておけ。」
「分かってるけどさ〜。一期一会って言うじゃない?せっかく出会ったんだし知りたいな〜って。悪い人に見えないし!」
「それをお前が言うのか……。変な奴だ。」
「で?名前は?」
「……タリム呼べ。」
「タリムね!了解!そう言えば私はエリーって言うの。呼び捨てで良いよ!」
タリムは呆れた顔をし、いきなり紐を引っ張りエリーを側に引き寄せた。
「ちょ!急に引っ張んないでよ!危ないでしょ!」
「すまんな。俺個人としては人間はそこまで嫌いじゃない。本当はこんな扱いをしたくは無いんだ。許してくれ。」
タリムは声を潜めそう言うと、言葉を続けた。
「俺のただの直感だが、お前は悪い奴では無さそうだ。出来る限りの直訴はしてやるよ。」
「別にいいよ!そこまでしなくても。」
「お前はサリナ様に近い雰囲気を感じる。何とかしてやりたいんだ。」
(サリナ様?どっかで聞いたような……。)
そこでドラグニルから聞いた話を思い出した。
「あ!サリナってあの国王と結婚した人間ってあの?」
「あぁ、そのサリナ様さ。もっとお淑やかでおっとりした方だったがな。」
「ほっとけっての!知り合いだったの?こっそり子供育ててたって聞いたけど。」
「俺の親父が城の庭師をしていてよく一緒に城まで行ってたんだよ。ある時親父の目を盗んで城に忍び込んで行ったら、サリナ様に出くわしちまってな。それ以来良く遊んで貰ったりしてたのさ。」
タリムはサリナとの思い出を懐かしそうに話し、潤んだ瞳を手で拭った。
「本当に仲が良かったのね……。」
「平和を願う素晴らしい人だったよ。」
「何でそんな人が殺されなきゃいけなかったの?」
「人間だったからさ。ただそれだけだよ。」
(人間ってやっぱり嫌われてるのね……。でもタリムとサリナさんの様に分かり合えることが出来るよね……。)
もっとその時の事を質問したかったが、タリムの悔しそうに歪む横顔を見て聞くことを躊躇った。
「そろそろ城に着くぞ。覚悟しておけ。」
「うん。分かった。」
エリーはタリムの話を聞く中で覚悟を決めた。捕まって刑罰を受ける覚悟では無く、自分の理想の為に竜人族と『人間として』向き合おうという覚悟だった。
目の前に見えてきた大きく立派な城が、エリーには乗り越えるべき大きな山に見えていた。
ピースフラワー 花山パンダ @amesp
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ピースフラワーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます