四品目『人気トラットリアの過去』(5)
それから料理長とは世界中を渡り歩き、料理長にも私に匹敵する程の調理の腕を磨いていただいたわけです。
楽しかったですよ、あちこちに行きました。寒い所も暑い所も、変な民族の集落から各地の自然公園、大都会から一転して貧民街に住んでいたこともありました。
そして二人で行きついた先がイタリアだったのです。
この店を開いたのが四年前、それまでの六年間で一番長く滞在した国だと思います。
「へぇ、料理長とは長い付き合いだって聞いてましたけど。そんなに長い事一緒に旅してたんすね」
ええ。二人共、そこで大変な調理修行をしました。
私はその頃もう、高速解体はできましたし、調理のノウハウは一式日本に居た時、学生時代に修めていました。ですが料理長は違います。なにせ地球外生命体ですからね。『獲物は狩って食う』、と言う思考を改めさせるために私はもっと修行しました。
結果的に『生で食べるより、調理した方が美味しい』と解っていただくまでに三年ほど要しました。
私の腕もまだまだだったのですね。ですが、それに目覚めた料理長が調理過程を吸収するのは私よりも早かったかも知れません、
今でこそ、このトラットリアの料理長を任せられる腕前ですが、最初に作った料理なんて料理とも呼べませんでした。
「料理長が地球で最初に作った料理ってなんだったんすか?」
サーモンのホイル焼きです。
「難易度高くないすか!?」
酷い物でしたよ、サーモンはぱさぱさ、骨だらけ。付け合わせの葉野菜やキノコは全て焦げている…と言うか全体的に大きかったです。
「大きい?」
サーモン丸ごとホイルに包んで焼いただけだったんですよ。
「切り身じゃなく!?てか今更ながら懐かしのサーモン!」
まぁ、もったいないので食べましたけど。
「食べたんすね!」
それから二人で修行に修行を重ね、料理長も高速…とまでは行きませんが解体もうまくなりました。なんの、とは言いませんけど。それから私は帰国、料理長は私の偽造したパスポートで日本に入りました。
そしてこのトラットリアを開いたのです。
料理長の調理の腕は、今や有名割烹やレストランが土下座をしてでも引き抜きたいレベルに達しました。それは君も良くご存知ですよね。それに知っての通り、とても店の役に立ってくださってます。
特にあの、触手が。
「そういや触手どうなったんすかね」
ガタッ、と。それまで新人のツッコミを受けながら、流暢に有り得ない世界を騙っていたギャルソンが席を立った。
「忍さん!触手冷えましたか!」
「忍…ああ、料理長の偽名」
「久しぶりに呼んじゃいました。う、わぁ…」
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