第6話 鍵
(眠れない……。)
エリーは疲れに反して寝付けずにいた。
原因はその日の夜にあった。
初めての本格的な修行で疲れ果てたエリーはその場で気絶するように眠りについたが、家に着いた辺りで実は目が覚めていた。
(なんかこの背中落ち着くな。もうちょっとここに居たい。)
そしてベッドに運ばれた頃、そろそろ起きようかとも思ったが、ある悪戯を思いついてしまった。
(いきなり飛び起きてビックリさせてやろ〜と!どんな顔するんだろ〜な〜。よ〜しそろそろ……。)
「黙っていれば可愛らしいんだがな。」
(!?)
可愛いなんて身内以外に言われた事が無かった。
テンパり思考停止。
マルコが部屋から出て行くと体を起こし撫でられた頭を触りながらニヤける。
(可愛いだって〜!!でも黙ってればってどういう事?ま、いっか!マルコったら私に惚れてたりして〜!)
恋愛耐性が無いエリーは少し褒められただけで舞い上がっていた。
その後、晩御飯を食べながら修行の反省をした。その時は流石に冷静に反省に没頭出来たが、お風呂に入っている内にまたマルコの言葉が頭に浮かんで来た。
(確かにマルコはカッコいいけど魔人だしな〜。いや!そんなこと言ってたら私の理想の世界は作れない!つか、そもそもまだ会って一日じゃマルコの事よく分からないし……。てかまだ告られた訳じゃないし!)
自分の気付かない内にどんどん考えが飛躍して行っていた。
頭の中で考えを巡らせているうちに気付いたらお風呂を上がって着替え終わっていた。
「はぁ……とりあえず寝よ。」
マルコに目を合わせないよう軽く挨拶してベッドに横になる。
「明日午前中にまた村回るんだっけ。これってデート!?いや、そんな事ないか。つか私は修行の為にここにいるんであってそんな浮いた話はいらん!」
自分に言い聞かせ心を落ち着かせる。
(でもちょっと嬉しかったな。男の人に可愛いって言われたのなんて初めて!)
また少しニヤける。そこでふと思い出した。
(そういえばお風呂で脱いだ服どうしたっけ?ボーッとして脱ぎ散らかしちゃってるかも。ちょっと見に行こ)
部屋を出ると、まだ脱衣場の扉が開いたままになっているのが目に入った。
「良かった、まだマルコ入ってないんだ!」
が、脱衣場に入ろうとすると私のパンツ片手に何か考えているマルコがいた。
(いるじゃん!!ん?アレって私の……パンツ!?)
顔が真っ赤になるのを感じ、これまで考えていた事など頭から吹っ飛んだ。
その時、急にマルコは何かを決意した顔をしてパンツを広げようとし出した。
ブチッ
恥ずかしさの限界が来て何かが切れる音がした。
「おい、お前何してんだ?」
その後は皆さんのご存知の通り。
私は部屋に駆け込みベッドに潜り込んだ。
「み〜ら〜れ〜た〜!!何を?パンツを!!ぎゃーーーー!!」
枕を口に押し当て叫ぶ。
「なんだアイツなんだアイツ!!ロマンてなんだ!!父ちゃんにも見られた事ないのに〜!もしかして、私のことが好きだからついつい広げちゃったとか?アホか!!」
一人でツッコミをいれつつひと通り暴走し終える。
「ふぅ……。でも死ねは言い過ぎだったかなぁ。傷付いたかなぁ。でも私のパンツを。でも……でも……でも……」
チュンチュン
気付けば朝になっていた。完全なる寝不足である。
「ヤバい。マルコの事考えてる場合じゃなかった。こんな状態で修行したら間違い無く死ぬ……。まぁとりあえず朝ご飯作らなきゃ。」
別に約束した訳じゃないが、ご飯を作るのは私の役目だと思っていた。居候してるんだからこのくらいはしなくてはいけないと思うから。
「おう!おはよう。今日は俺が作っといたぞ。」
マルコが朝食の準備を済ませて待っていた。
思わず顔をそらしてしまった。
(うわっ!もういる!何で向こうは普通の顔してられるの!?)
朝食のトーストを食べながらマルコの様子を伺う。何やらそわそわしたかと思えば覚悟を決めた顔をし急にこちらを向いた。
「なっ何よ?」
「昨日は悪かったな。あまりにも長く女っ気が無かったもんで暴走してしまったみたいだ。申し訳ない。」
真っ直ぐな目でドストレートに謝って来た。
(え。そんな真面目に謝って……パンツの事を……プッ!)
「くっ!あははははは!なんかもういいよ!馬鹿らしくなって来ちゃった!はーぁ。マルコって実はバカでしょ?」
「なに!?人が真面目に謝っているのに!バカとは!ま、まぁ今回は俺に非がある訳だからな。怒らんでおこう。」
(考えたらパンツ一枚で何を恥ずかしがってたんだろう!)
まだ会って2日くらいなのにもう長い事一緒にいるみたいだ。
「なんか笑ったら眠くなっちゃった。軽く寝たら勝手に村回るから、マルコ先出てていいよ。」
「分かった。12時頃には帰ってくる。迷子にはなるなよ。」
「はいはい、お休み〜。」
今度はグッスリ眠れた。
眼が覚めると時計は既に11時を回っている。5時間は眠ることが出来、体の疲れも充分取れている。
今思うと、昨日の晩ご飯とお風呂の薬湯が随分効果があったのかもしれない。
マルコが帰ってきたらお礼を言わなくては。
村を見て回るには時間があまり無かった。
暇つぶしに掃除をすることにした。
「見た感じマルコってあんまり自分で掃除し無さそうだしホコリとか溜まってそうだな〜。」
掃除道具の場所は聞いてあったため、モップを持ってきてとりあえずリビングを掃除してみる。
「思ったより綺麗だ……意外とマメなタイプなのかな?んー。マルコの部屋行ってみよー!」
いざマルコの部屋に入ろうとするとドキドキしてくる。
(あー!もうなんでこんなドキドキするのよ!)
思い切ってマルコの部屋に入ると、父親の鎧と剣が目に入った。
「そうだ。早く強くなって父ちゃん探しに行かないと……。」
鎧を磨きながら、自分の父親に思いを馳せた。
ふと隣の棚に目を移すと錆だらけの古びた鍵が目に入った。何か不思議な魔力を感じ思わず手に取って見てみる。
「なんの鍵だろ?古さ的にこの家のじゃないわよね。それになんなのこれ?ツノの生えた髑髏?趣味の悪い模様ね。」
「帰ったぞ。いるのか?」
扉の音と共にマルコの声が聞こえてきた。
私は思わず手に持っていた鍵をズボンのポケットにしまった。
「おい。俺の部屋で何してる。」
「と、父ちゃんの鎧をちょっと見たくなってさ!」
あの鍵が何なのか聞きたかったが、何となく聞いてはいけない様な気がして聞くことが出来なかった。それに、鍵を思わず取ってしまった後ろめたさもあった。
「あぁ、丁度その鎧をお前の部屋に持ってってやろうかと考えていた。持って行って良いぞ。」
「う、うん。ありがと!後で持って行くよ!とりあえずご飯作ってくるね!」
「すまないな。頼む。鎧は俺が運んでおいてやる。それより飯食ったら修行だからな、消化の良いものにしておけ。」
「はいよー!」
その日の修行も立たなくなるくらいにボコボコにされ、マルコの背中で帰路に着く。
だが、昨日とは違いグッスリと眠りにつくことが出来た。
マルコの部屋で拾った鍵はというと、いつか返そうと思い、無くさないように父ちゃんの鎧にしまっておいた。
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