第3話 謝罪
(なんなんだこの女は、急に泣き止んだと思ったらこっちを見て動かないぞ……。)
女はピタリと泣き止むとマルコを見つめて微動だにしなくなった。
「おい、女。何か言いたいことがあるなら言ってみろ。」
「女じゃないです。エリー・カステア。エリーと呼んでください。あなたの名前は?」
「お、おう。俺はマルコだ。」
エリーは真っ直ぐコチラを見つめ真剣な表情で喋り出した。
「マルコさん。お願いがあります!あのですね……。」
「断る」
「まだ何も言ってないじゃ無いですか!?」
「言わんでも良い。どんな願いだろうと聞く気は無い。元気になったなら早く出て行ってくれ。」
「嫌です。お願いを聞いてくれるまでここを動きません。」
「はぁ……。なんだ。とりあえず言ってみろ。」
相変わらず真っ直ぐな目でコチラを見ている。
(こんな目どっかで見たことがあるな。そうだ、確かベルゼが俺の配下になりに来た時も……まさか!?)
「私を弟子にして下さい!」
「やっぱりか!!」
「やっぱり?」
「いや、何でもない。無理だ!そんな事良いと言う訳が無いだろう!そもそもお前はなんなんだ?なぜ強くなりたい?」
ずっと思っていた疑問を口にした。こんな所に人間がなにをしに来たのか理解がまだ出来ていなかった。
「私勇者なんです。」
「は!?お前が!?」
予想外の返答に驚きを隠せなかった。昔一度勇者という奴と対峙したことがあったが、こんなチンチクリンでは無かった。
「はい。これが証拠っす」
横に置いてあった剣を俺の前に差し出す。
「あ!あの剣どっかで見たと思ったら!宝剣ディケーか!」
何故忘れて居たのだろう。何十年前の事か曖昧だが、この胸の十字傷を付けたのがこの宝剣ディケーを手にした当時の勇者だった。
「あ、これ周りの人には内緒にして下さいね!魔王の近親者が居ないとも限りませんから!」
(俺は元魔王なんだけどな……。)
「分かったよ。でもまぁこの村には居ないと思うから安心しろ。で?勇者のクセに弱いからこの俺に特訓してくれと?」
「その通り!話が早くて助かります〜。」
「俺は魔人だそ?勇者が魔人に弟子入りなど聞いた事もない。」
「私は魔族と人類の共存を目指しているんです。まさに共存が実現出来ているこの村に住むマルコなら信頼出来ます!」
(魔族と人間の共存だと?馬鹿なのかコイツは。)
「お前、そんな事本当に出来ると思っているのか?魔族は人間を憎み、人間は魔族を憎んでいるこの世界で。この村は特殊な成り立ちなだけだ。おめでたい奴め。」
俺がそう厳しく言うと、エリーは少し寂しそうな顔をし、重々しく口を開いた。
「前の勇者だった父ちゃんに託されてるんです。一年半前くらいから魔界で行方が分からなくなった父ちゃんの。私は意思を継ぎたい!そして何より私もそんな世界を望んで……。」
突然エリーは黙り壁に飾っていた鎧と剣を見つめ目を見開いた。
「アレは……。」
「あぁアレか、素晴らしい装飾の鎧と剣だろう!一年ちょい前くらいに人間から……。」
「父ちゃんのだ!!アレをどこで!?」
「え??あ、あぁ道端で拾ったんだ。どこだったかな〜?」
(あの身包み剥いだ一団は元勇者たちだったのか!魔王を引退した身で知らぬ間に勇者を二人も倒していたとは……。)
「そんな、鎧も剣も無いんじゃもう父ちゃんは……。」
「す、すまん。」
「なんで謝るんですか?」
「いや、何でもない。それより死んだと決まったわけでは無いだろう!探せば見つかるさ!その為にも強くならなくてはな。」
「え?」
「しばらく面倒見てやる。そんだけ泣かれたら放ってもおけんしな。」
(まぁ、ちょっとくらいならいいだろう。なんか悪い気して来たし。)
「本当ですか!?やった!!!よろしくお願いします!師匠!」
「おう。」
師匠と呼ばれるのもまんざらでも無い。
「で?私の部屋はどうすればいいですか?あっちの部屋空いてそうですね。」
「貴様ここに住む気か!?」
「ええ。他に住むとこないし。弟子が近くにいた方が何かと便利でしょ?じゃあ掃除して来ますね〜!」
ベッドから跳ね起き空き部屋へ走って行ってしまった。
「ちょ!おい!なんて事だ、ようやく見つけた安住の地が……よりにもよって勇者だと……。」
エリーがドアから顔を覗かせる。
「ちょっと休憩したら早速特訓始めますからね〜。準備しといてください!」
「なぜお前主導なんだ?まぁ良い。ほっといて畑行こ。」
変なのに絡まれたせいで出来ていなかった畑仕事をしに畑へ向かった。
アイツが起きるのを待っている内にもう日が暮れてしまっていたが、これから畑の野菜が俺を待ってると思うと気持ちがリフレッシュされる。
が、畑に着いて思い出す。あのバカに食い荒らされていた事を。
涙が出てきた。
(こうなったら死ぬほどシゴいてやる。いや、死んでも構わん。俺に弟子入りした事を後悔させてやるさ。)
「フフフフ。アッハッハッハッハ!!」
ストレスのせいなのだろうか、久しぶりに魔王らしい笑い方をしていた。
「何が可笑しいんすか?」
「わぁ!!突然現れるな!!」
「それを言うなら突然いなくならないで下さいよ。探したじゃないすか。キモい笑いのお陰で見つかったけど。」
「キモっ!お、お前っ」
「お前じゃなくてエリーです。さて!やりますか!」
エリーが剣を構えて待っている。
「はぁ……。」
今日はため息が良く出る日だ。
「ところでお前、魔法は何が使えるんだ?」
「魔法ですか?私使えないんですよ。生まれつき。」
「は?人間は生まれつきそれぞれ固有の魔法を身に宿していると聞くが?」
「いや〜それが無いっぽいんですよ私。小さい頃から色々試したけど何も無くて。でも運動神経はいいっすよ!」
(こんな勇者がいていいのか!?大丈夫か宝剣ディケーよ!)
元魔王ながら人類が心配になってきた。
「よし、じゃあとりあえずお前の実力が見たい。遠慮せずかかって来い。」
「たぁあああああああ!」
その時エリーの足元に食い散らかされずに生き残っていたかぼちゃが目に入った。
「おい!!待て!!!」
「え?」
ぐしゃあ!!
見事に踏み抜かれたかぼちゃが飛び散る。
俺の拳が飛ぶ。
エリーの顔にめり込む。
「ぶぇ!」
エリーは吹っ飛んでいった。
「しまった……つい……大丈夫か!?」
マルコが駆け寄るとエリーがゆっくり体を起こした。
「ふっふっふ。一度食らった攻撃でそう何度も……。」
途中まで言いかけそのままエリーは地面にうつ伏せに倒れてしまった。
(力が入りすぎてしまった……だが、人間がアレをまともに食らって無事とはな。確かにただの人間では無さそうだ。)
「だが、これでは修行にならんな。起こすか。」
バケツで水をぶっかけてエリーを起こす。
「ぱぁっ!はっ!私は一体!?」
「良いから体を起こせ手加減してやるからかかって来い。」
「あ、は、はい!」
30分後。
またエリーは気絶していた。
「やり過ぎたか……加減したんだがな。」
本日3度目の勇者ノックアウト。もう一度起こすか悩んだが、もう夜も遅い。俺はエリーを担いで家まで帰りベッドへ寝かした。
「この程度で魔王城に行く気だったとは。先が思いやられるな……。」
エリーを寝かせたまま一人で飯を食い風呂に入る。気付けば12時を回っていた。
「俺ももう寝るとするか。」
寝ようとしたその時エリーがドアから腫れた顔を覗かせて来た。
「今日はありがとうございました!明日から家事は全部私に任せてください!お休みなさーい。」
エリーは部屋へ引っ込んで行った。
「はぁ……。寝よ。」
妙に疲れていたのかその日はよく眠れた。
こうして元魔王と現役勇者の奇妙な共同生活が始まった。
この奇妙な出会いが世界に大きな変化をもたらす事になるが、それはまだ少し先の話である。
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