第29話 遊園地デート③
ソフトクリームを食べ終えた二人は、しばらく休憩した後に動き出す。
「つ、次はどこに行こっか……?」
「そうだなぁ……。お化け屋敷とか良いんじゃないか? 待ち時間もジェットコースターほどはないと思うし、ここのお化け屋敷は怖くて有名らしいぞ?」
「お化け屋敷……!? そ、それは……あの、なんて言うか……」
王道を取った和馬の選択に、紬は渋い表情になる。そして、その理由は至極単純なもの。
「もしかして怖いのか?」
「こ、こここ怖いわけないじゃんっ! わ、わたしはもう大学生なんだしっ!」
「紬がお化け屋敷程度で怖がるわけないよなぁー」
「だよっ!」
「じゃあ次はお化け屋敷ってことでいいか」
和馬にはどうしても仕返しをしなければならないことがあった。ご褒美をもらったとはいえ、半ば強引にジェットコースターに連れて行かれたあの件のことを……。
「ま、待って……! それはもう少し考えても良いんじゃないかな!?」
「考える?」
「そ、そう! お化け屋敷も良いと思うんだけど、もっと効率よく回れるところもあるわけだから……」
お化け屋敷をどうにか逃れようと動く紬を見て、お化けが怖いのだろうと確信する和馬。こうなってしまえば、もう逃げ場などない。同じ目に遭う他ないのだ。
「……今度は紬に悲鳴をあげさせてやる」
「目的変わってるよねっ!? 間違いなく変わってるよねっ!?」
「いや、紬とお化け屋敷を楽しみたいだけだ」
「絶対ウソっ! そ、それにカズマもお化けが苦手じゃないの!?」
「平気だが」
「へっ……」
「行くぞ」
「ひ、引っ張らないでぇぇぇ……」
お返しをするのはここしかない……。そう判断し、紬の白く細い腕を引っ張って、お化け屋敷に移動するのであった。
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「おいおい……。これ、思ってた以上だな……」
「そ、それはそうだよ……。さっき泣きながら出てきた人いたもん……っ!」
順番を待ち、そのお化け屋敷に入った途端に二人は足を止めた。
冷房を効かせているのか、内部はひんやりと肌寒く外からの光は完全に遮断されている。
唯一ある光は、人工的に作られたような赤い灯。その光ですら薄暗く、足元が見える程度だ。
入り口からこんなお出迎えをされ、お化けが怖くない和馬も少しばかり萎縮し……その一方でお化けが大の苦手な紬はもう限界を迎えていたのだ。
「って、くっ付くな……!」
「こ、怖いんだもん! 仕方がないのっ!」
「だいたいしがみつく場所がおかしいだろ!? なんで俺の腰なんだよ」
「ま、前が見えないようにだよ!」
紬は和馬の背後に隠れて腰に腕を巻いていた。その顔は和馬の背中に密着させた状態で、視界を遮るという最強の技までも使っている始末。
密着という普段出来ないことが簡単に出来ているのは、恐怖が羞恥を上回っているからでもある。
「だ、大体……前よりも後ろの方が怖くなるだろ。普通に考えれば、人を脅かそうとする時は背後からだろうし」
「じゃあ前に……っ!」
「前に行ったらお前……警察に連絡するからな」
和馬の背面から腰に抱き着いている紬だが、これが前になった場合…………ここでは説明出来ない体勢になるのは目に見えている。
「け、警察……ってば、ばかっ! こ、こんな場所でそんなこと言わないでよっ!!」
大学生にもなれば、その辺の知識は自然と身につくもの。その体勢がどんなものかに気が付いた紬は顔を真っ赤にしながら声を荒げた。
「いま俺が言わなければ、完全に前から抱き着いて来ただろ」
「してない! そんな言い方もしないでよっ! そ、それじゃあまるでわたしが、カズマのアレを求めてるみたいじゃん!」
「ならねぇよ!」
「ーーひっ!?」
それで唐突に悲鳴をあげる紬。紬の視線は和馬ではなく、その先を見つめていた。そ
こにあったのはーー
「ち、血だらけの藁人形……」
「これはリアルだな……。心臓から血が出てるし」
「な、なんでこんなのもがあるのよ……っ」
「流石は有名なお化け屋敷だな……。いろいろと凝ってるな……」
「もう先行くよ……! もうこれ以上見たら気持ち悪くなるからっ!!」
首を長くしながらその藁人形に近付いていく和馬の腕を引っ張って先を進もうとする。ーーその瞬間だった。
「ワァアアアアア!!」
背後から壁を突き破って出てくる人影。そして……その手に持っていたのはもう一つの血に染まった藁人形であった。
「ヒャァアアアッ!?」
「っ!?」
「もう嫌だぁ、嫌だあ!」
お化けが大の苦手な紬はもうパニック状態だった。和馬の腕を抱きかかえるようにして走って逃げる。
「お、落ち着けって! 深呼吸しろ!」
「出来ないよ、出来ないよっ!!」
「お、お前のが当たってんだよ……!」
和馬の腕を抱え込んでいるということはつまり……女性特有の膨らみがある部分に当たるわけである。
「あ、当たってる……って、ど、どさくさに紛れて何してるのっ!?」
「お前が自分から寄せて来たんだろうが!?」
そして、パニックになった状態で口論が始まった矢先だった。
「ワァアアアアア!!」
「ヒャァアアアッ!?」
「……ッ!?」
追い打ちを掛けるように二人目の脅かし役のスタッフが姿を現した。
「もう、逃げるぅ……! もういやだぁ!!」
「柔ら……って、落ち着けって!」
その胸の柔らかさを感じていたのは、もちろんお化け屋敷を出るまで続くのであった……。
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