二品目『人気トラットリアの評判』(5)


「刑事さん、もしその噂が本当だったらどうなさるおつもりなんですか?」

「…自分の一存ではどうになりませんが…少なくとも先程の血液の件について詳しくお話しいただくことになります。本庁の方で」

「それも困りましたね。今日はとても忙しいのです。警察に赴いている時間は無いのです」

「そんな悠長に構えている場合ではありませんよ。それが断定されたら業務停止命令を即日にでももぎ取ります」

「それは更に困ります。何日も店を閉めていたら冷蔵庫の『食材』が暑さにやられてしまいます」


 なぜだろう、困る困ると言うわりにギャルソンから余裕が消えないのは。焦っているのはむしろ刑事の方に見える。

 『この店の行列に並んで姿を消した人間は、二度と帰ってこない』。その情報を口にした瞬間、一瞬ギャルソンの目に宿った暗い色の閃きが気になった。射貫かれる様な、探られる様な、そんな生易しいものではない。『獲物』を捉えた狩人の様な。それも、確実に獲物を仕留める歴戦の。

 『邪魔なものは消す』。間違いなくその色だった。


「そうですねぇ…。警察に赴いている暇はありませんので…ここで全てお話ししておきましょうか」

「え?」

「当店の秘密を全部暴露、ですよ。噂の真相も兼ねて、それを全てお知りになりたいのでしょう?」

「それは…そうです」


 開き直った、と言うより話の流れ上、当たり前と言いたげにギャルソンはそう口にした。刑事は拍子抜けしたように瞳を瞬かせ、それから真面目な顔に戻って頷いた。どこまで話してもらえるかはわからないが、話してくれると言うのなら聞くに徹しようではないか。その後は持ち帰ってどうとでも算段できる。


「全部本当のことですよ」


 腕を崩し、左腕をテーブルについて傾げた頭を支えるギャルソン。

 刑事はまた、ぽかんとしてしまった。全部本当のこと。全部。全部とは、今までのどこからどこまでを指すのか。


「順を追って肯定していきましょう。まず、家の店には毎日行列ができます。そして熱中症者も、倒れる方も少なくありません。倒れてでも家の料理を食したいと言うリピーターは沢山居られるので。一番最初の『行列に並んだものが姿を消す』。家はそう言ったお客様を放置することはしません。そういう意味では間違いはありません。お客様を道端に放置するわけにはいきませんから。回収して、目利きします」

「目利き?」

「はい。その倒れた方が『食材』にして大丈夫な人間か、鮮度はいかなものか、大丈夫ならば『食材』への加工。いわゆる仕入れから大まかな下ごしらえ。これは新人くんの担当です」

「人間が…食材だと?」

「ええ。その辺の一般人なら問題ありません。即、屠殺します。血抜きは動物なら何においても大切ですよ」

「とさ…!」

「まぁ、口を閉じて最後まで聞いて下さい。ですから『行列で姿を消した人間は、二度と帰ってこない』。これも事実です。まぁ、目利きに叶わなかった人間は適当に病院送りにしています。芸能人とか、政治家とか、消えると厄介な人々ですね。…そう言った方々から情報が漏れたようですね。笑えない悪評が立つのは大変困るので、そのアングラオカルトサイト、見つけ出して管理人は『食材』にします。これは決定事項です」



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