第27話 遊園地デート①

「わぁぁ……な、懐かしい……」

「ここに来るのは数年振りだもんな……。今じゃ場所も広くなってるらしいぞ」

 無事に遊園地に着き、紬はキョロキョロと視線を彷徨さまよわせている。

 和馬の言葉通り、この遊園地に来るのは数年ぶり。小学校以来である。


「今日はいっぱい遊べそうだね!」

「とりあえずは見て回るか……。いっぱいアトラクションもあるみたいだし」

「うんっ!」


 ご機嫌に返事をする紬に、和馬も嬉笑を浮かべながら歩みを進めていく。 

 地面に映し出される和馬と紬の影は繋がっていた。それは、お互いの手はしっかりと握られている証拠なのだ……。


「……あ、分かってると思うが、お目当ての品を買うのは最後だからな?」

「お目当ての品?」

「今日はそのためにここに来てるわけだろ? ぬいぐるみとか」

「…………あ、ああ、そうだねっ!」


「今の間が気になるんだが……もしかして忘れてたりしたか?」

「わ、忘れるわけないじゃん! だ、だって今日はそのために来たんだし……!」

 なんて言うものの……紬は今の今まで忘れていた。舞い上がっていて忘れていたと言った方が正しいだろう。

 ぬいぐるみを買いに来たと言うのは口実……。本当は和馬と遊園地に行きたかった。この一心だったのだ。


「忘れてないならそれでいい。最初に買ったらお荷物になるからな」

「う、うん! ……あ、それで……カズマは何かプレゼントとか買うの?」

「俺は一人暮らししてるし、買うとしたら自分のだな」

「一人暮らしか……」


「そんな羨ましいもんじゃないぞ? まぁ、親にいろいろ言われることはなくなるが……」

 一人暮らしをすればもちろん、家事や料理など全て全て自分でしなければならない。今ではその生活に慣れた和馬だが、慣れるまで苦労したことは今でも覚えている。


「ひ、一つだけ聞きたいんだけどさ……」

「ん?」

「カズマに彼女が出来たとして……その彼女を家に上げたりする……?」

「そりゃあ、親に遠慮することもないから上げるとは思うが……」

「そ、そっか……っ」


 紬はそこで自然と笑みが浮かぶ。いや、誰だって浮かぶだろう……。

 家に上げられるということは、一緒に居られる……二人で居られる時間が作れるということ……。


 にやけてしまうのは仕方がない……。だが、その笑みは和馬に勘違いを産ませるものであった。


「おい、今失礼なこと考えたろ。『お前に彼女なんて出来るわけねぇから家に上げられることはねぇよ』って」

「そ、そんなこと思ってないっ! 逆にそう思われたら困るよ……っ!」

「困る……?」


「や、え、えっと……そ、それより! せっかく遊園地に来たんだから早く遊ぼ!」

 むむぅ……と難しく顔を変化させた紬は、不器用過ぎる話題変換を繰り出す。何か

 聞かれたくないことでもあったのだろう。


「……そうだな。時間を無駄にするわけにはいかないし」

「カズマ、最初は何に乗りたい?」

「紬に任せるが……絶叫系はやめてほしい」

「ほ、ほぉ……?」

「特に、急降下して浮遊感が生まれるやつは本当に無理だ。あれは人間が乗るもんじゃない」


 人には苦手なものが必ずある。和馬にとって一番苦手なのは絶叫系と呼ばれるアトラクションものなのだ。

 一度だけ絶叫系に乗ったことのある和馬の脳裏には、まだあの時の記憶が焼き付いている。……それほどにあの時の体験は強烈だったのだ。


「カズマって高いところが苦手なわけじゃないよね……?」

「ああ、絶叫系が無理なだけだ」

「えへへ、じゃあジェットコースター乗ってみよっか!」

「待て待て! 俺の話を聞いてただろ!?」


「大丈夫だよっ。ジェットコースターの事故率は車に4万回乗って一回起こるぐらいなんだから!」

「そ、そんなに少ないのか……ってそう言う意味じゃねぇよ。事故率以前に乗るのが無理なんだよ」


「楽しそうだなぁ……面白そうだなぁ……」

 紬が見上げる先には、超高速で進むジェットコースター。

『ギャアアアアア』とそのコースターに乗る人々の絶叫が聞こえているにも関わらず、何故か紬は宝石のように瞳を輝かせている。


「つ、紬……。冷静になれ。あれに乗ったら寿命が縮む……」

「逆を返せば、寿命が縮んでも乗る人がいるってことだから……物凄く楽しいってことだよっ?」

「や……それはえっと……」

 その言い分に反論の余地を絶たれる。


「じゃあ行っちゃおー! カズマが悲鳴を上げてる姿をいっぱい見るんだ〜」

「お、おいっ! やめろって!」

 紬は両手で和馬の片手持ちって、グイグイとジェットコースター乗り場まで引っ張っていく。


「もし、ちゃんと乗れたらご褒美あげるよ?」

「ご、ご褒美……?」

「うんっ、ご褒美。これでどう?」

「……もし、そのご褒美が本当にご褒美じゃなければ、俺キレるからな?」

「そ、その時は加減をお願いします……」

「……まぁ、そのご褒美の度合い次第だな」


『好きな人からのご褒美』

 そんな言葉を掛けられて、逃げるわけにはいかない……。


 だが、その選択は正しかった。そのご褒美は和馬にとっても紬にとっても甘いものになるのだから……。

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