第5話 激怒
「さて、ピースフラワーを植えるか。お前も手伝え。」
「分かってるよ〜。」
俺らは家着くと早々にピースフラワーの苗木を植えることにした。
「そういえばさ、桜って咲かせるの凄い時間かかるんだけどコレってどうなんだろ?」
「さぁな。でもサルメは割りかし早く育つし花も咲く。簡単な植物の代表格だ。そんな時間はかからんだろう。」
「そっか。私がいる間に咲くかなぁ。」
「それはどうだろうな。それに咲かなくても、世界を平和にしたらまたここに来れば良い話だ。」
「そうだね!そしたらまた逢いに来るよ!マルコとピースフラワーに!」
「まったく、気の早い奴だ。昨日ウチに来たばかりだろう。」
そんな話をしながら裏庭に植えた。どんな花が咲くのか俺も待ち遠しくなっていた。
「さて、昼飯にするか。」
「はーい!私作るー!」
やっぱりコイツの作る飯は美味い。
腹ごしらえを済ませ、ようやく今日の修行に入る事にした。
「いいか、今日から本格的にシゴク事にする。昨日見た感じ中々打たれ強くはあるし、受け方も上手い。だが、まだ人間兵レベルでの話だ。避けろ、鍛えろ、やられる前にやれ。」
「はい!で、何をするの?」
「俺と戦って貰う。勿論手は抜くが、容赦はしない。晩飯までぶっ通しで行くぞ。死ぬ気で来い。」
「昨日と一緒じゃんか〜。もっと戦い方とか技とか教えてよ。」
「戦いの中で教えてやる。始めるぞ。」
俺は一気に距離を詰め腹を殴り飛ばす。
「ちょっ!ぐふぅっ!」
「何をしている。早くたって構えろ。お前からかかって来てもいいんだぞ。」
「はぁはぁ。クソォォ!!」
エリーが斬りかかるが軽く避け蹴りを入れる。
「こんなもん?はぁっ!」
「なかなかタフじゃないか。だが、まだまだこれからだ。」
斬りかかる避ける殴る、斬りかかる避ける殴る。
その繰り返し。
2時間後。
「たぁぁ!グフッ。まだまだぁ!ゲフッ。うわぁぁぁ!ツッッ!」
気付けばエリーは体力が尽きて来たのか、膝をついた。だが、上手くダメージを受け流していたのか、思ったほどダメージを受けていないようだった。
「やはり中々良い目をしている。だが、俺がもっと力を出したら受けきれないぞ。打たれ強いに越したことは無いが過信するな。避けろ。」
「はぁっはぁっはぁっ!」
エリーは大分息が上がっており、膝をついたままマルコの話を聞いていた。
「……早く立て。もう終わりか?その程度の根性では共存の実現など、世界平和など無理だな。やる気が無いならとっとと国へ帰った方が良い。」
「立つよ!今っ!」
(ほう、中々根性のある女だ。それに手加減しているとはいえ、上手く急所を外しダメージを最小限にしている。センスは良いのかもな。)
「マ…マルコ、やる気ないのは…あんたじゃないの?なんで…私の顔を…殴らないのさ?容赦…しないんじゃ…ないの?」
エリーは息も絶え絶えに俺に言ってきた。
(何?確かに殴っていないが、それはたまたまだろう。)
「言うじゃないか。それならば遠慮せず行かせて貰う!」
虫の息のエリーの顔に拳をぶつけようとする。が、エリーの顔を見ると気持ちがブレる、この顔を傷付けたく無いと体が拒否している。
ボコッ
中途半端な力で中途半端に当たった。直前でブレーキをかけてしまったようだ。
(何故だ。俺はどうしてしまったんだ!?コイツの顔を見ると拳が鈍る。)
その様子を見たエリーが吠えた。
「あんた、さっきから私の顔を見ないように攻撃してたろ。そんな攻撃いくら食らっても受け流せる!昨日は思いっきり殴って来てたくせに急に女扱いするなよ!こっちは真剣にやってんだ!」
午前中のエリーの顔とは大違いだ、気迫、覚悟が違う。
(俺が遠慮していた?バカな。まぁいずれにせよ言っている事は正しいかもな。少々生意気過ぎる気もするが、この気迫に答えてやるべきか。)
「すまなかった。これからは本当に容赦はせん。」
目を瞑り大きく深呼吸をした。己の気持ちを切り替える。
「行くぞ。こっからが本番だ。」
「おう!」
7時間後。
「まだ…まだ……。」
「もう立たなくて良い。時間だ。」
「終わ…り…?」
エリーはそう言うとその場に倒れた。
「ごめん、もう流石に動けないや。連れてってちょーだい。」
「おぅ。よく頑張ったな。ただ明日からも手は緩めんぞ。」
「勿論。よろしく……。」
エリーはその場でぐっすりと眠りについた。
「ったく、まだまだだな。結局俺には一発も当てられなかった上、何十回と気絶していたな。だがまぁ、根性はある。」
エリーを背負うとその華奢で軽い体に驚く。
(こんな女が世界の平和を託されるとはな。確かに早く争いの無い平和な世の中を作った方が良いのかもしれんな。フッこの俺が戦争を憂い、勇者を鍛えるか。ベルゼが見たら卒倒するな。)
家に着き、ベッドに寝かせる。
そして改めて殴られ腫れたエリーの顔を見つめ、泥だらけになった顔を拭く。
何故最初拳が鈍ったのかを改めて考えてみた。
(何故だったんだ?あれは。殴るたびに心が痛み、不快だった。女だから?いや、俺はそんな甘い男では無かったはずだ。)
エリーの金色の髪を優しく撫でる。
「こうして黙って寝ていれば可愛らしいんだがな。さてと。」
エリーを寝かせている内に晩御飯の準備をする。体力回復と筋力がより付くよう栄養に気を付けながら。
(コイツの覚悟は本物だった。人間と魔族の差のない世界、共存する世界か。実現するとしたら見てみたいものだ。)
料理が完成し、起こしに行こうとすると既に体を起こしていた。
「おう!起きていたか!ちょうど飯が出来たところだ。自分で歩けるか?」
「え、あっうん!だ、大丈夫!ありがとう。」
エリーはそう言ったがベッドから降りた途端転倒してしまった。
「おいおい。まぁ無理も無い。アレだけ無理をしたのだ。ほら、運ぶぞ。」
リビングへ連れて行く為エリーを抱え上げた。
「ひゃっ!ちょっちょっと!!」
「どうした?アレだけ俺に運ばれて置いて何を恥じることがある。ん?顔が赤いぞ、熱でもあるのか?」
「うるさい!連れてくなら早く連れてけ!そしてさっさと下ろせ!」
「はいはい。」
晩飯では食べながら今日の修行の反省を行なった。
聞けば2年修行してから国を出たらしいが、実戦経験が乏しかったのだろう、エリーへの注意点は幾らでもあった。
そして彼女は全て吸収して強くなってやろうという気概がある。
人に戦い方を教えるのは初めてだが、中々やり甲斐があるものだった。
「明日はどうする? 俺は午前中、村へ出るつもりだが、お前は寝てても良いぞ。午後はまた辛いことになるだろうからな。」
「いや、私も行くよ! 将来目指す世界の為にこの村の在り方をちょっとでも見ておきたいんだ。」
「分かった。早めに寝て体力を回復させておけよ。」
「分かってるって!じゃお風呂入ってきま〜す。」
エリーはフラフラしながらお風呂に行った。
「洗い物でもするか。」
食器を片付け洗う。ついでに水回りも綺麗に掃除。
時間が開くとついつい掃除してしまうのだ。
ガチャ
「お風呂空いたよー。じゃ私寝るね。お休み〜。」
「あぁ、お休み。」
エリーが部屋へ引っ込んだ。
「さて、俺も風呂入って寝るか。」
脱衣場に入るとエリーの服が脱ぎ散らかしてある。
(まぁ疲れてたみたいだし仕方ねぇか。)
散らかった服を片付けていると服の中から真っ白、かつ神々しい布地がこぼれ落ちて来た。
「こっこれは!?パッパンッ!?」
必死に冷静さを取り戻す。
(落ち着け!落ち着け。たかだかパンツに興奮する歳でも無いだろうに。いや!何歳になろうともラッキースケベは永遠の男のロマン(?)という説もある。そうさ。男なら当たり前だ!男なら振り切るべし。)
齢195歳の元魔王は下着を片手に脳内議論の末、己のプライドを捨て本能に従う事にした。
さぁ、広げるぞ……!
「おい。お前なにしてんだ?」
後ろから声が聞こえる。
恐る恐る振り返ると鬼の形相でエリーが立っていた。
ドアを閉め忘れるという初歩的な失敗をしていたようだ。やはりパンツは男を狂わせる魔力を持っている。
「何してんだって聞いてんだけど?」
「ロマンを追い求めていた。」
エリーは俺が持っていたパンツを勢いよくぶん取り俺を睨みつける。
「死ね。」
バタンッ!
「……今日はアイツの色んな顔を見る日だなぁ。明日どうしよ。」
俺は熱いシャワーを浴びた。
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